第47話 どっちだ?
サハンの夜空を一体の竜が飛行していた。
『竜の魔王』の系譜であるその竜は平原を通過する際に『ルルベルの釜』によって亜空間が開く様を目撃する。
「……」
しかし、それよりも優先する事がある竜は『バーキ遺跡群』へと飛行して行く。
「誰……か。確かにお前からすればオレは眼中にないだろうな。だが、オレはお前に用がある」
「黙れぇ!」
ドレイクは『人型強化装甲』“飛行型”の『磁界制御』を使い、落ちた武器を周囲に引き寄せ。一斉にファウストへ切っ先を向ける。
ドレイクの怒りはディザロアが自分から離れた事ではなく、自分の言葉よりもファウストの言葉を優先した事だった。
「しゃーねぇな、教えてやるか! オレの正体は――」
ファウストは手を横にかざし、『人型強化装甲』を呼ぶ。しかし、何も起きない。
「……アリス? おーい、アリスさーん」
「死ねぇ!」
剣が一斉にファウストへ飛来する。
「ちょっ! ちょっと待て!」
ミサイルのように降り注ぐ剣や槍からファウストは生身のまま、情けなく走って逃げる。
「アリス! どこだ?! 早くしろ!」
と、進行を塞ぐように目の前に槍が突き刺さる。
「ワーオ……」
「さっさと消えろ!」
足の止まったファウストへ無数の武器が降り注いだ瞬間である。
『人型強化装甲』の腕部が飛来し、ファウストの腕に装着された。
「遅いぞ!」
『申し訳ありません』
装甲の着いた腕で飛来する剣を弾き、次に装着された脚部で槍を蹴り砕き、胴部、頭部と順次パーツが装着される姿は『人型強化装甲』に覆われて行く。
「! お前かぁ!」
ドレイクは『磁界制御』で存在する限りの武器を集めファウストへ向けて発射する。
「アリス。使い方を見せてやれ」
『了解』
雨のような武器はファウストの手前で不自然に停止する。
それはアリスの制御下による『人型強化装甲』の『磁界制御』。
出力はドレイクの方が出しているが、アリスは武器の一つ一つに適切な磁場を付与し、それぞれに意思を持たせるが如く制御する。
「はぁ?!」
ドレイクは自らの武器を逆にファウストに奪われて憤慨した。
どれだけ『磁界制御』の出力を上げてもこちらに戻ってくる気配はない。
「初心者め。その装備はオモチャじゃねーぞ」
今度はドレイクへ武器の群れが襲いかかる。ドレイクは回避行動を取るが、アリスによる行動予測は限りなく制度が高い。
故に避け続ける事は出来ず、即座に囲まれた。
「ああ! もう! 『衝撃装甲』!」
『飛行機関』を停止し、『衝撃装甲』で武器の囲いを排除する。
「そうなんだよ。『飛行機関』と『衝撃装甲』は併用できない」
『磁界制御』によって集めた武器を足場にファウストは宙にいるドレイクへ肉薄していた。
ドレイクは咄嗟に『飛行機関』を起動しようとするが発動しない。
「何で?!」
「安全装置だ。本体に『衝撃装甲』の振動が残ったまま起動すると機関を故障する可能性がある」
故に『衝撃装甲』の発動後は数秒のラグが生じる。
ファウストはドレイクの胴部に組み付くと、全身の推進バーニアを起動し急降下。
叩きつけるようにドレイクを地面に押し付けた。
「うぐ?!」
ドレイクは『人型強化装甲』の衝撃緩和値を越える威力に思わずむせ返る。
「過ぎた力を持つヤツは必ず足元をすくわれる。こっちの世界でもそれは同じみたいだな」
アリスは『磁界制御』にて周囲の武器を集め、ドレイクを動けない様に拘束した。
「…………」
ディザロアは倒れた『魔装甲』の部隊を見て、もう立ち上がることも出来ないと判断。
ファウストへ視線を送ると彼もドレイクを拘束していた。
「お……のれ……」
「まだ生きているとはな。その装備のおかげか?」
ディザロアは瀕死ながら言葉を話す事が出来るレイアを見る。
「お前は……生きているべきではない……『呪のディザロア』……お前の存在は……世界より忌むべき者……」
「……ああ。それは私もわかっている」
「ならば……今すぐ命を絶て!」
何度も言われた。お前は生きているべきではないと。その度に命を狙われ、何人もの家族を失った。
「こんな私でも、手を引いてくれた者がいた。慕ってくれる家族も――」
ディザロアはファウストを見る。
「肩を並べたいと思うヤツもな」
「……いずれ……『魔装甲』は……お前の『呪』を攻略する時が……くる……」
「それは好都合だ。世界中がそうなれば、私も忌み嫌われる事が無くなるだろうからな」
もう語ることが無いディザロアは事切れたレイアに背を向けるとファウストへ歩み寄る。
「ま、こんなもんだ」
ファウストは魔剣を片手にドレイクを見るディザロアに告げる。
「……ドレイク。言い残す事はあるか?」
「……は? 何それ。お姉ちゃん……違うでしょ? 前までのお姉ちゃんなら……すぐに斬り殺してたのに!」
関節部を押さえ込んだ力の入れようがない拘束は、どれだけ『人型強化装甲』の出力を上げようとも抜け出せることは出来ない。
「死ぬ前に一つ教えろよ。その装備はどこで拾った?」
「誰がお前なんかに教えるか! バーカ!」
「元気一杯だな」
ファウストは手間を省くつもりでの質問だったが、予想通りの答えに追及を諦める。
ドレイクが死んだ後に回収しアリスに解析させれば色々と判明するだろう。
「……終わりだ」
ディザロアは横たわるドレイクに逆手て持った魔剣の切っ先を向けて振り下ろした。
「――まだみたいだよ?」
その時、巨竜が場に重々しく着地し、発生した風魔法が全てを吹き飛ばす。
「!? シャロン?!」
「おいおい……」
このタイミングでの出現にファウストとディザロアは言おう無しに警戒するしかない。
「……どっちだ?」
敵か味方か。それによって戦局は五分に戻る――




