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兵士とAIの異世界帰還録  作者: 古河新後
1章 仁義と破壊の魔王
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第44話 戦局を読めるからこそ

 瓦礫の山に銃を持って潜む。

 最前線にいる兵士にとって情報は最も必要な事だった。

 特に平面でしか戦場を見ることが出来ない歩兵にとっては前に進む事でしか情報を集められない。

 総司令府では、そんな歩兵の生き死にや持ち帰った情報で前線の様子を知り、全体の戦局を計る。


 ネットワークが機能停止した事で始まった第三次世界大戦において、各国は旧時代の戦争知識と戦略を掘り返したが、対応できる将校はおらず戦争は日に日に泥沼と化していた。


 最前線で部下を率いるファウストは常に考えていた。

 目の前の瓦礫は自分たちに優位になるが、敵にも作用する。

 彼は敵を殺すよりも生き残る事に対して常に思考を割いた。

 銃を撃てば敵を殺せる。だが、そのリスクは位置を敵に知らせ隊全体を危険に晒す。

 前線の拠点には指揮する将校はいた。彼らは口癖のように敵を殺せと言う。


「やってらんねーな」


 戦場でのファウストの口癖だった。

 自分たちは(デコイ)だ。敵の位置を本部が把握する為の駒に過ぎない。


「マーク、そうビビるな」


 双眼鏡から目を外したファウストは散開し隊の中でペアを組んだ新入りの部下に声をかける。

 人手不足から別の大隊より歩兵に寄せられた兵士は多くいた。マークもその内の一人である。


「私は……パイロットになりたくて軍に入りました……それが……こんな最前線になんて……」

「お前が双眼鏡を使え。敵の位置が分かれば少しは安心できるだろ?」

「敵が近いんですか?!」

「ああ、一区画挟んで向こう側にいる。太陽の位置からレンズの反射に気をつけろ」


 ホレ、とファウストは双眼鏡を投げて渡す。

 隊は散っているが、傍受される可能性から無線の使用も出来る限り禁止している。


「隊長は恐くないんですか?」

「こえーよ。だからこうやって引き込もってるんだ」

「そ、それは……良いんですかね……?」

「別にお前らが気にする事じゃない。隊長(オレ)が良いって言ってるんだから良いんだよ」


 そう言いつつもファウストは戦場で一度も紐を緩めた事はない。

 様々な状況(ロジック)を常に頭の中で組み立て型にはまった時の最善手を常に用意している。


「……敵の位置が常にわかれば良いんだがな」


 そんな魔法のような技術があれば、すぐに最適解を導き出す自信があった――






 ファウストは現状をかなりマズイと感じていた。

 五体の『魔装甲』の能力。役割。

 号令や掛け声無しにカバーにはいる連携や、射線が重ならない位置取り。

 どれを取っても一流の部隊。元の世界なら勲章の一つを貰っていてもおかしくない程に練度が高い。

 対してこちらは一人。

 『人型強化装甲(アサルトフレーム)』によって耐える事は出来るがいずれ、限界が来るだろう。

 それでも、ダーレンと言う弱点はあった。ヤツを狙えば連携に隙が生じる。

 しかし、それも今や機能しない。


「……」


 ファウストは客観的に見て自らの敗北を悟る。

 状況を変えるには“他”を頼るしかない。


『危険です。ただちに退却を』

「ATB-7は行けるな?」

『はい。命令を待っています』


 その時、黒い光が視界の端に移る。それはディザロアから発生する彼女の感情を具現化した呪波である。

 『魔装甲』の面々は防御するように魔法陣を展開する。


「選手を交代する。しばらく、コイツらの相手は任せるぞ」

『了解』


 ファウストは敵に背を向けてディザロアに向かって走った。






 『呪のディザロア』。

 その名前は南の大陸でも恐怖の対象として知られている。

 何故なら、彼女によって呪われたある地域は未だにその呪いに蝕まれ、その地に入る生物を瞬く間に死に至らしめる。

 当人に会わずとも、ソレを見れば恐怖せざるえない。

 『竜の魔王』を狙う。それは『呪のディザロア』へ近づく行為であり、最も危険とされた。


 負の感情から放たれる大地を犯す呪い。

 ソレを“知る”のと“見る”とでは圧倒的に違った。


「総員、対呪術装備を解放。目の前の敵を討伐後、“バリスタ”にて『呪のディザロア』を討ちます」


 レイアの号令に総員が適切な行動を厳守する。

 今回の遠征での目的は二つ。

 『竜の魔王』と『呪のディザロア』、両名の排除である。

 南の大陸の恐怖の象徴。ソレを討つ事で『ヴォルスティン』はその力を南の大陸に誇示できる。

 すると、ファウストがディザロアに向かって走り出した。


 総員が一斉に攻撃を向けるが、ディザロアと射線が重なっている。

 今の呪波をこちらを向けられたら瞬く間に全滅する。


「攻撃停止! 私が拐う!」


 レイアは『風の魔装甲』でファウストをロックし魔法陣を展開――

 その時、横からATB-7がレイアに走行し、直撃した。


「?! なっ!?」


 無人で動いたATB-7に『魔装甲』の面々は驚愕するも、各々がカバーに入る。


煙幕弾(スモーク)


 ファウストに指示でATB-7から数発のグレネードが射ち上がると、幕をかけるように広範囲を煙で覆った。


「くっ、視界が――」


 レイアは『風の魔装甲』で煙を散らそうを魔法陣を展開するが、そこへ『人型強化装甲(アサルトフレーム)』が強襲。

 そして【放電射撃(スタンショット)】により、意識を消失させる。


「隊長!」

「フリッツ! ネロ! カバーに入れ!」


 『火の魔装甲』を装備したレクサスはレイアの側に寄り、『水の魔装甲』のフリッツと『雷の魔装甲』のネロが『人型強化装甲』をレイアから引き離す様に交戦を開始する。


 不馴れな煙下での戦闘。それはファウストの賭けにも等しい選択だった。


「世話が焼けるぜ。身体ばっかり成長した子供は」

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