第40話 幸せの否定者
その凶刃は何の前触れもなく放たれた。
両親に売られ、気まぐれで角を切られた『角有族』の少女をディザロアは奴隷商人達から解放した。
行く当ての無い少女を家族として迎え、皆の所に戻る道中、彼女はディザロアから渡された護身用のナイフを突き立てた。
右胸を刺され、困惑と激痛に身体が硬直しているディザロアの命を確実に奪うために少女はナイフを――
「ロア!」
その凶刃を代わりに受けたのはオーベロンだった。
ディザロアを庇うように刺されて崩れる様に倒れる。
「オ……ベロ……ン?」
「残念だなぁ♪ 皆、仲良く死ねたのにね。ロアお姉ちゃん♪」
ディザロアは倒れたオーベロンを抱き起こし、掌についた血を見る。何が起こったのかわからなかった。
「何故……何故だ! ドレイク!」
困惑にディザロアは怒りと悲しみの表情で少女――ドレイクに問う。
「理由? そうだなぁ……簡単に言えば期待外れだった事かな」
「期待……外れ?」
「そう。だってロアお姉ちゃん、幸せそうじゃない? ダメだよそれじゃ」
意味がわからない。ディザロアは目の前で起きた事実とドレイクの言葉がまるで理解できなかった。
「わたしは両親に裏切られた。遊びで角も切られた。それで、ロアお姉ちゃんが助けてくれて、これからきっと幸せになれるんだろうなって思ったら――」
ドレイクは心の底から嫌悪する様にディザロアへ告げる。
「全部、壊したくなっちゃった♪」
次にドレイクは嗤う。ナイフに残るオーベロンの血が地面に滴り、一歩前に出る。
すると、ドレイクの目の前に『オーバーデス』が突き刺さった。
「……ドレイク……お前は!!」
「アハハ! そう! それだよ! ロアお姉ちゃんは産まれついて呪われてるんだから……ずっと不幸でいなくちゃ! 代わりにわたしが死ぬまで付き合ってあげる♪」
ディザロアの『呪魂』が強くなる。その様を見てドレイクは心の底から楽しそうに嗤った。
「どう? 痛む? わたしがつけた、右胸の傷は♪」
ディザロアは“飛行型”『人型強化装甲』にて宙から見下ろしてくるドレイクに対して魔剣を握る手が無意識に強くなっていた。
「知り合いか?」
異常なまでに感情を剥き出しにするディザロアにファウストは落ち着かせる意味でも質問した。
「むかーし、むかし。あるところに一人の“呪われた少女”が居ました」
ディザロアの代わりに応える様、ドレイクが語る。
「少女は両親を自らの呪いで殺し、育ての親も殺してしまったのです。その後、少女は大人になりながら、新しい家族と幸せを求めて旅をしました」
ドレイクは向けてくるディザロアの殺意を受け止めながら楽しそうに続けた。
「しかし、彼女の“呪い”は直接的に他を殺すだけではなく、間接的にも多くの命を奪うのでした。その証拠として彼女は何人もの“家族”を失い、その内の一人は助けた少女に――殺されましたとさ。おしまい♪」
挑発による怒りが最高潮に達したディザロアはドレイクに対して魔剣を投擲する。
「アハハ♪」
ドレイクは頭部を閉じ、泳ぐような動きでかわす。
その背後にディザロアが引き寄せた魔剣が襲来するが、見えている様に身を翻してかわした。
「ドレイクゥゥ!!」
ディザロアは魔剣を手に戻すと“呪波”を乗せつつ振り抜く事で剣線の引き伸ばす。
「フフ。ダメだよ、全然ダメ。そんなんじゃ当たらない♪」
海中を泳ぐ魚の様にドレイクはディザロアの攻撃をかわしていた。
そして、引き離れる様に移動し、ディザロアはそれを追う。
「ディザロア! 待て――」
まるで周りの見えていないディザロアを制止しようとするファウストへ攻撃が向けられた。
「ったく! まだ見てろよ!」
推進バーニアを使い、移動しながら飛来する火球を避ける。
『地質が変動しています』
アリスが周囲の状況を表示した。
水により湿る地面が所々に出来ている。これは推進バーニアでの移動を阻害する為のモノ。
「嫌な予感だ」
すると、真横から唐突に衝撃を受けた。まるで巨大な拳に殴られた様な衝撃に吹き飛ばされる。手をついて屈んだ姿勢で着地する。
「今のは?!」
『超高密度の『空気』をぶつけられました』
警告。ファウストは背後から向けられた、電流を纏った拳を身体をひねってかわす。
その反動と脚部の推進装置で勢いをつけ、宙を回りながら襲撃者に蹴打を叩き込んだ。
「何でわかった?」
襲撃者は疑問の声を出す。乗用車なら軽く吹き飛ばす膂力を受けたにも関わらず腕をガードするようにクロスして僅かに下がっただけだ。
「イカした装備だな、おい」
それは全身を覆う金属の鎧。
甲冑を元にしたデザインであるものの、先程の攻撃を容易く耐えた様から、単なる鎧と言うわけでは無さそうだ。
『各々が別々のエネルギーを扱えると思われます』
「恐らく切り替えは出来ない。役割は近接、中距離、支援に分かれてる筈だ」
『了解。分析します』
僅かな攻防でファウストは敵の特性と大まかな役割を推測する。
目の前の“雷”は言わずとも近接仕様。ヴォルトの様に電位だけなら手は無くもないが……
「援護が欲しい」
『サハンに期待しますか?』
「いや……」
サハンにはやるべき事がある。ここに竜が居ないと言う事はそれが進行している証だ。
「ファウスト・フレデリック・ゴードン!」
その声は明確にファウストの耳に入る。
「嫌な予感が当たったな」
目の前に対峙する『雷の魔装甲』の背後から現れた『大柄の魔装甲』。
それを着けたダーレンは前に出てくると顔を晒した。




