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兵士とAIの異世界帰還録  作者: 古河新後
1章 仁義と破壊の魔王
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第39話 ルルベルの釜

 『バーキ遺跡群』。

 かつては古石によって造られた建物が立ち並ぶ遺跡都市であったが『人魔大戦』の際、『歪の魔王』と破壊の竜の戦いによって更地となった。

 今では所々に折れた石柱が点在し、その広い空間の中心地にはポツンと一つの祭壇が存在する。


 聖遺物『ルルベルの釜』。


 フリーレリアに存在する【レリアの秘宝】の一つとされ『歪の魔王』は代々これを継承していた。

 その力を全て把握するのは『歪の魔王』のみ。そして、当代は1万年前に途絶えた事でその全容を知る事は不可能となる。






 夜空を照らす四つの惑星はフリーレリア特有の光景であった。


「……ふん。所詮は錆びた封印よ」


 祭壇に施された封印である『幻影陣』の魔法陣がゆっくりと消えて行く。


 あらゆる現象に別の要素を割り込ませる『(スパイク)』と『魔装甲』による解析処理の組み合わせは、数ヶ月を要する『幻影陣』の解除を僅か1日足らずで完了した。


「流石です。ダーレン様」

「うむ。そして“釜”よりも良いデータが取れたわ!」


 ダーレンは『ルルベルの釜』よりも、『楔』の実用データが更新された事の方が収穫であると上機嫌である。

 そして、祭壇に置かれる様に現れた『ルルベルの釜』を手に取った。


「……ふん。仰々しく護られていた割には大した力は無さそうだ」


 それでも『ヴォルスティン』のトップが求めている物の一つでもある以上は確実に持ち帰らなければ。


「ダーレン様。こちらに向かう“音”があります」


 配下の一人が地面に手を当て、近づいてくる振動を検知していた。

 ダーレンは自らの『魔装甲』に『ルルベルの釜』を格納する。


「数は?」

「……よくわかりません。馬の蹄でなければ、人の足踏みでもなく……車輪の音に近いです。しかし、二輪な上に速度が異常です」


 不思議がる配下達にただ一人、ダーレンだけが意味深に笑っていた。


「総員、連携に移れ! 敵は単独、多くても二人だ! ドレイク! どこかで見ているだろう?! 貴様が奴らの出鼻を挫け!」

『いいよ』

「視界に入ります!」


 森を下り、姿を表したのは一台の二輪車(バイク)。それが、音もなく高速で祭壇を目指して突っ込んで来た。






「……サハン。『ルルベルの釜』か」


 『未来視の魔王』は壁に貼り付けられた無数の紋章の内の一つが消えた様を見ていた。

 それは世界中を旅して彼が要所に施した封印。今回消えたのは『サハン』にある『幻影陣』の紋章である。


「お疲れ様です、魔王様」


 臣下の女騎士が本日の業務の終わりを告げに訪れた。


「どうされました?」

「『草原の国(サハン)』の陣が解かれた」

「サハン……『ルルベルの釜』ですね。直ちに『疾風騎士』を派遣いたします」

「必要ない」


 そう言って『未来視の魔王』は未来を視る瞳を臣下に向けた。


「出過ぎた発言でした。申し訳ありません」

「今日は休む。指示を出すまで各々の業務を続けるように」

「わかりました」

「……枝が増えている……か」


 『未来視の魔王』は今夜の結末があまりにも多すぎる事に『太古の人エンシェント・ヒューマン』が近い位置まで迫っていると感じていた。






 森を抜け、石柱跡の残る平原は過去の戦争で凹凸が生まれている。


『敵は展開しています』


 それは既にわかっていた。しかし、それでもATB-7の走破は止められるものではない。


「“釜”の様子は?」

「……祭壇から魔力の反応は感じられない」


 視界をズームし、ファウストも直接確認するが、祭壇には何も存在していなかった。

 その時、警告(アラート)が鳴る。


「ディザロア、振り落とされるなよ」


 放射状に上空から頭部サイズの火球が降り注ぐ。

 着弾予測地が表示され一時的にATB-7の主導権をアリスに譲渡。無駄のない速度と操作でかわしていく。


「ファウスト、奴に寄せろ! 私が斬る!」


 ディザロアは火球を放つ敵を視認していた。


「ダメだ! 敵の間隔が離れすぎてる!」


 ディザロアと違い、ファウストは戦場全体の敵の位置を捉えている。

 どれかに時間をかけると他が援護に届く理想の采配。随分と嫌な配置だ。


『正面来ます』


 今度は正面の地面が盛り上がり土砂が覆い被さるように影を作る。


「やべ」


 判断がコンマ遅れた。速度を落とし、推進バーニアで直角に進路変更しようとした時、


「そのまま進め」


 ディザロアが『オーバーデス』を振るう。剣の攻撃距離(リーチ)を越えた一撃は土砂を縦に割った。

 その隙間をファウストは突き破るように抜ける。


「そんなこと出来るなら言ってくれよ」

「出来ないとは言ってない」


 いつかの問答の返しを受けたようにファウストは苦笑する。


「アリス、各個撃破に切り替えるぞ。ディザロア主体に、このまま敵を殲滅する」

『了解』


 その時だった。車体の切り返しに速度を落とした所を完璧に狙われる。

 アリスは反応し警告を鳴らすが、ファウストとディザロアでは反応しきれない。


 それは姿を消した『人型強化装甲(アサルトフレーム)』の強襲。側面からの蹴打にATB-7は横転し二人は地に投げ出された。


「やってくれるぜ……」


 ATB-7は横倒しで滑り、ファウストとディザロアも地面に転がった。


『居ます』


 アリスは宙で制止する『人型強化装甲』を表示する。


「無駄に隠れんな。見えてるぞ」

「っ痛……」


 ディザロアも吹き飛ばされた衝撃から回復し、ファウストから少し離れた位置で敵を確認する。


『………フフ。あはは。アハハ! やっぱりもうダメ!』


 すると唐突に笑いだした。そして襲撃したアンノウンは姿を現し、頭部を解放して素顔を晒した。


 幼さの残る表情だが、言動や衣服によっては大人にも見える中間の表情をしている女だった。


「ちっ、やっぱり『飛行機関(フライトユニット)』か」


 ファウストは女の顔よりもその装備に注目する。


「アリス、性能分析。あの装備は何%まで機能――」


 そのファウストの横をディザロアは『オーバーデス』を片手に前に出た。


「……よく……よくも……その顔を私の前に出せたな……」


 その口調から底の無い怒りと殺意をファウストは感じ取る。


「ドレイク!!」

「フフ……久しぶりだね。ディザロアお(ねい)ちゃん♪」


 『人型強化装甲』を身に纏う『角有族』の女――ドレイクはディザロアの怒りと殺意を心地よく感じ、嗤った。

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