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兵士とAIの異世界帰還録  作者: 古河新後
1章 仁義と破壊の魔王
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第38話 ATB-7『局地攻略自動二輪』

「貴方が私に会いに来る意味は昼間にあった竜の襲来と関わりがあると言っても?」


 夕焼けに染まるサハン城。

 スーランは事後処理を行っている広場でサハンと対面していた。


「うん。スーラン、力を貸してほしい」

「出来れば応えたいですが……今の時期はどの部族も忙しいのです」

「“釜”が『ヴォルスティン』に狙われてる」

「想定しています。現に昼間に使者が来ました」


 南の大陸を二分する内の一つ――共和国『ヴォルスティン』は軍事国家である。


「不穏な発言がありましたので“釜”の守護を増員しました。近くの部族に伝令を出し、今は30人にて警護に当たっているハズです」

「もしかしたら、それじゃ足りないかもしれない」

「確かにバーキ遺跡群は『騎馬連隊』の機動力を生かし辛い地形ですが国内に居る『ヴォルスティン』の数は15にも満たない。報告では国境で8人を確認し、残りは7人です」


 その程度では30人の戦士を抜く事は不可能だと、スーランは推測していた。

 すると、部下が新しい情報を持ってきたのか少し慌てて駆けてくる。


「どうした?」

「大変です! 団長! バーキ遺跡群にて『騎馬連隊』30は敗走しました!」

「なに?! 死傷者は!?」

「幸いにも死者はいません。ですが、敵の推定戦力は120と報告が来ています」

「伏兵でも潜んでいたのか?!」

「いえ……報告では敵の数は6人だけと……」

「……狼煙を上げろ」

「は、はい!」


 スーランの指示に部下は駆けていく。


「これより『騎馬連隊』の精鋭を持ってバーキ遺跡群に向かいます」

「足りない。全部部族に声をかけた方が良い」

「……そこまでの事態なのですか?」

「何か起こってからじゃ遅いんだ。最悪の未来を想定しておかないと取り返しのつかない事になる」


 サハンの必死な様子にスーランは少し驚いた。


「何か心境の変化がありましたか? いつもより感情的な様子ですが」

「え?」


 サハンはスーランに言われて初めて気がついた。命が限られているからこそ、この感情があるのだと――


「……そっか。クェン、君が言っていた意味が少しだけ解ったよ」

「一緒に行きますか?」

「いや……ボクはやらないといけない事がある。それに先駆けは既に出てるから戦力は確実に集めて」


 ファウストとディザロアは現時点でサハン城を発ち、バーキ遺跡群へ向かっていた。






 それは殆ど音を立てなかった。

 僅かな駆動音だけを響かせ、風を切るかの様に大地を疾走する。

 野生動物も魔物も、見たことのない速度で移動するその乗り物に反応する間もなく、通り過ぎてから慌ただしく逃げ回った。


 『局地攻略自動二輪』ATB-7。


 それは『人型強化装甲(アサルトフレーム)』の作戦行動を補佐する為に開発された二輪車(バイク)である。

 前に屈む様な姿勢で搭乗し、最高時速(フルスロットル)は350キロを越える。

 搭載された四つの内臓武器は『人型強化装甲』と連結し、アリスにより効果的な状況展開(パフォーマンス)を可能とする。


 荒地、氷地、盆地、水上、月面と、平地であれば走れぬ箇所はない。

 山道を休みなしに越える馬力、近い島々なら海を渡ることも可能。

 ムーンストーンを混ぜた最新の繊維で造られたタイヤは弾丸を受けても損傷(バースト)しない強度を持つ。


 あらゆる欠点を限りなく修正し完成(ロールアウト)された最新型――ATB-7は国境を越える任務では『人型強化装甲』と共に出撃する事も多く、その戦略性は戦闘ヘリを大きく上回っていた。






「ファウスト、ちょっと止まってくれ」


 ファウストの運転するATB-7の後ろに乗っていたディザロアは山に差し掛かった際に声を上げた。


「どうした? これから本命なんだが」


 ディザロアはヘルメット代わりに借りた頭の甲冑を外し、ATB-7の後ろから降りる。


「疲れた。ずっとしがみ付くのも意外と体力を使う」

『ATB-7の長距離走行は『人型強化装甲(アサルトフレーム)』の装着を想定しています』

「長距離で人を運んだ事はないからなぁ。だが身体の構造は生身のオレよりもずっと頑丈だな」


 本来なら何度か休憩を挟む必要があったが、ディザロアが何も言わないのでノンストップで山の前まで最高時速で来たのだ。


「なんと言うか……お尻の方が痛い」

「見てやろうか?」

「それ以上近づくと『破壊』の呪いよりも先にその首が飛ぶぞ」


 究極の二択だな。とファウストはスタンドを立ててATB-7を停めると自分も下りた。


「少し休むか。アリス、警戒モード」

『了解』


 ファウストは『人型強化装甲』を着けたまま、頭部箇所のみ解放する。


「それにしても、地図も開かずによくここまで最短で来れたな」

「まぁ、ATB-7のお陰だな。こいつは『人型強化装甲』と連携することで半径五キロを常にマッピングしながら進める」


 本来ならそんな必要もないのだが、この世界には衛星がない。故に平面での情報収集を余儀なくされているのである。


「お前の世界はつくづく恐ろしいな。こんなのがゴロゴロあるんだろ?」

「まぁな。けど、そんなに怖いもんじゃない。秩序は一度リセットされたが、結果として前よりも安定してる」

「ハン組長でもそっちに現れたのか?」

「ハハ。そんなレベルじゃなかったな」


 “もしも、この世界を構築するのが複雑に要り組んだネットワークだとしたら……それが潰えた時、世界は互いを信じる心を失うだろうね”


 それはアンバー・ストレンジの言葉。結果として世界からネットワークが消え、第三次世界大戦が始まったのである。


「ある日を境に世界中が疑心暗鬼になった。隣人が隣人を疑い、互いに武器を向けあって遂に一つの国がソレを振り下ろした」


 時代は数世代逆行し、銃と爆弾の戦争は余りにもアナログで、誰もが正確な情報を掴めなかった。


「……でも、お前は生き残った」

「オレだけだ。それに上の人たちも頑張ってくれたからな。戦い事態は五年で終わったよ」


 それでも十年以上は戦っていたと錯覚する程だ。

 互いに憎い訳じゃない。けど、銃を持っているなら撃たなければ撃たれる。


「誰か止めなきゃいけなかった。そして、その決断を下したのが……オレの国だった」

「それでコレが造られたのか?」


 ディザロアは『人型強化装甲』とATB-7を見る。


「いや、この装備が造られたのは戦いが終わってからだ」


 そろそろ、尻は大丈夫か? とファウストは立ち上がる。


「後ろに乗るのは後一回だけにしておきたい」

「なら山の頂上までは徒歩で行くか。アリス、周囲警戒を維持。山は敵の手が入ってるかもしれない」

『了解』


 ATB-7を押しながら、通れそうな山道を進むファウストの背にディザロアは続く。

 天に存在する昼下がりの陽日が少しずつ地平線へ動いていた。

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