第37話 インターバル
サハンから事の顛末を全て聞き終えたファウストとディザロアは、全ての情報を統合し今回の件の真実を明確にした。
「今回の件は全部ボクが原因だ」
サハンも二人から『竜王会』で何が起こっているのかを聞き、同様に事の真意を理解する。
「……それでか」
ディザロアはリーが気にしていた事を思い返す。ファウストは無言で全てを聞き、
「確かに原因はお前だが、悪いのはお前じゃない」
「……違う。ボクの迂闊な行動が『竜の魔王』と『草原の国』を危険に晒してしまった」
「違わねぇよ。お前は当然の悩みを抱えて、それに正面から向き合ったんだ」
ファウストはサハンは何一つ間違っていなかったと思っている。
「オレは暇してるからその手の相談はいつでも受け付けるぜ」
ファウストの言葉は罪の意識に苛まれるサハンの心を幾分か楽にした。
「何にせよ問題はこれからだ。この件で『竜王会』の援護は貰えない。私たちだけで事を納めなければ」
「ごめん。ボクがちゃんとしていれば……」
「だから気にするなって。オレは最初からそのつもりだったからよ」
ディザロアは『草原の国』の地図を広げ、現在地である『サハン城』を指差す。
「ここが現在地だ。竜は北東の方角に飛んで行ったな」
ディザロアはサハン城から、なぞるように北東にある山を越えた先――遺跡群を指差した。
「ここは『バーキ遺跡群』だよ。昔、『歪の魔王』が居た場所で、聖遺物の“釜”がある」
「敵の目的がわからんな。狙いを二度も外してる所を見ると相当焦るものだが」
ファウストは直感的に敵の意識はこちらに向いていないと感じた。
「“釜”は『歪の魔王』が力を使うための使ったアイテムだ。もし蓋が開けば世界が歪み、崩壊する」
「どれだけヤバい?」
「『歪の魔王』は1万年前にほんの少し“釜”の蓋をずらしただけで草原の理を容易く歪めた」
「パンドラの箱かよ。この国にそんなものがあったことに驚きだが」
「なにその、『はんどらの箱』って?」
「パンドラな。オレの世界のヤバいアイテムだ。開けると世界が滅ぶって言われるお伽噺。けど“釜”の話は本物だな」
『竜の魔王』と言う生き証人が居る以上、冗談としては受け取れない。
「そもそも何故『草原の国』にそんなモノがある? ハン組長は知っているのか?」
「うん、知ってるハズだよ。この国にある方が良いんだって」
「なぁ、ディザロア。このネタで『竜王会』を動かせないか?」
「……無理だろう。『竜族』の価値観は大雑把だ」
どの種族よりも永く生き、強靭な身体を持つ彼らは危機感の概念が大きく異なる。
故に未遂では彼らは動かない。
「それにハン組長がこの件をお前と私に一任してる。彼は一度出した言葉を曲げることはしない」
「良くも悪くもか……『義』ってヤツも搦め手には融通が効かねぇな。世界が滅んでも知らねぇぞ」
『大尉。プロテクトを解除しました』
「おお、やったな」
ファウストはアリスに任せていた別件が上手く行った事に喜ぶ。
「さっきから彼女に何をやらせていたんだ?」
「オレの世界じゃ地上だと馬よりも速い乗り物があるんだ。それが“アレ”だ。少し休んだら出発するか。ここからなら1日あれば着くだろ」
「さっき『騎馬連隊』本部にあったヤツか? あんなのが馬よりも速いのか?」
「ああ。凹凸の激しい局地は勿論、水上も行ける最新型だ。燃料は電気で環境にも優しい」
ファウストは自分に残された時間からこの手段が無ければギリギリになると思っていた。
「何にせよ、こっからはオレらのターンだな」
同時刻。バーキ遺跡群、“釜”の祭壇前。
「退却だ! 総員、退却!」
“釜”を守護する為に増員された『騎馬連隊』を前に襲撃してきた敵は余りにも規格外だった。
敵の数はたった6人。その程度の少数に30人の守護隊は退却を余儀なくされたのである。
「追撃はどうします?」
「ふん、捨て置け。時間の無駄だ」
例え100人で来ようとも、あの程度の装備では『魔装甲』を破ることなど出来ない。
「ダーレン様。見つけました」
「隠す気もないか」
目に見える祭壇に安置されている“釜”。
誰でも手に取ることが容易い程に、無防備だった。
しかし、
「む?」
ダーレンが“釜”に触れると、すり抜けてしまう。
「……幻影陣か。面倒なモノを」
それは『未来視の魔王』が施した封印。
祭壇そのモノが魔法陣として機能し、その中に存在するモノを空間からズラして表示させる高度な封印である。
「何故このような事を。破棄するなり、隠すなりすれば良いのでは?」
「恐らくコレは餌だ」
“釜”を狙いに来る勢力を排除する為のモノ。故に解除に数ヶ月を要する『幻影陣』を敷いたのだ。
「だが……“釜”による内側の力と、永きに渡る外側の綻びで封印は当初よりも脆弱になっておるわ」
ダーレンは数週間前に“釜”が開きかけた情報を入手している。
つまり、その時この場に“釜”は出現していたのだ。そして、
「この未来を観ておるか『未来視の魔王』よ。我らの技術は貴様らの古びた封印など二日とかからんわ!」
ダーレンは一つの宝石を取り出す。人工的に造られた宝玉が嵌め込まれたブローチである。
それはダーレンが持ち合わせる技術をこの世界の技術と統合して造り出したモノ。
「『楔』を使う。各員、配置につけ!」