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兵士とAIの異世界帰還録  作者: 古河新後
1章 仁義と破壊の魔王
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第35話 落とし前

「本当に心配したのよ」


 孤島にて、ライザーハンの車椅子を押すリーは彼の無事に心底安堵していた。


「ワシが死ぬわけなかろう? 何よりお前を残して死ぬものか」

「それでも……絶対はないわ。私たちはあの子たちを失ったじゃない」


 それは二人の娘夫婦の事である。彼らは『草原の国(サハン)』を護るために死去していた。


「落とし前のつけどころを誤ったわい。『波の魔王』は『太古の噴火エンシェント・ボルケーノ』に殺られてしもうたし」

「お願いだから、無茶だけはしないで」

「安心せい。現場は若いヤツらに任せておるわ。それにシャロンの奴が垢抜けたら立場を譲る予定だ。まぁ、後1000年はかかるだろうが、その後は死ぬまでお前と一緒にいる」

「……シャロンとは話をしたの?」

「アイツが連絡を絶つのはいつもの事ぞ。心配するだけ損をする」

「聞いてないの? ロアは『サハン』へ行ったそうよ。何でも、貴方の大切な物が二つあるとかって」

「ほう。それもあの『人族』の発言か」


 『竜王会』の持つ情報を全て提供した後、しばらく引き込もっていたようだったが、ふとしたら孤島から姿を消していた。


「ホンの奴に一度だけ、好きな場所に運ぶように言っておいたからのう。それにしても『サハン』か」


 あの地は全てシャロンに任せている。それにしてもこちらの提供した情報だけで、そこまで突き止めるとは。


「全くもって面白い」


 ライザーハンは上機嫌だった。

 孤島に居た『太古の原森』が消滅し、今回の犯人も手に入るからである。


「傷は大丈夫?」

「治癒は進んでおる。後、一年もすれば元通りだ。ガリアに借りが出来たわい」


 事が起こる数日前にライザーハンは気まぐれで古き友の元を訪れ、酒を飲み交わしていた。その時に助言を受けたのである。


 “近いうちにある、身内よりも他人の多い祭事には背後に気をつけるといい”


「そう。お父さんが」


 リーは念話も聞こえない程に遠くの地にいる父に夫を助けられたと改めて感謝した。


「オヤジ。状況が解りました」


 すると、ホンからの念話を受けたチャンが報告に訪れる。


「どうだった?」

「予想以上でした。タイミングは今が良さそうです」

「そうか。シイ!」


 ライザーハンは孤島のメンバーと一緒に麦わら帽子をかぶって畑仕事を手伝っていたシイを呼ぶ。


「行くっすか? ウチ、『雲の魔王』見るの初めてっす!」

「おう。リーと代われ」


 ワクワクした表情のシイを、気を引き締めろ、とチャンが諌める。


「あなた……」

「心配するな。まずは話し合いをする。仮にもし戦争になっても、あのガキに遅れはとらん」


 名残惜しそうに車椅子から手を離すリーに心配をかけまいとライザーハンはいつものように笑った。


「行ってらっしゃい」

「おう。落とし前はきっちりつけるでな」


 ライザーハンは最も力を貰える掛け声を背に受ける。

 ホンの残していた魔法陣から光の柱が上がると、その中に三人の竜族は消えた。


 目的地は『雲の魔王』が管理する首都『天空の都』。

 『竜の魔王』はヴォルト襲撃の件に落とし前をつける為に『雲の魔王』へ、一方的に会いに行ったのだった。






 時は少しだけ遡る。

 ウォルターと共に孤島から帰還したヴォルトは『虚無』にて『雲の魔王』と対面していた。


「陛下……」


 『雲の魔王』は雲海に刺さる1本の剣の前に置かれた椅子に座って背を向けている。

 その背にヴォルトは頭を垂れた。


「此度の件、このヴォルトの不手際によるもの! いかなる処罰も受け入れる所存です!」


 その発言に恐れは何もない。例え、この場で消滅を促されようとも異議なしに受け入れるつもりだった。

 それ程に、自らの王を心配させたと言う自念は罪深いと感じている。


「『ソーラー』は“呪いの子”が持っていたのですね」

「ハッ!」

「今回の件は私の落ち度です。己が想を重視した為に貴方に危険な行動を取らせてしまいました」

「そんな……陛下は何一、間違っておりませぬ! このヴォルトが――」


 『雲の魔王』は椅子から立ち上がるとヴォルトの前に立ち片膝をついて肩に手を当てる。


「私は家族を失いました。ヴォルト……私はこれ以上、大切な貴方達を失いたくありません」

「陛下……」


 その身が無事であった事を何よりも安堵する『雲の魔王』にヴォルトは感極まり、まともに顔を上げられなかった。


「しかし、他への示しもあります。罰は受けて貰います」

「ハッ! 何なりとご命令を!」

「貴方には100年の間、『天空の都』の守護を命じます。私の許可したモノ以外の侵入者を全て排除しなさい」

「――必ず……必ずや陛下の期待に応えて見せます!!」

「その『忠義』、何よりも信じていますよ」


 ヴォルトは即座に人の形を崩すと、『天空の都』を中心に渦巻く、積乱雲へと移動して行った。






「なにそれ。ヴォルトにとってはご褒美じゃん」


 『雲の魔王』に対し揺るぎ無い『忠義』を示すヴォルトに取って、その身を護るように命令される事こそ本懐であるのだ。


「ウィンド、貴女には無理でしょう」


 それは与えられた形を崩し、属性(エレメント)そのモノになり続ける事を意味する。

 ウォルターからヴォルトがどうなったのか聞いた少女――ウィンドは肩透かしを食らったように飴をくわえていた。


「陛下が自らの“答え”を見つけるには永い時がかかります。貴女も陛下の目が遠いからと言って好き勝手しないことです」

「別に陛下の意向に反するつもりはないよ。でもさ、陛下に会えないのちょっと堪えるかな」

「その件は私の方で進言しておきましょう」

「本当? 助かる~」


 この200年、祭事以外には出てこない自分達の主とは『属性人(エレメンター)』でも滅多に会えないのだ。


「アースさんは下だし、ていうかフレイは放置でいいの?」

「彼は今どこに?」

「アースさんと同じく下だよ。今は冬だから、色々と頼られてるみたい」

「“バベル”の調査は終わったようですし、必要であれば陛下から勅命が下るでしょう。それよりも、今は備える時です」

「ああ、そっか。手を出したんだっけ? 『竜の魔王』の領地に」


 ウィンドは久しぶりに【五天陣】が力を発揮する事案が迫っている嬉しさに思わず飴を噛み砕いた。


「あ、そうだ。下に妙な“鳥”が落ちてきたって騒いでたよ」

「鳥ですか?」

「そー。何か全部金属で出来た……アースさんが言うには“ひこうき”って名前の鳥だってさ」

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