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兵士とAIの異世界帰還録  作者: 古河新後
1章 仁義と破壊の魔王
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第29話 プロファイリング

 フリーレリアにおいて、古くから存在する国は片手で数える程しかない。

 戦争、代替わりの失敗、内乱など、理由は国が滅びるには良く聞くモノばかりだ。

 一万年前の『人魔大戦』後、世界は荒れ果て、秩序の無い混乱の時代が到来した。

 その頃から現在まで存在する国は、他の届かない場所にあるか、『魔王』の庇護を受けているかの二択である。


 草原の国『サハン』は、大陸でも穏やかな気候が生み出す草原に包まれた国であり、『竜の魔王』が最も古くに契約した国でもあった。






 『サハン』の都市間を行き来する定期便に揺られるディザロアは目深にフードを被り、荷台に座っていた。

 客は彼女の他に一人だけである。


「その性格だといつか死ぬぞ」

「ハハ、良く言われる」


 ディザロアは正面に座る男――ファウストに呆れていた。

 ファウストはアイガードのみを装備し、他のパーツは近くの木箱に入れて生身である。


『ワタシもそう思います』

「なんやかんやで生き延びてるんだ。この世界でもオレの悪運は機能してるとみた」


 アリスの声が聞こえるようにディザロアには目立たないインカムを耳に着けて貰っている。


「ハン組長に怒りを向けられて、生きているだけでも奇跡だ」

「オレはいけると思ったぜ? 何せ偉大な王だ。言葉の真意くらいは察してくれると確信してた」

「だが、全てを許容した訳じゃない」

「ああ。だから、お前がお目付け役で居て、オレには首輪(・・)が着いてる」


 ファウストの首には『竜の魔王』の『破壊』の呪いがかけられていた。

 竜の鱗のような刺青は、ファウストに与えられた猶予期間を指している。


「猶予は二週間。『竜王会』の情報をまとめた結果が『草原の国(サハン)』か?」

「まぁな」

『情報の精査に一週間、移動に2日かかっていますので、残りは4日と12時間です』

「移動には文明差を感じざる得ないよな」

「呑気なヤツだ。残りは4日でお前の首は吹っ飛ぶんだぞ?」


 ファウストの言葉をライザーハンは信じる決断を下した。しかし、逃げる可能性は0ではない為に『破壊』の呪いをかけたのである。

 この呪いは時限爆弾のようなモノで、かけてから二週間で炸裂する。

 解く事はほぼ不可能であるが、何らかの偶然が重なり、解除される可能性はある。

 その為、ディザロアにファウストが死ぬまで監視を命じたのであった。


「目的のモノを見つけるには痕跡のつなぎ合わせにあるんだ。何でもない物事が裏で繋がっている事は珍しくない」


 『竜王会』は膨大な人員を要するが、その全てが直接的な確認ばかりだった。

 彼らの捜しかたは、居るか居ないかの二択。

 捜し人の心理や目的を加味した捜索は視野にいれていないのである。


「まぁ、殺したい相手の思考回路なんて誰だって考えたくないがな。だが、それが逆に結果を遠ざけてる」


 人海戦術ならいずれ見つかるだろう。しかし、それは相手のミス待ちだ。それでは余りにも効率が悪い。


「それじゃ、何でこの国(サハン)なんだ?」

「その説明にはアリスも混ぜよう」


 ファウストは現在まで『竜王会』の持つ情報を全て呑み込んだアリスに答えの説明を命令する。


『魔王殿下が攻撃された意図は間違いなく殺害が目的でしょう』

「……『竜の魔王』を倒すことはこの一万年間、誰にも出来なかったし、そもそも出来ない」


 『竜の魔王』の持つ鱗は『破壊』そのものだ。触れた物質、魔法問わずに破壊され機能しなくなる。

 『竜殺し』でさえ、ライザーハンの前では只の剣と変わらない。


「この世界の常識だったらな」

『今回の一件を実行犯が行動に移した理由としまして、確実に遂行できる要素を得た事にあります』

「それが、『あさるとふれーむ』か?」

「だろうな。どんな生物でも全くの無警戒の所で急所を突かれれば、なす術もなく殺られる」


 『人型強化装甲(アサルトフレーム)』はその戦闘力に目が行きがちだが、本来の用途は奇襲と離脱にある。

 単身で一個中隊に匹敵する戦力を目的としたコンセプトの元に開発され、隠密性能も最新のデジタル技術を応用している。

 市街地、寒冷地、密林、海中、宇宙と言った、あらゆる環境と作戦に対して完璧に適応し、装備者に傷一つ負わせることなく作戦を完遂する事が可能だ。


「なら何故、ハン組長を狙った?」

『もし、今回の一件で『竜の魔王』が死去されれば『竜王会』は怒り狂っていたでしょう』

「……まさか、それが狙いか? だがそんなことをして何のメリットがある」

『これは推測ですが、実行犯人の目的は『竜族』の殲滅にあると思われます』

「バカな」


 それこそ信じられない事柄だ。『竜族(かれら)』を殲滅するなど他の魔王が総出でかからない限りは不可能――


「頭を失って怒り狂った『竜族』は他の言葉なんて聞こえない。仇も曖昧のままただ世界を破壊し、それを阻止する為に他の勢力が出てくるだろうな」


 現に『竜族』は三つの国を容易く滅ぼしている。この世界に疎いファウストでさえ、戦力的に凄まじいと思えたのだ。


『その勢力は『竜族』の力を知り、かつ、正面から受け止める事が出来る戦力でしょう』


 そうなれば両陣営ただでは済まない。そして、戦いが終わった後は勝っても負けても『竜族』は淘汰せねばならない存在として世界に認識されるだろう。


「だが、ハン組長の殺害には失敗した」

「ああ。だが、作戦ってモノはいくつかのプランを用意しておくものだ。国を簡単に踏み潰す奴らの怒りに追われてるんだ。時間はかけられねぇさ」

『故に次のターゲットは、魔王殿下の大切にしているモノになるでしょう』

「それが……『草原の国(サハン)』か」


 この国はライザーハンの伝説が始まった地であり、彼が何よりも『義』を重んじるきっかけを与えた地なのだ。


「全部推測だが確率は高い。魔王殿下の大切なモノはここに二つ(・・)揃ってる。それにオレも少し怒ってるんだよ」


 ファウストは苛立つように額に手を当てた。


 “ファウスト大尉。『人型強化装甲』は敵も味方も救うための物だ。君なら正しく使えると信じている”


 最後の作戦で交戦した新型のAIをアリスが調べた際には、人を殺害するプログラムは組まれていなかったのだ。


「『人型強化装甲』は私利私欲で他を傷つける為にノート博士が造った訳じゃない」


 今回に件で本当に『人型強化装甲』が関わっているのなら、それを止めるのは自分でなければならない。


「オレの世界の兵器なら、オレがケリをつけなきゃな」

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