第28話 竜の怒り
『竜族』。
彼らは最も古くから存在する種族にして、世界で最も強靭とされる種族である。
どんな武器でも傷つかない鱗。
天地を鳴動させる魔法。
万物が恐れる咆哮。
一体の『竜族』を倒すには国一つを捧げなければならない程に、その種族は魔王に次いで手を出してはならない存在だった。
その『竜族』達を束ね、頂点に存在するのが『竜の魔王』――ライザーハンである。
彼は一万年前に起こった『人魔大戦』において、『歪の魔王』を破壊し『魔王』の座を勝ち取った。
全てを破壊する『竜の魔王』の行動原理は、利益でも領土でもない。
そこに義はあるか。
フリーレリアで最も必要とされている事柄は『義』以外に存在しない。
『義』が護られている限り、世界は永遠の安寧に包まれる。
それだけが彼の行動原理であり、その志しに同調した者達は彼の背に続いた。
そして上がった旗の名は『竜王会』。
フリーレリアでも最大戦力を誇る『竜族』の組織は、海よりも深い絆で結ばれている。
組員の誰もがライザーハンを王として認め、彼の背に続くことを誇りを感じているのだ。
そして、彼が最も嫌悪する事は『義』を裏切る事である。
どんな理由があろうとも『竜の魔王』との契約は違えてはならない。
もし違え、そして『竜の魔王』の怒りを買ったなら、それに関わる存在全てがフリーレリアから姿を消す事になる。
「称賛に値するぞ。魔力も気配も無しに現れ、ワシを『竜殺し』で刺したのだからなぁ」
一週間前、ライザーハンは新たな国の立ち上げに会席した。
『竜の魔王』との契約を結ぶ事を各国に知らしめる為の招待であり、祭り好きなライザーハンは喜んで参列する。
しかし、国立宣言と同時にライザーハンは背後から『竜殺し』で刺された。
『竜殺し』は七つの山に存在する火で造られた剣。その山と製法を管理する幾つかの国は『竜の魔王』と契約を結んでいた。
故に今回の事件は『竜の魔王』との契約国が起こした、『義』に反する行為だったのだ。
更にその国を監視する組員も殺されていると知りライザーハンの怒りは最高潮に達する。
副組長のチャンは事の裏を取りライザーハンに報告する。そして『竜の魔王』の号令で五体の『竜族』によって三つの国がフリーレリアから消滅した。
そして今現在、ハンを直接刺した実行犯を『竜王会』が総出で捜している。
「テメェは死ぬ。これは決定事項だ。だか、一人で逝くのも寂しいと思ってのう」
ハンはチャンに拘束させたファウストに聞き出さなければならない事があった。
「誰の指示が教えろ。そうすればテメェだけがくたばる理不尽は無くなる。良い提案だと思うじゃろう?」
カッカッカ、と再び笑う。そして、チャンに指示を出すとファウストの拘束を解除させた。
「チャン。『太古の原森』は?」
「今のところ、気配はありません」
ライザーハンは唯一の懸念である『太古の原森』の事を特に警戒させている。
「横槍が入る前に終わらせようかのう。誰の指示だ?」
事の顛末を一通り聞いてファウストはアリスにあることを確認させていた。
「大丈夫だとは思ったんだがな」
『何らかの想定外が発生したと思われます』
「世界が違うんだ。となればオレたちの常識も違ってくる」
『それでも可能性は0に近いです』
「だが、0じゃない。現に生き証人が目の前にいる」
ファウストは『人型強化装甲』を解除し、『竜の魔王』の前に片膝で頭を垂れた。
「此度の事件に関しまして、こちらに言い訳は何一つありません。魔王殿下」
「ほう?」
ライザーハンは、下手な言い訳で取り繕うなら、その瞬間に四肢を吹き飛ばすつもりだった。
「私の名前はファウストと申します。僭越ながら遅れて名乗る事をお許し頂きたい」
ファウストの所作は出来る限りの誠意を見せるためのものだった。
「それで、誰がテメェに命令した?」
「それは私の預かり知らぬ件であります」
「テメェ……この期に及んで――」
否定するファウストにチャンとホンは怒りを露にするが、ライザーハンはそれを制する。
「ワシははっきりとお前のソレを見た。一瞬だけ姿を表し、すぐに消えたがのう」
ライザーハンはファウストの背後に直立で沈黙する『人型強化装甲』の事を差す。
「故に私の責任でもあるのです。この装備は、この世界のモノではありません」
「知っておる。だが、二つと存在するとは思えん」
ファウストの事情は、ディザロアからの手紙で『竜王会』も把握している。
全く同じデザインの物を短期間に、二度見たのだ。疑わない方が難しいだろう。
「私の世界ではこの装備は幾つか造られていました。故にデザインが同じである説明がつきます」
「都合の良い話だのう。それで、テメェは何を言いたい?」
グダグダ話す為にライザーハンはここに来たのではない。これ以上の問答はするつもりな無く、次の返答を聞き次第、ファウストの四肢を吹き飛ばすつもりである。
「私なら殿下の前に御身を傷つけた当人を連れてくる事が出来ます」
その言葉にライザーハンは――
「カッカッカ! 『人族』風情が、『竜族』でも見つけられん存在を見つけると?」
「殿下の組織力を侮る意図ではございません。私の世界の技術であるからこそ、捜しだす事が出来るのです」
ファウストの言葉にライザーハンは眼を細め、考えるように沈黙する。
「そうか」
そして、ファウストに対して手を掲げると、その首に『破壊』を行った。




