第26話 魔王のターゲット
オレたちは何のために戦った?
国の為か? 女王陛下の為か? 市民の為か?
だが……ソレを信じた隊長は皆は……国に殺された。
なら、オレは……隊で一人生き延びたオレは何のために銃を撃つ?
何もわからない……オレは……何を――
「降りたまえ、ファウスト伍長」
情報の伝達ミスで、一つの部隊が爆撃により無くなった。
その部隊、唯一の生き残りだったファウストは軍事裁判で状況を証言するべく保護されていたが、彼は心的傷害を患っていた。
ファウストに下された診断を聞いたオーランド大佐は、このままでは証言台に立つことは出来ないと判断し彼の身柄を一時的に預かる事にする。
「ここは――」
「妻の実家だ。部屋は余っているから好きに使ってくれて構わない」
「大佐……すみません。オレなんかの為にこんな手間を」
「野暮な事は言うな。今回の件は必ず清算させる。それには、君に問題の無い証言をして貰わなければな」
ゆっくり休め。と、言いたげにオーランド大佐はファウストの肩に手を当てる。
屋敷に入ると家政婦が出迎え、ファウストから荷物を受け取った。
「パパ」
「おお! オリビア!」
オーランド大佐は階段の上から見下ろす一人娘のオリビアの出迎えに応える。
「伍長、娘のオリビアだ。今年で……」
「16。誕生日は二週間前」
そうだったか! ははは。とオーランド大佐は少し唾悪く笑う。
「誰?」
「ファウスト・フレデリック・ゴートン伍長です。大佐のお嬢さん」
「オリビアでいい。その呼ばれ方キライ。後、敬語も気持ち悪い」
表情の殆ど動かない上官の一人娘は言いたいことを遠慮無く口に出す性格らしい。
「伍長、任務だ。オリビアと友達になってやってくれ。娘は天才で飛び級で大学院の秀才だ」
「優秀な娘さんですね」
「だろう? だが、気の許せる友がいなくてな。いつも一人で本とタブレットばかりいじっている」
「別に知識だけあればいい」
「あんな事を言ってる。伍長、最優先任務だからな! 私は仕事に戻らなければならん」
「出来るだけ善処します」
「行ってらっしゃい。次に顔を出すのはどうせ半年後でしょ」
「うう……反抗期か……」
オーランド大佐は名残惜しそうに送迎車に戻っていった。残されたオリビアは階段を降りてくるとファウストに話しかける。
「伍長は……どうしてここに来たの?」
「色々あってな。聞かないでくれると助かる」
「じゃあ聞かない」
「後、ファウストでいい。今のオレは……兵士じゃない」
それがいつも寂しそうに一人で本を読む、オリビアとの出会いだった。
「オレは形の無いモノよりも、目に見えて護るべきモノを見つけた」
オリビアとの顛末を語ったファウストは、今日までそれが間違いだったとは一度も思っていない。
「……だが、ここまで来るのに綺麗事ばかりではなかったハズだ」
「ああ。オレは兵士だ。己の目的の為なら敵を殺さなきゃならない」
悲しげにファウストは言わなければならない事を口にする。
「戦場の命は一発の鉛玉よりも軽い。だからオレは部下を還す為なら手段を選ばなかった」
人でなしって言ってもいいぜ。と、ファウストは微笑む。
「兵士は死ぬまで兵士だ。兵役を離れても魂は変わらない。それにオレは隊を率いる長だ。部下を還す責務がある」
『……』
アリスはこれまでの話を黙って聞いていた。
「……私はお前とは真逆だ」
ディザロアは何かを思い出すように自らの胸に手を当てる。
「私は信じていた者に裏切られ、家族を殺された。そして、その答えを未だに出せずにいる」
“残念だなぁ♪ 皆、仲良く死ねたのにね。ロアお姉ちゃん♪”
それは憎悪。忘れられない記憶が胸の傷を疼かせ、ディザロアの『呪魂』を強くする。
すると、頭に触れられる感覚を感じた。
「疲れる生き方をしてるな、お前は」
ファウストはディザロアの頭を優しく撫でていた。
「今、この場に居ない奴の事を恨んでもしょうがねぇだろ。もっと、近くにいる奴らを見ればいい」
「……言われなくてもわかってる」
少し赤面しつつ、ディザロアはファウストの手を払う。
「気背負い過ぎるなよ。家族がいるなら荷物は分け合えばいいさ」
いつの間にか食事を終えたファウストは壁に背を預け一服を始めた。
「……これは私の問題だ。家族は巻き込めない」
ディザロアは空になった食器を持ち上げると出ていく際に吐き捨てる様に呟く。
「なら、その時はオレを誘え。どうせ暇だ」
ファウストの言葉に対してディザロアは返事を返さず納屋を出た。
「……ふざけたヤツだ」
皆の元に戻りながらディザロアはそんな言葉を呟く。
彼に頭を撫でられた時、両親やフォレスの事を思い出したのだ。
「本当に……ふざけたヤツだ」
良くわからない感情に困惑しているが、不思議と悪い気分ではなかった。
「大変、大変、大変だー!」
竜族の少女が、“走るな!”と言う張り紙の貼られた廊下を走っていた。
その手には、先ほど音速鳥で届いた孤島からの手紙が握られている。
「おやっさん! おや――」
「うるせぇぞ、シイ! 廊下を走るなっていつも言ってるのに毎回破りやがって! お前は貼り紙が見えねぇのか?! ああ!?」
一つの和室から出てきたのは顔半分に火傷痕が残る竜族の中年男である。
「チャンさん! 手紙が来たんっすよ! 孤島から!」
「声のトーンを落とせ! オヤジの傷に響くだろうが!」
「チャンさんも声でかい――」
「揚げ足を取るな!」
チャンの拳骨を頭に振り下ろされ、シイは痛みに蹲る。その際にチャンは手紙をすりとった。
「……孤島からか。やっぱり、リーの姉さんは欺けねぇな」
「チャンさん、おやっさんは……」
「とにかく、オヤジの命令だ」
チャンは手紙を持って部屋に入ると、布団から起き上がって月を見ている竜族の老人に話しかける。
「オヤジ、孤島から手紙です。最近、リーの姉さんとは連絡を?」
老人は手紙を渡すように指で合図する。
チャンは手渡すと、少し離れて待機した。
「思った以上に魔力が安定せんでな。特にリーは勘が良い。心配をかけるよりはと思うたが……」
神妙な様子で老人は封を開けずに手紙を見る。
「見ろ、チャン! リーはワシの事を心配して手紙を送るほど相思相愛だ! カッカッカ! お前もリーの様な女を嫁にせい!」
四六時中、妻との惚気話を聴かされる『竜王会』副組長のチャンは、相変わらず呆れた息しか出ない。
「おやっさん! それで、手紙はなんて書いてあるっすか!?」
「シイ、テメェ! 許可無くオヤジの部屋に入るな!」
「チャン、今回はいい。なんたってワシは機嫌が良いからな!」
リーの姉さんの事になるといつもこれだ、と心労が絶えないチャンはシイの首根っこを掴んで部屋を出る。
「外で待ちます。一応、ホンを待機で?」
「声だけかけとけ」
「わかりました」
チャンの行動は二千年以上、仕えての配慮だった。特に、リーとの会話は彼の何よりの楽しみであると知っている。
「チャンさん。リーの姉さん、帰ってくるっすか?」
「あ? あんヒトは戻らんだろ。本人がそれを望んでんだ」
「チャン! 今すぐ来い!!」
すると、荒れた声にチャンは部屋に戻る。
「どうしました?」
老人はわなわなと震えて、ディザロアの添えた絵を見ている。
それを覗き込んだチャンの表情も変わった。
「あのムシケラは、孤島に居やがった!! 兵隊を集めろ! 今度こそ、ブチ殺すぞ!!」
竜族の組織『竜王会』の組長にして、『竜の魔王』――ライザーハンは、ファウストと『人型強化装甲』に標準を定めた。




