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兵士とAIの異世界帰還録  作者: 古河新後
1章 仁義と破壊の魔王
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第25話 夕食時

「腹は減っているか?」


 ディザロアは『人型強化装甲』によって光源が確保されている納屋に入ると、陽虫の入ったランプを入り口の近くにかけた。


「助かった。餓死寸前だったよ」


 冗談を言いつつファウストは彼女の持ってきた食事を受け取ると、躊躇いなく口に運んだ。


「旨いな。何の肉だ? 蛇か?」

「『ラウンドボア』の肉だ。蛇種の魔物ではあるが」

「そうか。衣食住は大事だよな。特にオレは死ぬほど身に染みてる」


 安全に横になれる場所と、空腹を解消できれば人は何処でも生きて行けるのだ。


『大尉』

「なんだ? 食事時に口を挟むな」

「お前は、毒を盛られると思わないのか?」


 アリスの懸念をディザロアが代弁する。


「オレを殺すならいくらでも機会はあっただろ? 今更そんな手間かけるかよ」


 二人の懸念をファウストは経験則から一蹴する。相変わらず全てを見透かすような彼の様子にディザロアは自分の食事も始めた。


「お前はパンだけか?」

「私はあまり肉類は好きじゃない。そもそも『角有族』の主食は穀物だ」

「へー、『角有族』って言うのか。」


 種族の名称を聞いたのは初めてだった。ファウストの感想はあまりにも率直で不気味なほど順応している。


「あまり多い種じゃないと聞いている。実際に同族と会ったことは両手で数えるほどしかない」

「両親はどうしてるんだ?」


 何気ない質問にディザロアの食事の手が止まった。その様子から、少し不躾だったとファウストは謝罪する。


「すまん。配慮が足りなかった」

「……なぜ謝る?」

「親と一緒に居ない理由に楽しい思い出は無い。オレがそうだったからな」

「……聞かないのか? 私がなぜここに居るのか」

「教えてくれるのか? それなら聞くよ」

「……やっぱりやめておく」

「そいつは残念だな」


 留飲を下げるように微笑むファウスト。暗い過去に触れたディザロアであったが、意外にも心は苦しくなかった。


「今日は助かった」

「ん? 何もしてないぞ。むしろ、こっちが島を一部フッ飛ばして迷惑をかけた」

「いや、『太古の原森』を相手にあの規模で済んだのは本当に運が良かった」

「そっちが納得してるなら、オレも不必要に掘り下げないけどな。あんなのがこの世界ではゴロゴロいるのか?」

「アレは……特例だ。『魔王』でさえも手を出さない」

「そうか。まさか、島の精霊とか言うんじゃないだろうな」

「……ある意味ではその一種かもしれん。一部の界隈では神とも言われてる」

「本当かよ。まぁ、オレは神なんて信じてないが」

「じゃあ、何なら信じてるんだ?」


 ディザロアはファウストの行動原理の根幹を知りたかった。


「手に届くモノだけを信じてる」

「意味がわからん」

「そうか? お前も同じだろ。血の繋がらない者たちを家族と呼べるのは、それ以上の絆がある証だ」


 ファウストはディザロアがヴォルトに攻撃したときの事を遡って口に出す。


「聴いてたのか……」

「死んだフリも得意でね」


 ハハハ、とファウストは笑う。


「……お前は、誰かに裏切られた事は無いんだろうな」


 ディザロアはファウストの反射的に自らを削るような言動から、良い環境下で生きていたと推測する。


「オレは最も信頼してたモノに家族を奪われた」


 彼女の考えとは反する様にファウストは当時の事を思い出す様にその事を口に出す。


「血の繋がりはなかった。それでも、家族以上の絆で繋がった部隊は……ある日突然、国によって殺された」

「……」

「唯一生き残った部隊員は一番若い男だった。男は自分が何のために武器を持つのか解らなくなった」


 “何故ですか! 何故……オレを庇ったんですか!?”

 “……お前がオレたちの部下だからだ”

 “……わかりません。わからないですよ……隊長……”

 “お前も部下を持てばわかる”


 それは、彼が隊長になる前に失った部隊(かぞく)の話だった。

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