第21話 太古の神
ソレはいつの時代から居るのか誰にも解らない。
それ故に得体が知れず、恐怖さえも覚える者も居た。
『太古』。
『未来視の魔王』はそいつらの事をそう呼んだ。
後に『波の魔王』が『太古の噴火』に殺された事で『魔王』達の間ではソレを触れる際には慎重にならなければならないと各々で理解する。
“彼らは我々の理の外に居る。下手に触ることは世界を縮める行為に等しいだろう。彼らの行動原理は単純に“世界”を護っているに過ぎない。神と言えば分かりやすい”
『未来視の魔王』は関わるべきではないと他の魔王にも言及した。
そして、『竜の魔王』もまた、ある孤島に居た『太古の原森』を見つける。
ビリアは『樹族』の中で伝わるお伽噺を思い出す。
自分達『樹族』の祖は『太古の原森』であるのだと――
「……あながち間違いじゃ無いかも知れないわね」
ビリアはこちらを視るように佇む、『太古の原森』を見て確信に近い感覚を得た。
動物の骨を基礎に植物によってヒトの形に肉付けした様な姿。
頭骨には角のように枝が生え、身体の至るところに苔が存在する。それに寄生する陽虫がトーチのように姿を照らしていた。
身長は3メートルを超えるが、巨大と言うよりも細長いと言った印象を受ける。
『太古の原森』。
それは魔王さえも、手を出すことは憚られる存在。
「今度は木の化け物か」
『人型強化装甲』による戦闘態勢のファウストはアリスに『太古の原森』を解析させる。
『敵の構成は100%木質です。樹齢は推定100億年以上』
「あんなに細いのにか?」
『外部スキャンでは正確な数値が不明』
すると、『太古の原森』は四人へ歩いてくる。
「歩いているのはどう説明する?」
『密度の濃い内部繊維が筋肉や関節の役割をしていると思われます』
すると、『太古の原森』は身を屈め、四人に対して威嚇するように咆哮を上げた。
低く、地を這うような咆哮は衝撃波となり、周囲の木々を揺らす。
「鳴いてるのはどう説明する?」
『不明』
「科学の限界だな」
楽しそうに『太古の原森』を分析するファウストとは裏腹に、ガンド達は事態の危険性について理解していた。
「ピット、ビリアを連れて離れろ」
「ガンドさんはどうするんです?」
「時間を稼ぐ。少なくとも、誰かが足止めをする必要があるだろう」
ガンドは殿を勤める為に『太古の原森』に対して前に出る。
「ガンドさん、気をつけて。あれは――」
「大丈夫だ。ある程度交戦したら俺も離脱する」
ピットとビリアが離れるのを見届けている横でファウストはアリスに状況を確認する。
「アリス、『ATT-2』は使えそうか?」
『現在、起動しています』
「起動したら『超高温切断刃』を使ってコンテナを内側からバラせ。同時に『電磁加速砲』の射撃準備を始めろ」
『了解』
「ガンドの旦那」
ピットはビリアを抱えて走って行き、その場に残ったガンドの横にファウストも立つ。
「アレはどうやったら死ぬ?」
「わからん。こちらとしても全てが未知だ」
「未知との遭遇か。案外、物理で行けるかもな」
『太古の原森』は歩を止める。次の瞬間、意思を持つ根が地を這うようにファウストとガンドへ襲いかかる。
「こんなんばっかだな」
ファウストは横へ飛び退く様に移動。同時に『光学迷彩』を起動し、空間に呑まれる様に姿を消失させる。
「ふん!」
ガンドは地面に拳を叩きつけると、自身の魔法を発動する。
地面が爆発するように吹き上がると地面ごと、根を吹き飛ばした。
『着甲』と『爆心』。それがガンドの使用する魔法である。
『太古の原森』は長い腕を大きく振る。
すると、魔鳥が従うようにガンドへ襲いかかった。
「! スカイ!?」
それは自分達と共に生きている魔鳥たちである。明らかに様子がおかしい。
「くっ!」
仲間たちを攻撃する事は出来ない。ガンドは木の影に移動し、魔鳥たちの突進をやり過ごす。
「指定、脚部」
至近距離まで接近したファウストは『光学迷彩』を解除し、『衝撃装甲』にて『太古の原森』の頭を刈り取る蹴打を叩き込んだ。
パァン、と弾ける様な音が響く。魔鳥たちは支配から解放されたようにガンドから離れる。
「おいおい」
しかし、ファウストは冷や汗を掻いていた。
攻撃を受けた『太古の原森』は、僅かに顔が動いただけで、全く微動だにしていない。
「……」
すると、陽虫がファウストに纏わりつく様に集まり、彼の身体を強制的に浮遊させる。
「ファンタジー全開だな!」
『衝撃装甲』を身体に指定し、陽虫を吹き飛ばすと浮遊感から解除される。
その際、『太古の原森』は自らの枝から舞い落ちる葉を掌で受け止め、蔦に急成長させる。蔦は、ねじり集まる様に固形化し、先端が鋭利な槍の様に変化した。
『樹槍』と呼ばれるソレは魔力を練り込む事で鋼鉄を超える強度を持つ、『樹族』のみが作れる武器である。『樹族』が1本作るとなると、数ヶ月を要する。
『樹槍』は、落下中のファウストに狙いを見定め、陽虫によって音速で射出される。
「――危っぶねぇな!」
ファウストは咄嗟に推進バーニアを放ち、落下を速めて回避した。
地面に着地するが、再び陽虫が纏わりつく。
「一対一じゃねぇぞ?」
横から接近したガンドの拳が奇襲気味に『太古の原森』に触れた。
刹那、爆心によってその姿は粉々に吹き飛ぶ。