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兵士とAIの異世界帰還録  作者: 古河新後
1章 仁義と破壊の魔王
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第19話 最弱の種族

 遠い昔、他に蹂躙されていた『天兎族』は『雲の魔王』に庇護を求めた。

 見返りは自分達の持つ魔法を他に教えぬ事と『天空の都』から出ない事だった。

 そして、『天空の民』となった『天兎族』は永久の安寧を手にした。


 しかし、極稀に現状がおかしいと感じる『天兎族』が出てくる。ピットはその一人だった。

 過去の戦争は【五天陣】だけが戦い、『天空の民』はただ彼らの勝利を祈るだけだった。


 なんだよ……それ。


 何度も戦いはあった。しかし、『天兎族』はただ『雲の魔王』の庇護の下で暮していただけだったのだ。

 そして、彼は『天空の都』を出て、ディザロアと出会う。






「アリス、『|衝撃装甲《ショックフレーム》』開放(リアクティブ)

『了解』


 ファウストの命令に『人型強化装甲(アサルトフレーム)』の装甲が動き、形状が若干変化する。


「何をするつもりか知らないけど――」


 得体の知れないファウストにピットは臆する事なく踏み込んでいた。

 『天兎族』の持つ強靭な脚力は、他の種族とは比較にならない。

 岩を砕き、水の上を駆け、放たれる蹴打をまともに受けて生きていた生物は皆無だった。

 どんな敵からも逃げ延びるために進化した脚をピットは攻撃へと昇華している。


「砕けろ」


 ピットの持つ最速の攻撃である飛び蹴り。

 速度と己の体重に脚力を合わせた一撃は、速すぎて生物では反応出来ず、当たった敵を肉塊へ変える。


「悪いな」


 飛び蹴りは『人型強化装甲』の胴体に蹴打は命中する。しかし、ピットは初めての感覚に戸惑った。


「なん……だ?」


 本来受けるハズだった蹴打の衝撃はファウストをすり抜ける様に、彼の背後の木々を吹き飛ばす。

 来るハズの反動が全くない。ピットはファウストに足の裏が当たった状態から重力に従って尻から地面へ落ちる。


「よっ」


 状況に困惑するピットとは違い、ファウストは座り込む彼の背に回る。そのまま流れる様に絞め技に移行し、一瞬でピットの意識を奪った。






「…………はっ!」


 がばっと起き上がったピットは、未覚醒の意識に記憶が若干混乱していた。


「便利なものだな」

「だろ? 本来はこう言う事に使われるモノなんだよ」


 そして、意識が戻った彼が最初に見たのは、自分が敗北した『人型強化装甲』が斧を振り下ろし木材を作る光景である。

 その隣に見慣れぬ『人族』がガンドと話している。


『本来の用途は局地作戦への適応です』

「生活の営みを護るのが仕事だろ」


 なんだこれ?

 改めて理解の追い付かない状況にピットは困惑する。


「気分はどう?」


 呆然とするピットにビリアが様子を尋ねる。


「ビリアさん。あれ、なに?」

「ガンドさんから聞いてない?」

「いや……『人族』を保護したってだけ……」

「まぁ……後でロアが皆を集めて言う予定だったからね」


 すると、ガンドとファウストもピットに気がつく。


「どうも、少年。ファウストだ。気分は?」

「えっと……悪くはない……です」

「そうか。まぁ、今度からは相手を選んで蹴るといいぞ。オレじゃなかったら死んでる」


 そうだ。俺は……負けたんだっけ?


 と、ピットは敗北した時の様が甦る。


「なぁ、あの時の俺の蹴り」

「ん?」

「なんか、変だったんだ。あんた何かしたのか?」


 すると、『人型強化装甲』が薪を割る手を止める。


『大尉』

「別に知った所で大差はねぇよ」


 ファウストは先程、ピットの攻撃を無力化した能力について説明する。


「簡単には言えば、衝撃を後ろに流したんだ」

「衝撃を後ろに?」

「『人型強化装甲』に搭載された10の内臓装備の一つ『衝撃装甲』には二種類の特性(モード)がある」


 一つは一定の衝撃を指定の部位から放出する発生タイプ。これは拘束からの脱出する為に設計された。

 もう一つは受けた衝撃を自機を介さずに後方へ流す開放タイプである。これは、対兵器戦闘における耐久性を大幅に上昇させるものだった。

 一通り説明したファウストは、


「別にインチキの類いだから、お前の勝ちでいいぞ。生身なら俺はあの鬼のお嬢ちゃんにも勝てねぇしな」


 ははは、と笑うファウストの戦闘力は『人型強化装甲』ありきである。今は眼鏡(アイガード)のみを着けている為、比較的に無害と言えよう。


「……もう一回、戦ってくれ……ませんか?」


 ピットとしては先の戦いは納得が行かない。


「止めとくよ。俺は武人でも無けりゃ、戦闘狂でもないんでね。戦わずに済むならそれに越した事はない」

「じゃあ、さっきは何で戦ったんですか!?」

「正当防衛。暴れ牛を落ち着かせるには意識を落とした方が早いからな」

「だったら――」


 ピットはファウストへ闘志を向ける。こちらから攻撃を仕掛ければ応戦するのなら――


『大尉』

「待機」

『そればっかりですね』

「まぁ、見てろって」


 ガンドとビリアもこの状況をファウストがどう捌くのか興味があった。


「お前は純粋だな。自分の中にちゃんとした道をもってやがる」

「だから、なんだ?」

「その道には戦わないヤツを一方的に戦いに引きずり出すのはいいのか?」


 ピットはファウストの言葉に戸惑うが、すぐに侮辱された事を思い出す。


「……あんたは弱いと言われた事はあるか?」

「ある。卑怯だとも腰抜けとも言われたな」

「そんな事を言われて……悔しいと思わないのか!?」


 『天兎族』だからと言う理由でピットはそう見られ続けたのだ。その都度、この脚で黙らせて来た。


「そんな事よりオレは命の方が大事だよ」


 ピットとは対照的に、ファウストは部下や己の命の方が大事だった。


「お前はそのままで良い。我武者羅に自分の道を進めるのは良い環境に住んでる証拠だぞ?」

「あんたにはわからない……」

「まぁな。オレはお前じゃない。だからお前の苦悩も考えもわからない」


 どこか重みのある言葉にピットは聞き入っていた。


「オレに出来るのは応援だけだ。だから、なんか困ったら相談してくれていい。都合がつけば助けてやる」

「……別にあんたの世話にはならないよ」


 精一杯の反抗心に感じたファウストは、そうかい、と笑う。

 ピットは『人型強化装甲』を見るが、先程の戦意は消えていた。


「ピット」

「ガンドさん。この『人族』は参考になりません。後で組み手してください」

「ああ、いいぞ」


 ガンドはファウストを見る。彼は、やれやれ、と笑っていた。


『大尉。反応があります』

「急にどうした?」

『格納コンテナの反応です。距離は北西へ500メートル』


 ファウストの眼鏡に情報が表示される。


「マッピングの延長だ。アリス、確認に行くぞ」

『了解』

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