第18話 うさぎ君
切り倒す木の数は決めている。
それは島の資源が有限である事と、これから何世代にも渡って暮らす事にもなる島との共存を考えての事だ。
ガンドは切り倒した木をさらに細かく斧で割り、木材にしていく。
「ガンドさん。少し休んではどうですか? ヴォルト様の電撃は軽いモノでは無かったハズです」
長い耳を持つ『天兎族』の青年――ピットは『オーク』のガンドから今朝の襲撃を聞いていた。
「頑丈なのが取り柄だ。それに、ヴォルトも本来の一割も力が出ていなかったらしいからな」
後にリーから聞いた話によると、本来の力を持つヴォルトならば、最初の落雷で地形が変わる程の出力があったとのこと。
周囲に存在する電位だけを使っていたために出力は自然と下がっていたらしい。
「それでも無理はしないでください。俺がビリアさんからドヤされますから」
「必要分を作ったら今日は切り上げる。お前もディザロアから色々聞いておくと良い」
昨夜から作業場に居たピットはファウストの事を知らない。島にあるいくつかの拠点に散っている同胞もいる為、ファウストの事を全員に知らせるには少し時間がかかる。
「そう言えば、昨日変なモノが落ちて来ましたよ」
「変なものだと?」
「なんか、金属の箱です。見たことない造形で、重くて俺には動かせませんでしたけど――」
その時、ピットは環境音以外の音を聴き取った。
「ガンドさん」
「魔物か?」
ガンドは斧を止め、ピットは音の方向へ耳を向ける。この場所は元々、『ビッグボア』と呼ばれる蛇系の魔物の縄張りだった。
ソレをディザロアが討伐し、場を確保したのだが、ソレによって他の魔物の生息域が変わってしまった経緯がある。
今では多くの魔物が往来する場になり、この作業場に来るのは必然と戦闘員が主になっていた。
「と、止まっ! 止まってぇぇぇ!」
ぼんっと茂みを突き破って飛び出したのは金属の鎧だった。
その背にはビリアが半泣きで叫んでいる。
『目的地の様です』
移動による島の地図作成を行っていたアリスは村から現在地までの地形と環境を記録する。
切り開かれた空間。端に切り倒されて積まれた丸太が存在する。
「ここか?」
「そうよ……降ろして……」
ビリアはファウストから降りると、ふらふらと歩いて近くの木にもたれかかった。
「うぇ……」
今までにない平衡感覚の混乱に回復まで時間を要する。
『生体反応を二つ確認。内一つは面識があります』
ファウストは見知った顔であるガンドを見る。
「どうも、確かあんたは……Mr.ガンドだっけか?」
「ミス……? なんだ?」
「失礼。忘れてくれ」
自分達の文化はこの世界では疑問とされる事をファウストは今後の改善点として頭に置く。
「お目付け役か? それにしても、スカイ達を使わずによく来れたものだ」
「道案内が優秀でね。最短距離を指示してくれた」
あんたの背から一秒でも早く降りたかったのよ! と叫びたいビリアだったが気持ち悪さが勝り、じろり、と睨み付けるに留まる。
「色々整えるのに木が一本欲しいんだが、持って行っていいか?」
ファウストはビリアから離れガンドへ歩み寄りながら交渉する。
「ガンドさん。あれは?」
「いいぞ。その方が理解出来るだろう。お前は」
「ん?」
と、ピットの姿が消えた。
刹那、『人型強化装甲』は強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされる。
「!?」
反応が遅れたファウストは、二、三度跳ねて、推進装置で姿勢制御を行い、片膝で着地する。
ピットはファウストを蹴った反動でくるっと弧を描いて宙を回ると、慣れた動作で着地する。
「? へー、動けるんだ。だいぶ軽いけど、そのせいかな?」
ピットは、とんとん、と準備運動する様に軽く跳躍していた。
「アリス、ダメージ計測」
『戦車の砲撃に相当します』
ピットの尋常でない踏み込みは、彼の姿を消失したと錯覚する程の初速を生み、その速度でぶつける蹴打はあらゆる生物を屠ってきた。
「何発で動かなくなるかな?」
「全く、退屈しねーな。この世界はよぉ!」