第15話 異世界に流れてきたのは
「とりあえず、しばらくはここで寝泊まりしてくれ」
ディザロアは自宅の脇にある道具を入れている納屋の前にファウストを連れてくる。
「オレの眼が幻覚を見てないなら、これは納屋でいいのか?」
「そうだが?」
「……まぁ、屋根があるだけマシか」
「私は家でも良かったが、色々と反対されてな。『オーバーデス』もあるし、大丈夫だと言ったんだが……」
あの後、ディザロアはファウストを家に泊めると何気なく言った所、周囲から猛反対された。
リーでさえも、自分を大事にしなさい、と反対派だった。
「残念だ」
「そんなに外は嫌か?」
「薄着に包まれたその胸と尻を見れない事がだ」
「……」
ファウストの発言にディザロアは『オーバーデス』を出して距離をとる。
「冗談だ、冗談だ」
本気にするなよ、と笑うファウストであるが、全くそんな風には見えなかった事にディザロアは嘆息を吐く。
「それはそうと、この納屋改造してもいいか?」
「別に構わないが」
「『人型強化装甲』も使わせて貰う」
「力仕事が必要ならガンドに頼め。私からもお願いしておく」
『人型強化装甲』が歩き回ってると不安の元になる。
「『人型強化装甲』を使うときは消えて作業する。それにオレのせいでそっちの作業を妨げる必要はないだろ?」
ディザロアは『人型強化装甲』に姿を消失させる能力があったことを思い返す。
「……逃げるなよ」
「今さら逃げねーよ」
苦笑するファウストにディザロアは二度目の嘆息を吐く。
「ロア」
そんな会話をしているとビリアが二人のもとを訪れた。
「手紙の発送準備が出来たわよ。後はあんたの絵待ち」
「すぐに準備する。リーさんにハン組長に前もって連絡するようにお願いしてくれるか?」
「それはね、ちょっと難しいみたいよ?」
「どういう事だ?」
ディザロアは一度ファウストを見る。彼はアリスと会話をして、何やら計画を立てている様子だった。
「あたしが見張っておくわよ」
「頼む」
ディザロアは画材に取り付けられたままの絵を取り折り畳むと、ビリアを場に残し、リーの元へ向かった。
『大尉』
「ん?」
「どうもー」
納屋の前に残されたファウストとアリスにビリアは話しかける。
「えーっと、すまん。名前が出てこない」
「ビリアよ」
「ファウストだ」
ファウストが握手を求めて手を差し出すと、ビリアは不思議そうな表情をする。
「おっと。こっちじゃわからんか」
「その手はどういう意味か教えてくれない?」
ファウストの一言一挙動はビリア達にとっては未解決な部分が多い。
「握手って言ってな。良い付き合いをしましょう、って意思表示だ」
「へー。聞いたこと無いわね」
「今から流行らせていく予定だ」
ファウストは手を引っ込めると、納屋へ向きなおった。
「見学してもいいかしら?」
「気が済むまでどうぞ」
ビリアとしてはファウストの動向は逐一把握しておきたい。
「そんで、スキャンの結果は?」
『納屋には十二か所の気流が確認されます。冬季では快適に過ごせないでしょう』
「まずはソレから塞ぐか」
ファウストは『人型強化装甲』の頭部にあるアイガードの部分を外すと眼鏡のように変化する。
ソレを掛けると視界に『人型強化装甲』装着時と同じ情報が表示される。
穴の空いている箇所が強調表示され、完全完了までに必要な材木の個数も横に並ぶ。
「修理事態は木1本で足りるか」
『しかし、これは修理用の材木が手軽に確保できる場合です』
「そうだったな。とりあえず、場所をアマゾンの奥地で高所を指定して想定」
必要材木の数は変わらないものの、それを入手する時間と労力から一日がかりになると表示される。
「面倒だな」
『やらなければ始まりません』
「そりゃそうか」
風穴を塞ぐだけで一日か。ファウストはとりあえず、中にある道具を一通り外に出す作業から開始する。
と、あることを思い出した。
「アリス、映像記録はどこまで残ってる?」
『『ノート博士確保作戦』開始時から、現在までです』
「オレの記憶が間違って無ければゲートが起動した際に、いくつかの物資も吸い込まれてたハズだ」
『記録を遡ります』
確か、支援機や周囲にあった『人型強化装甲』用の兵装も同様であったとファウストは記憶している。
「特に『飛行装備』の最終試験は終わって、実装寸前だった」
『敵でしたが』
「質の悪い自立AIで助かったよな」
支援機も含めて、それらがこちらに流れているのなら――
「まぁ、全部セーフティがかかってるから、オレら以外じゃアクセス出来ないから使われる心配はないだろう」
回収するだけでも役に立つ。特に支援機にあった物資は汎用性が高い物ばかりだ。