第12話 少年兵
その眼は見覚えがあった。確か……中東で交戦で遭遇した少年兵が持っていた――
「お前は命を削ってるな」
ファウストは見下ろしてくるラインの眼に既視感を覚えていた。そして、その眼をしていた者たちは皆――
「黙れ。今からお前を殺す」
「そうかい。優しいなお前は」
「はぁ?」
脅える様子のないファウストにラインは苛立ちを抱える。
「殺す相手に、今から殺す、なんて教えるのは慈悲以外の何物でもないだろう?」
無機質な銃声が一発鳴ったら誰か死ぬ。
小さな一つの鉛玉と人の命が等価の戦場を潜り抜けたファウストにとってラインの殺意は可愛いモノなのだ。
なんだ、コイツ……
殺した『人族』は皆、醜く足掻いていた。
闘技場の支配人も、檻の向こうから笑っていた観客も、追い詰めて死ぬ手前には、命乞いや罵倒を口に死んで行った。
だがコイツは、今までの『人族』とは何かが――
「少しでも途惑うならお前はまだマトモだな。オレは手遅れだが」
「黙れ」
「不幸の度合いは人によって変わる。そして、自分の不幸を他人は理解できない」
「黙れって言ってる」
お前に何が分かる……僕たちの事を……何が――
「……おにいちゃん……エンリが――」
「ダメだ。僕がやる」
炎理が前に出た事で、ラインの決意は改めて固まった。一撃で殺すために手に魔力を集める。
『人族』は全部殺す。あの時、そう誓ったじゃないか。
「誰にだ?」
心を読まれたラインは思わず手が止まった。
「人が戦うのは護るモノがあるからだ。お前の戦いは誰のためで何を護る為のモノだ?」
「そんなのは決まってる……僕は――」
「自分の戦いに戦えない者を巻き込むのはお前の望みなのか?」
「今更命乞いか?」
「オレじゃねぇよ。そっちのお嬢ちゃんだ」
ファウストに目を向けられて炎理はラインの影に隠れた。
「ちゃんと気づいてやれ。お嬢ちゃんはお前の心に引っ張られてる。お前しか寄り添えるヤツがいないからだ」
感情を持つ存在は他に影響を与える。炎理にとってラインは、唯一心を許せる存在であり彼のやる事を否定する事は絶対に出来ない。
彼に見捨てられたら本当に一人になってしまうから――
「最初にオレに跳びかかった時、お嬢ちゃんは一歩遅れて向かってきた」
あの時の遅れは彼女の本心から来る硬直だったのだろう。
「炎理……お前は」
ラインは膝立ちで炎理と目線を合わせる。『鬼族』の少女は少し震えていた。
「お前は……コイツをどうしたい?」
「……エンリは……」
「本心を教えて欲しい」
「……しんでほしくない」
それはラインと出会ってから吐き出した二度目の本心だった。
「誰も……しんでるとこ見たくない……ごめんなさい……おにいちゃん……エンリのこと……きらいにならないで……」
ぽろぽろと泣き出す彼女を不安にさせないようにラインは優しく抱きしめた。
「嫌いになんてならないよ、炎理。君は誰よりも優しい子なのに……気づいてあげられなかった。ごめん」
炎理は泣く。その感情にラインの憎む心に姉が最後に言っていた言葉が呼び起こされた。
“ライン……貴方は生きて……”
姉は復讐など何も望まなかった。ただ、生きていて欲しいと言う事だけが願いだったのだと――
「二人とも、何をしてる!」
こちらの様子に気付いたディザロアとフォルエルが慌てて駆け寄ってくる。しかし、状況の把握が出来ずに、少しだけ困惑した。
「ライン、炎理が泣いていますが――」
「……僕のせいです」
「ちがうよ……エンリがわるいの……」
二人とも自らに非があると訴える様子に、ディザロアはファウストを見る。
「ちょっと人生相談を受けただけだ」
殺されかけたと言うのにソレを言及する事のないファウストにラインは驚く。そんな彼にファウストは、気にすんな、と目線を送った。
「……フォルエル、二人を頼む」
「二人とも、少し落ち着きましょう」
そう言ってラインと炎理はフォルエルに連れられて行った。
「隊長、さっきの命令ですが」
「ああ、命令って程の事じゃない。心得で良いぞ」
「しかし、上からの命令は区画の制圧と敵の殲滅です」
「そうだな、だから心得だ。オレからすれば知らないガキよりも、お前らの方が大事だ」
「……私は厳守します。隊長の『敵兵を殺すな』という心得を。部隊の皆もそのつもりです」
「まぁ、この辺りの区画は孤立して物資の補給も一ヶ月滞ってる。武装解除を確認したら食料でも分けてやれ」
「それも?」
「心得だ」
「ふふ、了解です」




