第11話 ラインと炎理
魔鳥たちに寄って浮かぶ台座は下に降りた者達を村へと帰す。
ヴォルトの出現を村から感じ取った者達はディザロア達の事を心配し集まっていた。
村に戻った五人を各々が喜び会う。この村で何よりも大切なのはお互いの存在であり、誰一人欠ける事を望まないのだ。
「ヴォルト様が入らしたようですね」
『天空の民』でもある、フォルエルはヴォルトの事を魔力で感じ取っていた。
「ああ。狙いは『オーバーデス』だった」
「貴方と一心である『オーバーデス』となると、命を奪われなかった事は奇跡です」
「いや……撃退したのは私じゃない」
ディザロアは一人、ポツンと取り残されているファウストと見る。
「あの方は、奇怪な鎧を身に付けていた者で?」
「ああ。あの鎧は『あさるとふれーむ』とか言うらしい。意味は解らんが【五天陣】の一角を一方的に倒しかけた」
【五天陣】とは『雲の魔王』直属の臣下である五体の『属性人』事である。
「ふむ。要警戒としておきます」
「私が面倒を見る」
「ワタシで管理してもよろしいのですよ?」
「お前は炎理とラインで大変だろう? 負担は分散し合うよ」
村の皆には自分本意だけではなく、他を思いやる存在に成って欲しいと思っていた。
「この村は傷のある者たちの集まりだ。私も含めて」
「ですが、『人族』を迎えるとなると些か複雑になります」
村人全員が『人族』には苦い過去がある。中には『人族』を見るだけで殺意を覚える者も少なくない。
「次の日には死体となっておるやも」
「だから私の側に置くんだ。でも、本来ならそんな必要はないかも知れないが、皆の安心のためにな」
フォルエルとディザロアが話し込んでいる間にファウストのもとへ炎理とラインが近づいていた。
「こう言う雰囲気は嫌いじゃ無いけどよ、除け者はちと寂しいな」
『大尉もそんな感情があるんですね』
蔦に縛られて座ったままのファウストは村人達を見て、殆どが違う種族であることを認識する。
「人間をナメんなよ。喜怒哀楽は未だ解明されてない人体の神秘だぞ」
『そうですか』
ファウストは笑い会っている村人達を見て思い出す。
戦争が終わり、故郷に帰還する軍用機を降りた帰還兵を迎え入れる身内の笑顔を。
「戦った意味をあの笑顔は教えてくれる」
『貴方の帰還にオリビア様は何と?』
「あいつは機械だ。笑った所を見たことねー。完全に父親似だな。最近彼氏出来たらしいし」
『おめでとうございます』
「アイツに直接言え」
『それでは絶対に帰還しましょう』
「最初からそのつもりだよ」
とは言え、少しやることがあるんだよなぁ、とファウストは近づいてくる二人に気がついた。
「まぁ、色々あるのが人生だ」
『命令を下さい』
「待機」
『大尉、それは――』
「いいから黙って見てろ」
『鬼族』の少女――炎理と『吸血鬼』の青年――ラインは縛られて身動きの取れないファウストを見下ろす。
「ライン……貴方は生きて……」
姉と知らずに戦わされ、姉は自らの命を差し出して僕に殺された。
「まさか、命を賭けて戦っているのが姉弟だったとは、今回も最高のショーじゃないか!」
加護の外で奴らは笑っていた。
何よりも悲しかったのは姉の死に対する悲しみよりも、奴らを憎む気持ちが強かったからだ。
「殺す……お前ら! 殺してやる!」
そんな怒りも奴隷の首輪によって抑制され、そんなことは無駄なのだと笑われた。
そして、次に戦わされたのは小さな『鬼族』の女子だった。
「君の名前は?」
勝った者だけが出られる檻の中、戦う事をコールされる中、僕は怯える少女に問う。
「炎理……おにいちゃんは……エンリを殺してくれる?」
彼女は酷く疲れた様子だった。僕は彼女に言った。
「殺さないよ。僕が殺すヤツは『人族』だけだ。だから、君は生きて――」
無駄だとわかっていても、これ以上は堪えられなかった。
檻を破壊しようとして、奴隷の首輪で罰を食らおうとも、この憎しみだけは抑えられない。
どす黒く染まる感情は、滑稽に笑う奴らの表情を視界に捉える度に燃え上がる。
僕たちを見せ物にして笑っている『人族』ども、お前らは必ず殺してやる。一匹残らず――