第八話 魔法の仕組みの話
今回は、一部この世界の魔法の仕組みについて触れる回です。説明口調が増えますので、苦手な方はとばしとばしお読みください。
私の家はこの森にあり、今朝も日課の山菜採りを終えて帰ってきたら、黒いマントの二人組が私の家の玄関に立っていました。
そいつらは私を捕まえようとしました。私のもともとの種族はハーピィ、鳥の翼と足を持った空とぶ種族なのですが、徐々に人間になる魔法をかけられてしまったのです。
私は命からがら空を飛んで逃げました。しかし、その途中で腕も完全に人間のものとなってしまい、あそこの樹の枝から動けなくなってしまったのです。
彼女は、その日に起きた一部始終を語った。
「なるほど、状況は分かりました。その家に案内してください。」
「ありがとうございます。お願いします。」
ジャッジメントはひたすらに頭を下げ恐山に感謝する。
「ユーラ、私達も行ってみない?」
「ええ、いやよ。帝国の人間がいるのに。」
「でもさ、二人組って言ってたし、こっちも人数多い方いいじゃん。私の時みたいにあの子も助けようよ。」
「あれは……」
あれは、帝国がむかついたから。ユーラはそう続けようとしたが、ダンスの眼差しに言葉が詰まる。そこに何かを察したのか、恐山がユーラ達の方を向いた。
「ああ、この件は私がなんとかしときます。協力ありがとうございました。」
「え、相手は複数人なんでしょ?私達も一緒に行くよ。」
「ちょっとダンス!」
ユーラの制止を振り払い、ダンスは恐山を手伝おうと声をかけたが、恐山はダンスの手伝いを断った。
「か弱いあなた達を危険に晒すわけにはいきません。お二人は危ないのでお気をつけてお帰り下さい。安心して下さい。ぼく全然強いですから!」
その発言に一番に反応したのは、ユーラだった。
「ほう、よっぽどな自信じゃない。あんたみたいなガキンチョがそんなんで足元すくわれないかしら?」
「はは、さっきから子供扱いされてますが、安心して下さいよ。お姉さん達よりは足腰なってますから。」
どうやらお互いともに舐められることが嫌いなようだ。ユーラと恐山は体裁を取り繕い会話をするも、二人の視線の間ではバチバチと火花が散る。
「乗り気じゃなかったけど……お姉さん優しいからちゃんとできるかついてってあげるよ。」
「足引っ張んないでくださいよ?二歳差で調子乗ってるお姉さん。」
その様子を静観するダンスの脳内で、ユーラの生態に新たな一文が追加された。
(・煽りに弱い。)
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一方そのころ
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大樹が果てしなく広がる大自然。その樹の一本一本がビルのように構えるその森に、ポツンとたたずむ屋敷があった。
「けはは!あの女!逃げ足だけは早えなあ!」
「交換条件は提示した。あとはあの女がどんな行動にでるかな。」
「帝国に助けを求めるか?無駄なこった!なあ?悪魔さん?」
二人の男は屋敷の一室で会話をしている。一人は大声を上げ椅子に座り、両足を机に乗せている。もう一人は壁によりかかり資料に目を通していた。そしてもう一人、そんな二人を眺める人影がその部屋にはいた。
「ああ、てめえらが最後の依頼人だ。どうだ?上出来な仕事だろ?」
そこに居たのは、かのスラム街でユーラの戦闘を観戦していた元情報屋だった。壁によりかかる男が目を通している資料、それは、デーモンが一週間ほど前に用意した帝国軍の兵士の真名のリストだった。
「上出来だ。報酬はもう払ってるが、今回の成果次第では上乗せする。」
壁によりかかる男の発言に、デーモンの口角が上がる。
「へへ、ちゃんとやってくれ。俺の退職金だからよ。」
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ユーラ一行移動中
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「前々から思ってたんだけど、魔法の種類ってどうなってんの?」
「ああ、そういえばダンスにちゃんと話してなかったかも。敵が魔法師だったとき魔法を知っとくと便利だから教えとくよ。」
ユーラはそう言うと歩きながら、ダンスに魔法の説明をした。
「そもそも、魔法は属性魔法と特殊魔法の二つに分けられるの。特殊魔法はほんとに種類が多いけど、あんまり使う人がいないんだよね。」
「うちの騎士団にも数人いますが、ほとんどは属性魔法ですね。」
ユーラはダンスに向けて四本の指を立てる。
「属性魔法は一見たくさん種類があるように見えるけど、根本にある属性は火・水・風・土の四種類だけなの。」
「え、でも爆発とか雷とかは?」
「爆発魔法は火属性、電気魔法は風属性。基本の属性は少ないけど、性質は千差万別。魔法師たちは自分が得意な属性を見極めて、鍛練を積み重ねることでやっと一つの性質の魔法を使えるようになるのよ。」
「じゃああの狼ってやつ……。」
「うん、十何種類だか魔法を使えるって言ってたけど、それだけの鍛錬を一個一個積み上げたんだと思う。魔法が複数発現するってだけで才能が必要らしいし、何気に違う属性の魔法を使っていた。あんな調子だったけど実力はあったんじゃないかしら。」
ユーラの考察に恐山の耳が動く。
「狼?どっかで聞いたことあるような……。」
「と、とりあえず!それでも魔導具を一個しか持ってなかったら、結局一つの性質の魔法しか使えないし、そもそも複数の性質を操れる魔法師なんてほとんどいないってことは覚えときなさい。」
「……そう思うと、改めて妙なんですよね。」
恐山は、講習が終わった一行に向かってとある疑問を口にした。それに対してユーラも同調する。
「うん、ちょっと気になってた。相手の姿を変える魔法なんて聞いたことない。」
ユーラの発言にダンスは首をかしげジャッジの方を見る。ジャッジは不安げな顔をしてトボトボと静かに歩いていた。
「ねえ、安心してよ。」
「え……」
ダンスはジャッジに耳元でこそこそとささやく。
「ユーラはね、私のことも助けてくれたんだ。超強いから大丈夫だよ。」
「そ、そうなの……。」
そうこうしているうちに、一行は屋敷にたどり着いた。
「す、すごい……。」
「え!ジャッジの家ってこんなデカいの!?」
森の中にそびえる一本の大木と、それと一体化したように巻き付く城のような屋敷にユーラとダンスは絶句した。そして、その様子を屋敷から覗く三人の影があった。
(なんであいつがいんだ!?)