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第六話 森のユーラの最終目的

「ユーラ~、なんでこんなとこ来るの?」


「別に家にいて良かったのよ?」


「家って……あの段ボールの?あんなとこ家じゃないよ、奴隷屋の方が快適だよ。」


「つべこべ言わないで。あんたそんなこと言ってたら解雇よ。」


 ユーラとダンスは木の根が凹凸を形成する険しい道を歩いていた。そこは巨大な針葉樹が生い茂る広大な森の中。帝国の北に位置し、隣国との国境となったその森は、その厳しさからほとんど人が住んでいない。


「そろそろ着くからそこで休憩するよ。」


 ダンスはなれない道にすでにへとへとになっていたが、ユーラの一言に希望が差し込む。すると、突然道が開け、樹の生えない大きな空間が姿を見せた。


「なに、ここ……。」


「ここはこの森に点在するギャップの一つ。いっぱい珍しい獣が来るからここでお小遣い稼ぎ兼修行をしてるの。さっそく……。」


 ユーラはそう言い雷魔法を撃ち放つ。すると樹から大きな鳥が地面に落ちた。


「なにあれ。」


「サンダーバード。やばい、雷撃っちゃった。」


 ギュエエ!!


 地に落ちた巨鳥は起き上がるとユーラを威嚇し口から電気を撃ち放った。それをユーラは雷魔法で相殺する。


「やっぱ時間かけて創った氷とか岩当てた方がいいか。」


 サンダーバードが再び飛び上がるタイミングで、ユーラはこっそりサンダーバードの頭上に生成した氷柱を落下させる。その衝撃でサンダーバードは気絶した。


「ええ……こんなのいんの?」


 ダンスはいきなり現れたトップバッターにびびりまくり、ユーラの服にしがみつく。


「安心して、あんなのレアキャラ中のレアキャラだから。やったよダンス、今日のご飯はグリルだ!」


 ユーラはウキウキの笑顔をダンスに向ける。ダンスはその笑顔に安堵を覚える。


(ユーラ、たまに怖いけどこういうときは女の子なんだよなあ。)


 ユーラの奴隷|(笑)となってから数日が経ち、ダンスはユーラの生態を少しづつ理解し始めた。

・美味しい食べ物かバナナを与えると大人しくなる

・知識はあるものの偏ってるし思考回路は脳筋

・人間関係に興味が無く、人と関わるのが好きじゃない

 このままでは社交性のない雌ゴリラとほとんど変わらないが、まとめ始めているユーラの生態。しかし、未だ気になるものの聞けていないことがあった。


 それは、ユーラが旅をする目的である。ダンスは第八の事件でのユーラの叱責をあれから何度も反芻していた。


(あんたの命の重さをあんたが決めれると思ってんの?かあ……。)


 あれはユーラの励ましだったのだろうか。その言葉は裏を返せば、誰からも必要とされない人間の命は軽い物と言えることにもなる。


 ユーラがその場で適当に言ったことなのだろうか、それともそれがユーラの価値観なのだろうか、ダンスはユーラが見せていない“何か”に引っかかっていた。


(旅の目的、それを知ったら何か分かる……のか?)


「……ダンス?」


「あ、え、なに?」


「ぼーっとして、大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ。」


「ならいいけど、よし!たくさんお金稼ぐわよ!」


 ユーラの目がキラキラ光る。ダンスはそんなユーラに様々な考察を巡らせる。そんな二人を、樹の上から覗く影があった。


「な、なにあの子!サンダーバードをあんな簡単に!」


 彼女はユーラの魔法に驚愕する。木の上にいたのは、腰の両サイドにスリットが入ったカーゴパンツを履き、上半身はビキニのみという森には場違いな服装した少女だった。金髪をポニーテールでまとめた少女はユーラをじっと見る。


「あの子なら、あいつらを倒してくれるかもしれない。」


------------------------

二時間後

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「はあ、取った取った。」


「多すぎるでしょこれ、どうやって持ち運ぶんだよ。」


 ユーラとダンスは積みあがった獣の山を見上げる。バジリスクやシーサー、グリフォンなどの死体の山。なかにはキメラの姿も見える。


「ダンス、あんたキメラとか殺して罪悪感ないの?」


「獣人によってはいるけど、キメラなんていろんな動物混ざってるし気にしたら負けだよ。」


「そういうものなのね。」


 この死体の山は、実はユーラによってのみ作られたものではない。いままであまり活躍してこなかったダンスだが、様々な動物をその身に宿す彼女の狩猟能力はユーラすらも超えているのである。


「さあ、お昼はバナナだ!」


「……朝もバナナだったでしょ。」


 ユーラとダンスは木の根に腰掛け昼食にありつく。いちようサンドイッチを持ってきていたダンスだったが、森で捕まえた獣の肉を美味しそうに貪っていた。


「ああ、なんか、こうやって生肉噛り付く姿見せられると毎晩あんたの横で寝ることの意味を考えなおさなきゃいけなくなってくるわ。」


「おにく~。」


 ダンスは無邪気な少女の笑顔で先程まで生きていた獣の血肉を摂取する。互いに互いの昼食をドン引きしつつも、ガールズトークに華を添えていた。


「ねえ、ユーラ。」


 お腹を満たした昼下がりの休憩中、ダンスは思い切ってその質問をぶつけることにした。


「なに?トイレならここ森だからそのへんで……」


「なんのために旅をしてるの?」


 ダンスの質問に、ユーラの表情が僅かに曇る。


「旅?ああ、修行のためよ。」


「じゃあなんのために修行してるの?」


 ユーラはその質問にしばらく沈黙した。静かな二人の間に森のざわめきが聞こえる。ダンスは何も濁さずユーラの答えを待った。


「……こういうこと言うと中二病みたいで嫌だな。」


「ユーラ、食べるよ。」


 濁そうとするユーラにダンスはユーラの合わせようとしない目を見て脅迫じみた返答をする。


「……復讐。」


 ユーラはそれだけをぼそっと呟いた。予想の裏側をいく答えに、ダンスはユーラが何と言ったかすぐに理解できなかった。


「それって……どういう。」


「……私にこんな大量の魔法をくれた、私をこんな人間にした奴への復讐だよ。」


 ダンスは口を閉じてしまい、今度は合わせようとしてくるユーラの目を逸らしてしまった。どう聞き返せば分からなかったのだ。


 それが誰か尋ねればいいのだろうか、安易に聞いてしまったことに謝罪すればいいのだろうか、頭で答えを探しているうちに沈黙は流れていく。そのとき


「あの!すみません!」


 どこからか人の声がした。ユーラとダンスは周囲を見渡す。しかし、人の影などない。


「ここです!樹の上です!」


 しかしその声は幻聴などではない。その声は、ユーラとダンス以外にとある人物の耳にも入った。


「おや、こんなとこで遭難者ですか。」


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