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第四話 強いの赤毛の魔法使い

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「ねえご主人、私なかなか売れないね。」


「それでいいんだ。キメラであることを嗅ぎつけられて見世物として買われるよりよっぽどいい。」


「でも、他の子達はすぐに優しい買い手見つかってるし……。(やっぱ胸無いからかな……。)」


「……三番(スリー)、君にプレゼントしたいものがある。」


「なに?またネズミ肉?」


 店主は三番という名札の上に新しい名札を掛ける。


舞踏(ダンス)……?」


「しばらく売れないかもしれないだろ?だから番号呼びじゃ味気ないと思ってね。」


「え……通称(コード)?わたしの!?」


「そうだ、君の踊るように軽やかな動きにちなんでね。焦らなくていい、いつかきっと、君にぴったりな買い手がやって来るさ。」



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「馬鹿な……お前は爆発魔法を操るんじゃねえのか?」


「まさか、火魔法だけで94個使えるよ。爆発魔法は8くらいだけど。」


 ウルフは目の前で起きたことに思考を巡らせた。ユーラの持つ魔導具が特殊なのか、それとも違う魔導具を仕込んでいるのか、ウルフはユーラの行動をまじまじと観察する。


「んー、ありえねえ、一つの魔導具で操れる魔法は一つという鉄則がある。なぜお前はそれを無視できる?」


「私の魔法は根本がそういうのじゃ無いんだよ。そんな驚かないでよ、あんたらのせいでこうなったんだから。」


 ユーラは杖をくるくると回し答える。そんなユーラにウルフは次の攻撃を仕掛けるため、腰に掛けていたさらなる杖を取り出した。


「どんなカラクリかは知らねえが……。なるほど、てめえを団長が欲しがるわけだ。」


 ウルフは【群狼(ぐんろう)】で再び灼熱の液体を創造し、そこに先程取り出した杖を振りかざす。


 すると液体はみるみる真っ黒に染まる。液体だった溶岩が凝固したのだ。


「俺も使えるねえ凍結魔法。氷を打ち砕くならこれでしょ!」


 ウルフが【群狼(ぐんろう)】を振り下ろすと、固まった溶岩はユーラを目指し速度を上げる。


 あらゆるものを溶かすマグマには、溶けた金属の粒がたくさん含まれる。黒曜石、そう呼ばれる火山岩は並みの金属にも劣らない硬度を誇るほどだ。


 ウルフが創造した溶岩も例に漏れず、固めればそれは頑丈な破壊兵器となる。


 ガキンッ!


「なに!?」


 しかし、その攻撃もユーラには当たらない。ユーラに当たる少し前で、地中からせりあがった金属の壁に防がれたのだ。火成岩の塊を受け止め、その壁は中央部分が凹んだものの、逆に言えばその程度である。


「無駄だよ、私はあんたの上位互換。」


「……。ほう。」


 ユーラのその発言に、今まで平静を装っていたウルフの脳内で何かが切れる音がした。


 ウルフは【群狼】で無数の溶岩を創造し、それを様々な軌道でユーラにぶつけにいく。直進するもの、曲線を描くもの、裏から回り込もうとするもの、それはまるで群れで獲物を仕留めようとする狼のように。


「無駄って言ってんでしょ!」


 二十は確実にある灼熱の獣達は各々の方法でユーラにぶつかっていく。その一発一発も決してやわな攻撃ではない。触れれば大火傷は当たり前、当たり所が悪ければ即死するような凶弾である。しかし、ユーラには溶岩の一片すらも当たらない。


 ユーラは氷魔法を使って以来、何かが吹っ切れたかのように様々な魔法を使いまくる。ときには岩壁で防ぎ、ときには同じ威力の爆破で相殺し、見事な身のこなしでウルフの魔法を弾いていく。


 ウルフが言ったように、普通であれば一つの魔導具で操れる魔法は一つまで、ましてやこれだけの魔法を習得している人間などこの世に存在するはずがない。しかし、すでにユーラは二十をこえる魔法を披露していた。上位互換、その言葉がウルフの頭を掻き乱す。


「ありえねえ!なんのインチキだ子娘!てめえがこの俺を越えてるはずねえんだよ!」


 ウルフは口調を荒げ【群狼】を振り回し、創造した溶岩を一か所にまとめる。溶岩はみるみる形を変え、やがて周囲の建物の高さを超える大きな塊へと成長していく。


 熱で真っ赤に輝く体躯を持つ四本足の獣、その溶岩の塊は、巨大な狼へと変貌したのだ。


神喰狼(フェンリル)、俺がこの怪物につけた名だ!」


 近づくだけで火傷するような熱気を帯び、その凶犬の呼吸の度に熱風が吹く。その様を見て、ダンスは恐怖の声を漏らす。


「なに……あの化け物……。」


「見せてやるよ子娘!これが俺の最高傑作!全てを焼き払う赤き……。」


チュドン!


 ウルフは何が起きたかを理解するまで数秒の時間がかかった。そして、その理解が追い付くとともに、ユーラに向けた感情は怒りから恐怖へと塗り替わっていく。


 ユーラが放った雷によって、ウルフが作り上げた最高傑作が一撃で破壊されたのだ。魔法で作られた溶岩の欠片は、地面に落ちる前にさらさらと消えていく。その光景を目の前に、ウルフの顔は真っ青に染まる。


「嘘だろ……。」


「あんたさあ、十五とか言ったっけ?使える魔法。」


 青ざめるウルフに、不敵な笑みを浮かべた少女が近づく。


「次は私がイキる番ね。私の使える魔法、どのくらいか分かる?」


 しかし、ウルフの思考は先程の衝撃に持っていかれ、ユーラの声など微塵も脳が拾わなくなっていた。


(無理だ!勝てねえ!魔力が違いすぎる!)


 ウルフの足は動かない。いや、正確にはあまりの震えに上手く動かせない。


「あんたの30倍以上。実に514の魔法を操れる。この数、何か分かる?」


 ユーラはウルフの目の前まで歩み寄る。そして、ユーラの持つ杖の先端をウルフの肩に乗せる。


「……やめろ、俺はた、ただ命令されたただだけ……。」


 ウルフは最後の勇気を振り絞りユーラと目を合わせる。ユーラは変わらず笑顔を向ける。


「ばいばいおら~。」


 バチッ!


 ユーラは、パーティーグッズ定番のいたずら程度の電流を流した。しかし、恐怖に支配された一匹の狼を気絶させるのには十分すぎる威力だった。ウルフは白目をむき、泡を吹いてその場に倒れる。


「だっさ……あの子の勇気に比べたら、子犬とも呼べない負け犬ね。」


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