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第二話 舞踏の奴隷のお客さん

 とある帝国研究所、その一室、大きなモニターの前にて、白衣姿の二人組が会話をしていた。女性の声と敬語口調の男性の声が無機質に響く。


「検体取りごときに五人も出動させたのに全滅しちゃったよ。使えないなあ。」


「にしてもあの少女、そうとうな火力の魔法を使ってましたが。」


「ふふん、そう見えるでしょ?私の考察が正しければ、ちょっとしたカラクリがあるのよあれ。」


「カラクリですか……。」


「優秀な子が勘づいてたけど、もしあの子がセイレナの生き残りだとしたら、分かってる?」


「ええ、あなたのことです。検体として欲しいんでしょ?報告して他の騎士団が動き出すのも面倒ですし、上には黙っておきます。」


「ふふん、いい子ね。これはまたと無い奇跡よ。そうと決まったら、もっと強い子に出動してもらいましょうか。」


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その夕方

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 カンジワリ市のとある裏路地、デーモンは煙草をふかし昼のことを思い出していた。


(あの子娘、周りに違和感を持たせないためか炎の魔法だけを使ってるように振るまってたが……。)


 デーモンは煙を噴き上げる。昼間の出来事によって、デーモンは思うところが多々あった。


(本来なら一つの魔導具で使える魔法は一種類……あの子娘、何種類の(魔法)を使ってやがった?)


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次の日

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「はっ……。」


「あ、やっと起きた。」


 ベッドから起きた少女は、自身の頭についた獣耳をぴくぴくと動かす。ふと横を見ると、ボブヘアの赤髪の少女がバナナを咥え、三角形の耳を興味津々に見ていた。


「獣人なんて久々に見た。あんたなんの獣人なの?」


「それ以前に聞きたいこといろいろあんだけど……。」


 獣耳の少女はユーラをじとっと見つめる。ユーラはバナナを飲み込むと得意げに口を開いた。


「それもそうね、なんでも聞きなさい!」


「……とりあえず、ここはどこなの?」


 それからしばらく、獣耳の少女とユーラの疑問の投げ合いが始まった。

その中で、

・少女が舞踏(ダンス)と名付けられた売られる前の奴隷であること。

・ダンスが帝国軍に攫われたとき、ユーラが助けたこと。

・その後帝国軍に眠らされたダンスを心配して、ユーラが近くの廃墟に連れて行ったこと。

・ユーラの大好物がバナナであること

など、様々な情報を共有した。

ちなみに、ユーラの攻撃がダンスを巻き込んだことは終始語られることは無かった。


「とりあえず、助けてくれてありがと。そういや、君の通称(コード)は何て言うの?」


通称(コード)?私はユーラって名前だよ?」


「……変な子だね。」


 ダンスは苦笑いをする。ユーラはダンスの言動に疑問符を浮かべるも続けて話をした。


「そんなことはいいとして、あんたなんで帝国のやつらに攫われてたの?」


「それは……、知らないよ。いつもどおりご主人のとこに帰ろうとしたタイミングであいつらが襲ってきたんだ。でも、あいつらお前は売られたって言ってたからそういうことなのかな……。」


 ダンスの視線が少し俯いた。その刹那気な表情をした少女をユーラはほっとくことができなかった。


「……ご主人のとこまでは同行してあげようかしら。」


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三十分後

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「なんか、眠ってる間に爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされる夢見たんだよねえ。(あの夢ちょっと良かったかも……。)」


「ふーん、気のせいじゃない?」


「夢に気のせいなんてあるの?」


「うんうん、気のせい気のせい。そういえば、あんた結局なんの獣人なの?」


「え、そ、それは、犬とかそこらへんだよ。」


 二人は横並びになって道を進んだ。背の低いユーラと比べてもダンスの背は低く、胸が控えめなユーラと比べてもダンスはさらに控えめである。ダンスは茶色い髪を腰まで伸ばしているため、その華奢な体形がいっそう際立つ。


「ユーラ、着いたよ。」


 たどり着いたのはぼろぼろの奴隷屋だった。ダンスが扉を開け放ったそこには、中年のちょび髭を生やした店主がいた。


「いらっしゃいま……ダンス!」


 突然現れたダンスに店主は驚きの様子を見せる。


「ご主人、どういうこ」


 店主は涙を浮かべ、ダンスを抱擁した。


「ごめんよ、ダンス!ほんとにごめん!」


 店主は泣きながらダンスの肩を持ち謝罪する。そんな店主にあたふたするダンスを見かね、ユーラが口を開く。


「とりあえず状況を説明して下さい。それと店にあるバナナも用意して。」


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みんな落ち着く時間

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「ふーん、ダンス、あんたキメラの獣人だったのね。」


 ユーラの発言にダンスは頷く。


「そうなんです。ダンスは希少性の高い獣人。珍しい獣人は鑑賞や実験など、非人道的な目的で買い取られることが多く、私は彼女に正体を隠すように言いつけていました。」


「……もしかして。」


「たぶん、ユーラさんの勘は当たってると思います。ダンスの存在を感知したのは帝国軍の黄道騎士団。そのなかでも蠍を象徴に掲げる第八騎士団です。」


 その店主の話にユーラの顔が青ざめる。


「あいつら第八騎士団だったのね。確か、騎士団の中でも研究や開発を主とする騎士団。名前忘れたけど、団長が新しく就任してから実験に関する倫理問題の不祥事が相次いでるっていう……。」


「ええ、もう目的ははっきりしてると言っても過言ではありません。」


 そんな店主にユーラは怒りをあらわにする。


「そんなやつらになんで売り渡そうとしたのさ!」


「……私は出稼ぎで奴隷商をしているのですが、もう家計が限界でして……ダンスを売れば娘を学校に行かせるだけの金は用意すると、ダンスの定価の何倍でも用意すると……。」


 店主はぼろぼろと涙を流す。その様子にユーラは、怒りも含めた様々な感情が沈み込んでしまった。


「……っ、」


 沈黙が店内を支配する中、最初に口を開いたのはダンスだった。


「ご主人……。今でありがと。」


「ダンス!駄目だ!」


「ご主人が困ってんなら仕方ないよ。帝国がそんな酷いことするはずないよ。人間ドックとかその程度さ。」


「あんた人の話聞いてたの?」


「ユーラも、ありがと。」


 ダンスは店主に笑顔を向ける。それとは対照的に店主は涙を浮かべ、ユーラもどこか思うとこがあり顔を俯かせた。



 そんな店内に帝国の、正確には、第八騎士団の刺客が迫っていた。


「んん、ここかい?キメラちゃんがいる店は?」


「はい!第八黄道騎士団・第二研究室長!(ウルフ)様!」


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