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第二十三話 木星と赤毛の城での戦い

「嘘……。」


 ユーラは顔を真っ青に染め国王の屍を見つめていた。正確には、あまりの衝撃に目が離せなかった。そんなユーラにジュピタは静かに語り掛ける。


「さて、僕が次にやるのは呪術師の始末とこの城の破壊です。赤毛の魔法使い。どうしますか?」


「……。そんなの……。止め……。」


 ユーラは言葉が続かなかった。これからジュピタのやろうとしていることにより大量の死者が出る。しかし、それは実際にユーラ達も被害を受けた呪術師達であり、なによりジュピタの悲し気な雰囲気がユーラの正義感をかき乱していた。


「止めに来たんじゃないのか?ユーラ。」


「なんで……。それを……。」


「こけおどしはやめてくれよ。」


 そう言うとジュピタは杖の先端で地面をこつんと叩いた。


「……樹々(ウッズ)。」


 次の瞬間、ガタガタと地面が揺れ始める。ユーラが何事かと思い窓を眺めると、窓の景色が下へ下へと下がっているのだった。


「なに!?この城浮いてんの!?」


 ユーラはバルコニーから再び翼を広げ外の様子を確認する。すると、城の土台から巨大な樹が生え、城全体を浮かせていたのだ。ルーレンシアで最も大きな建造物である国王の城を浮かせたのは、たった一人の魔法だった。


「あとは木の根を城中に張り巡らせ、握りつぶしてしまえばお終いだよ。」


 ジュピタは空を舞い驚愕するユーラにそんな言葉を投げかける。


「ちょっと!関係ない城の人まで巻き込む気!?」


「それが嫌なら止めてみる?」


 ジュピタは杖を構える。そんなジュピタにユーラは怒りをあらわにする。


「望むところよ!!」


 次の瞬間、ユーラは巨大な火の玉を空中に生成しジュピタのいるバルコニーに打ち放つ。しかし、ジュピタはそれを木の壁を生成し受け止める。


「そんなもんかい?」


「まだまだ!」


 ユーラの攻撃は止まらない。続いて複数の氷柱を生成し立て続けにジュピタに飛ばす。それも全てジュピタは木の壁で防ぐのだが、氷柱の広範囲な攻撃に木の壁も巨大化したところをユーラは見計らっていた。ユーラは足に雷を纏わせバルコニーに突っ込む。


「視界を遮った後の大技、見事だね。でも……」


 ユーラの突っ込んだ先には誰も居なかった。そして、周囲で待ち構えていた(つる)(つた)がユーラを拘束しようと飛びかかる。それをユーラは杖から炎を吹き出し防いだ。


------------------------


「おう、雌犬、久々だな。」


「な、め、雌犬!?」


 ダンスはデーモンの言いように怒りを示すが表情は満更でもないようだった。デーモンは椅子に腰かけその場にいた紅葉に声を掛ける。


「ありがとよ、あんたとあんたの師匠にうちの連れが世話になった。」


「いえいえ、当然のことをしたまでです。それに、薬の材料集めやここの民家だって、ルーレンシアの人からもたくさん協力して貰いましたし。」


 紅葉は笑顔で答える。しかし、その後すぐに深刻な顔でジャッジを見る。


「このハーピィさん。結構な重症みたいでまだ……幻影傷は正しい治療さえ行えばほとんど治るので大丈夫とは思うのですが……。」


「ジャッジ……。」


 ダンスは悲し気な表情を浮かべまだ目覚めないジャッジを見る。


「私を庇って、ごめんねジャッジ……。」


「まあ、でも治るんだろ?幻影傷は『妖国』に伝わる幻影術による傷、それを『妖国』出身のやつが治療してくれてんだ。これだけ頼もしいことはねえ。」


 デーモンはジャッジを一瞥し桜の方を見た。


「それはどうかしら、幻影傷は幻影によって傷を受けたと自身の脳が勘違いすることによって引き起る。ゆえに他人から症状の重さなんて分からないのよ。ちなみにだけど、人は勘違いで死ぬことも全然あるわ。」


 桜はダンスとデーモンに言い聞かせるように口を開く。その説明にデーモンとダンスは顔を青く染める。


「なんてね、冗談。この子の脳が傷は無かったって処理してるのに時間かかってるだけよ。そのうち目覚ますから安心しなさい。」


「「あんたの冗談(たち)悪すぎない?」」


 二人はほっと胸をなでおろす。そこでダンスはデーモンに質問した。


「ユーラはどうしたの?」


(ダンスには留まって貰った方がいい。ユーラが『惑星』のとこに行ったとばれたら絶対止めに行くだろな……。)


「ああ、ただの買い物だ。」


「なんだ、またバナナかな?」


 そう言うとダンスは桜の元へ歩み寄る。


「ねね、デーモン!」


 その声にデーモンはダンスの方を見た。


「あ?……ああああああ!?」


 デーモンの絶叫がこだまする。ふとダンスの方を見ると、体から外れた桜の生首を抱えたダンスがご機嫌な表情でデーモンを見ていたのだ。


「へへへ、面白いでしょ?」


「お前、ついに、そうか……野生の本能が……」


「……違うよ!」


 ダンスはデーモンの反応にむすっとしながら桜の生首の髪を撫でた。


「桜さん、ろくろ首なんだって。首が無いタイプのろくろ首だからこうやって外れるんだよ。」


「私はあなたのおもちゃじゃないのよ?」


 桜はため息を吐く。そんなダンスの気まぐれに振り回される空間に、突如として聞いたことのない女性の声が響き渡った。


「あら、びっくり!ろくろ首なんて初めて見たわ。」


 その女性の声に一同はあたりを見渡す。そして、その視線は部屋の入口の一か所に集まった。


「やっほー!盗人のみなさーん。」


 その女性の正体にデーモンとダンス、桜は顔をしかめ警戒する。大きく開いた胸元から見える蠍のタトゥーと、白衣の右肩に付いた帝国軍の刺繍が、その女性の正体を物語っていた。


------------------------

その頃

------------------------


「はあ、はあ……。」


「なんでも上手くいくなんて思っちゃダメなんだよ。」


 樹上にそびえる城の一角。景色が良く見えるテラスにて、木という木が絡みつき身動きが取れなくなった少女の赤毛を、ジュピタは優しく撫でおろした。


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