第二十話 病院の二人の研究員
「到着!!」
魔動車両から降りたユーラは元気にそう叫ぶ。
(あんなに気張ってたのにだいぶ落ち着いてきたな。どんだけ嬉しいんだ?)
デーモンはやれやれといった具合にユーラの頭を掴む。
「ほら、惑星が来る前にあいつら探すぞ。お前が惑星に喧嘩吹っ掛けようが吹っ掛けまいが、この街が危険なことは変わらねえんだ。」
「分かってるよ。頭掴むな!」
二人はゼンチの中央、城の近くに位置する病院へと向かった。
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病院にて
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「お前、なんだそれ?」
「珍物街だっけ?そこ通ったときに珍しいバナナ売ってたの。」
ユーラは右手に謎の果物を持っていた。シルエットだけはバナナのそれなのだが、青い皮に包まれた紫色の果実がまだらに通った緑色の筋を発光させており、とても食欲をそそるものではない。
「べつ何食おうと構わねえが、病院はやめとけ、ただでさえ気分が優れない患者が多いんだ。」
デーモンはユーラにそう忠告し、病院の待合席に座る白衣の女性に尋ねる。
「ここに審判っていう獣耳の娘背負ったハーピィが来なかったか?」
「ええ、知らない。わたし病院の人じゃないもん。」
「おっと、それは悪かっ」
そこでデーモンは言葉を止め、その白衣の女性の異変に気付く。
「てめえ、第八の人間だな?」
デーモンはその女性を睨みつける。座っているため目立たなかったが、女性の身長はかなり低い。子供のような女性は、白衣の裾で隠れた手でメガネを持ち上げる。
「あれ、なんで分かったの?」
「その身長の第八幹部と言えば有名だ。第四研究室長、“機神”定規。」
「へえ、わたし有名なんだ。」
ノーマは弄っているタブレットの電源を切る。
「おもしろいころ教えてあげる。たぶん、わたしと君たち同じ人探してるよ!」
ノーマは子供のような無垢な笑みをデーモンに浮かべる。
「ああ、ちっとも面白くねえがな。」
「おやおや、病院でそういうのはいけませんなあ。」
対照的な表情を浮かべる二人の間に入ったのは、ぐるぐるの眼鏡をかけた中央禿のいかにも博士というような老人だった。
「ヘビじい……。」
ノーマがヘビじいと呼ぶその老人は、デーモンの肩を掴む。
「今すぐここから出ましょう。我々も出るのであります。」
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病院の外
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「おやおやおや、キメラの少女を待ち伏せるためここに来たのでありますが、まさか先に赤髪の魔女と出会ってしまうとは……。」
「おじいさん、あなた誰?」
ユーラは老人を睨みつける。
「おやおや、申し遅れました。わたくし第八騎士団、第三研究室長の蛇使い(オフィウカス)と申します。こちらの少女は同じく第四研究室長の定規、以後お見知りおきを。」
「知りたくもねえ面々だな。」
病院の前にて対峙する四人であったが、第八の兵士は戦力的にユーラに到底敵わない。それは狼や祭壇を通して既に了承済みだった。その事実は、両者が知っていることだろう。
「ヘビじい!あいつらぶっ飛ばせばいいの?」
「待ちなさいノーマ、君では彼らにはかなわん。」
「ええ、つまんない。ったく、なんでこんな任務に研究室長が……。」
ノーマのセリフを遮り、近くの地面から鎖が出現しノーマを襲う。
「デーモンから聞いたけど、あなた達がまだダンスを狙ってるって言うなら容赦しないから!」
ユーラは更に、その鎖を帯電させる。その魔法にノーマは目をキラキラと輝かせた。
「ヘビじい!面白いよ!この子!」
帯電した鎖はノーマに巻き付き、感電させ捕獲すると思われた。しかし、鎖にまかれてもノーマはぴんぴんとしている。
「体に付けた避雷針さ!」
そう言うとノーマは僅かに動かせる腕で杖を取り出す。
「特殊魔法・魔力分解」
すると、ノーマを拘束していた鎖がさらさらと崩れ去ったのだ。ノーマは足に仕込んでおいたジェット噴射で一瞬のうちにユーラに接近する。
「なに!?」
「あなた、ほんとに強いの?」
ノーマはさらに右腕に仕込んだかぎ爪を白衣の内側から破き出し、ユーラに振り下ろす。ユーラはそれを杖で受け止めるとすかさず炎魔法をノーマに噴き出す。しかし、ノーマも下に屈んで避け、今度は左手の平をユーラの腹に当てる。
「死ね!」
ノーマの左手が炎を噴き上げる。しかし、それもユーラはなんなく躱したのだった。
今までとはとは別格のスピードで……。
「え、はや!」
「強化魔法も使えるんだよ。」
ユーラは強化したスピードでノーマの後ろに回り込むと、ノーマの持っている杖を取り上げデーモンの元へ駆け寄った。
「ああ、私の【メータ09】が!」
デーモンはユーラから杖を受け取りそれの端を両手で掴む。
「ったく、これへし折ればいいんだろ?」
そういうとデーモンは膝に杖を思いっきり打ち付けた。
ビリビリッ!
「くっ!」
「やーい、ひっかかった!【メータ09】には破壊されたとき電気が流れるように細工してあるんだよ!」
デーモンはそのあまりの電撃の強さに口から煙を吐き膝をつく。
「ちょっと!大丈夫?」
「油断した。そういやあいつらは研究部隊、純粋な戦闘よりこういう小細工のほうが得意だよな……。」
「さっきの戦法も面倒だった……、病院の近くでこんなことしたくないけど、ちょっと荒れるよ!」
ユーラは珍しくも杖を大振りに振り上げ風を巻き起こす。その風はぐるぐると加速し、周囲の物を巻き込みながら竜巻となって研究員二人を包み込んだ。二人はすがる物なく風に身を任され宙に浮く。
「こうなれば避けれない!」
ユーラは風の渦中に成すすべなくたじろぐ二人に杖を向け、らせん状の炎を撃ち放った。
「おやおや、これは老人には堪えますな。」
「言ってる場合!?」
ボワッ!
しかし、その炎の渦は二人に避けられてしまった。いや、正確には何かが二人を掴んで避難させたのだ。風が吹き荒れ自身の保護すらままならない中、ユーラはそんなはずないとその何かが伸びる方向に視線を移す。そこに居たのは、一人の背の高い男と、蛇使い(オフィウカス)と定規を掴み揺れ動く大きな樹であった。




