第十九話 事件のもう一人の生き残り
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ルーレンシア大国 首都ゼンチ
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「病院……病院……。」
空中を飛んでいたジャッジだったが、流石の傷に飛行が困難となりダンスを背負い街の中を歩いていた。
しかし、不思議なことに、誰の目からも分かるような重傷を負っているはずのジャッジに、医療大国であるルーレンシアの住民は見向きもしない。そんな中
「きみ?顔色悪いけど大丈夫かい?」
やっと人が話しかけてくれた。ジャッジはうつろな目で話しかけてくれた男性に口を開く。
「傷が……胸とお腹が……もう……。」
そう言いながらジャッジは男性にもたれかかる。
「きみ、傷って、お腹も胸も一見何も無いようだが……。」
男は周りの視線を気にしながらも上半身ビキニ姿のジャッジの体を観察する。しかし、男の目には傷どころか矢も、血の一滴も見当たらない。
「お兄さんありがと、さすがルーレンシアの人たちは真面目ね。こんなエッチな格好した女の子がふらふらで歩いていても手を出そうとしないなんて。」
困惑する男に革ジャンを身に着けた黒髪のマッシュヘアの女性が声を掛けた。
「な、なんだきみは?(ひえっ、不良!?)」
「お兄さん、細菌とか気にしなくていいから二人を地面に寝かせて。」
女性はダンスとジャッジの体をまさぐり、表情を確認している。その如何わしくも見て取れる現場に内心で男はガッツポーズをする。
「さすがルーレンシア国民、医療と私的な事情は分けれるのね。」
それを女性に見透かされ、男はぎくっとした態度をとる。男はそれを隠すかのように話題を変える。
「そ、それで、この子達は大丈夫なのか?」
「んーとね、分からない。超やばいかも……。」
女性は険しい顔をしながら言う。
「ほ、ほんとうか!?」
「今すぐ医療道具と休める場所を用意できないかしら?ルーレンシアではすぐに揃うと聞いたけど。」
「しかし、揃うと言ってもきみも分からないんだろ?まずいなら病院に行った方が……。」
「幻影傷は当人にしか分からない。病院にいってもやることは一緒だし、たぶん私より時間がかかる。私は医者よ、お願い信じて!」
そう言うと女性は、太ももに着けた青い紐を男に見せた。
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[まもなくー、スコヤ、スコヤ。]
「なあ、お前飛べねえのか?」
「飛べるけど、長時間は飛べないし、なによりこっちの方が早いでしょ。」
デーモンとユーラは魔法を動力にして動く電車にのり、ゼンチを目指していた。しかし、ユーラは落ち着かないのか窓を見たりデーモンを見たりと忙しそうにしていた。
「どんなに焦っても時間は変わらねえ。そうだ、話題を変えねえか?」
「そんな悠長なこと……。」
「ほら、前の続き……ポーラーのことだ。」
その言葉にユーラの動きが止まる。
「……そう言えばそんなこと言ってたわね。」
ユーラはジトっとデーモンを見る。
「ああ、あんま良いことねええ最近だ。お前に朗報をくれてやるよ。」
「さっき狸から嬉しくない朗報貰ったばっかりなんだけどなあ。」
デーモンは煙草に火を点けつつ口を開く。
「単刀直入に言うと、セイレナの死亡不明者の一人『ポーラー・ヨナグニ』は生きている可能性が高い。」
「……。ほんと?」
デーモンがふと顔を上げると、ユーラは目を潤わせながらデーモンを見つめていた。ユーラは目に涙を浮かべ呟く。
「でも、ポーラーはあの時私の目の前で……。」
「知らねえよ。ただ確かな筋だ。少なくともセイレナ事件は生き残った。お前とそいつの関係は知らねえが、今は無き同郷の生存が分かっただけでも朗報だろ。」
そのデーモンの言葉に、不安に染まっていたユーラの顔が少し明るくなったようだった。
「ポーラー、生きてるんだ……。」
嬉し涙を流すユーラは、口に出さずとも思うところは多々あった。それもそのはずだ。デーモンが名前を出した人物ポーラーとは、ユーラにとって……。
「今、どこに?」
「さあ、帝国の情報集めてたらセイレナで保護された人物として資料が出てきたんだ。今何してるかなんて知らねえよ。」
「あんたあのときそれをダシに使ったのね。」
ユーラは騙されたような気分でデーモンの適当な言動をにため息をついた。しかし、それでもにっこりと笑顔を浮かべユーラはデーモンに感謝した。
「でも、教えてくれてありがと。」
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とある民家
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「んん、ん。」
「頑張って下さいね。桜様がしっかり治療してくれますから。」
丈の短い、赤とオレンジの花柄の浴衣を着た少女が、ダンスとジャッジをベッドに寝せ、楽な姿勢を調整していた。その部屋の隣では、桜と呼ばれる革ジャンの女性がちょうど薬の調合を終わらせていた。
「すごい、こんな簡単に強い薬ができちゃった。しかもコスパがいいのね。」
桜は二人が寝ている部屋へ二種類の薬を持っていき、一つの薬を飲ませ、もう一つの薬を怪我があると思われる場所に塗っていく。
「この子はお腹と胸だけだから紅葉おねがい。こっちの子は気絶してどこが怪我してるのか分からないから私が全身塗らなくちゃ。」
「あの、桜様、ちょっと胸は……。」
「いいから塗んなさい。」
「は、はい!し、失礼しますね。」
頬を赤らめつつも、紅葉と呼ばれる浴衣の少女はジャッジに薬を塗っていく。
「幻術使い……。この近くにいるんですかね。」
「さあ、でも、このレベルの幻影傷を残せるのはかなりの強者ね。」
「ジャッジ!変なとこ触んないでよ!!」
突然、桜の頭にダンスのスイングが炸裂した。
「ええ!?姫様!?」
「むにゃ……ん?」
そして、寝ぼけたダンスがふと目を覚まし辺りを見渡す。
「ん、ここ……どこ?」
ごろんっ
何かが転がる音がする。動く物に敏感になるのが獣の性なのか、ダンスは音がした方向を見る。すると……
「にゅぎゃあああ!!!!」
ダンスは顔を真っ青に染め叫び声を上げる。そこに転がっていたのは、女性の生首だったのだ。ダンスはあまりのショックにベッドから落ちる。
ふと天井を見上げると、そこでは首の無い人間がダンスを見下ろすような素ぶりをしていた。
「あがががが……」
ぐたっ
ダンスはその首の無い人間を見て恐怖のあまり再び気絶してしまった。
「ありゃあ、寝ぼけてたんですかね……。」
「はあ、こっちがびっくりしちゃったわ……。」
ごろごろと転がる桜の首は、そんなことを呟きながらダンスの姿を眺めていた。




