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第一話 いつかの事件の残り物


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「セイレナ事件」から七年後

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 ここは帝国の外れに存在するスラム街『カンジワリ市』。人身売買や麻薬密造が横行する無法地帯である。


「俺は足洗ったんです。帰ってください。」


「そう仰らずに、ほら、あなたの大好きなものならここに……。」


 そう言って黒づくめの男は煙草を咥えた男にアタッシュケースの中身を見せる。ぎっしりと詰まった大金だ。その様子に煙草を咥えた男はため息をついた。


「はあ、ここ半年で帝国の反乱分子への圧力は増している。俺はもうそういう稼ぎ方はしねえし、あんたらも辞めるこったな。」


 この男は、かつて『伝説の情報屋』として名を轟かせていた。冷酷な仕事ぶりと見返り(依頼料)を第一とした理不尽な契約内容から、彼は悪魔(デーモン)と呼ばれ界隈から(おそ)れられていた。

 デーモンは黒づくめの男を無理やり突き返し、強引に扉を閉めた。


「ったく、あいつら、次の交渉次第で俺を始末するつもりか……。今日中にここも撤退だなこりゃ。」


 そう呟くと、デーモンはブラインドの隙間から街を眺めた。平屋が一般的なこの街で、三階建てのデーモンの仮住居は街の様子が良く見える。


奴隷を連れ歩く商人、盗みを働いた子供とその店主の追いかけっこ、ハエのたかる毛布にくるまる老人、どれもこの街では普通の光景である。


「ふん、絶景だな。」


 そう皮肉るデーモンだったが、街の一角で起きた争いごとに目が止まった。


「なんだ?ありゃ。」


 この街で争いごと自体は珍しいことでも無いのだが、問題は争っている両者にあった。


 背の低い人影が一つ。ローブを身にまとい、杖を持った赤毛が綺麗な少女である。相対するは鎧を身にまとった兵士が複数人。五人くらいいるように見えるが、そのうち一人は眠っている少女を背負っている。赤毛の少女の背後には馬車が一台止まっていた。


 デーモンはその馬車の側面に描かれているマークと、兵士のまとう鎧にはっきりとした見覚えがあった。


「帝国のやつら…しかも第八ども、こんなとこに何しに来やがった?」


 馬車に描かれていたマーク、それは帝国軍のエンブレムであった。帝国軍の兵士達が華奢な少女と多対一で対峙する異様な光景。しかし……


「なんで少女(あいつ)バナナ持ってんだ?」


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一方そのころ

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「あんたら、女の子拉致るってそれが国のすることなわけ?」


「君には関係ない。早くそこを通してくれ。」


 少女は兵士達の対応に怒りをあらわにすと、右手に掴んだバナナを頬張り左手に掴んだ1.5メートルほどの杖を兵士達に構えた。


「むぐ、そういうとこがむっかしから嫌いなんだよ帝国(あんたら)は!」


兵士A「ほう、君がそのつもりならこちらも相手するまでだぞ?」


兵士B「ん?……赤毛と碧眼で十代後半、どっかで聞いたことあるような。」


 兵士達も攻撃用の杖を構える。スラム街の一角に緊張感が走る。


「いけ」


 その合図とともに、三人の兵士が杖を振り、魔法を繰り出した。一人は炎、残りの二人は電気の魔法だ。杖の先端からはそれぞれの属性が飛び出し、一直線に少女の元へ向かう。しかし


 ボワッ


 その攻撃は全て、少女の目の前で燃えて灰になるかのように消え失せた。


「甘いね。バナナより全然甘い。」


 少女はそう偉ぶると、杖の先端をくるくると回した。その様子に兵士達は目が点になる。



兵士C「おい、何が起こった?第八騎士団の魔導具だぞ?ちゃちな魔力じゃ弾けるわけ…。」


 困惑する兵士たちの中に一人、幽霊でも見たかのように顔を真っ青に染めた兵士がいた。


兵士B「まて、思い出した!燃えるように赤い毛色、たしか、セイレナ事件の……推定年齢もあのくらいだ!」


 その兵士の発言が周りに伝播し、兵士達はざわめき始める。


兵士C「まさか!?」


兵士D「こんなとこに居るわけねえよ。教習所でやったろ、あいつ等は全員死んだんだ。」


 しかし、兵士の希望を裏切るかのように、少女は僅かに口角を上げた。


「へえ、覚えてる人いるんだ。みんな忘れてるもんかと思ったよ。」


兵士B「まずい!あの火柱が来る!」


 少女の杖から炎が噴き出す。その炎は螺旋の軌道を描き、兵士全員を巻き込んでいく。


「火柱?そんな強くないから安心しな。」


 高速で渦巻く炎は兵士たちを吹き飛ばし、それぞれが建物に凄まじいスピードで突っ込んでいった。彼らはその一撃で頭を強打し気絶する。帝国の兵士達を相手取り、彼女の攻撃はたった一撃で終わったのだった。


「あ、……拉致られた子も巻き込んじゃった!」



 鮮やかに染まる赤毛をなびかせる少女。



「ああ、見つけた!大丈夫かな……。」



 彼女の名は『ユーラ・ファントムサイト』、セイレナ事件で弾圧された集団の一人。



「おお!良かった、」



 七年前、死亡と判断された遺体未発見者の一人。





「よし!ちゃんと生きてたね!」



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