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第十二話 呪術の争いの最終局面

「なんか気味悪いこと以外立派な魔道具だが……普通だな。じゃあやっぱり子娘の特殊魔法か……。」


 屋敷の大広間にて、デーモンはユーラの魔導具を手に取りじっくりと眺める。


 暗い色の木でできた竿の先端には、竿の木が根のように巻き付き固定された水晶玉。シンプルな見た目であり、木の大部分が焦げで黒くなっているが、その魔道具としての作りの良さをデーモンは理解した。


「最後の仕事にえらいやつらと関わっちまった。あのガキどもは終わりだろうな。」


 デーモンは愚痴をこぼしながら口から煙を噴き上げる。伸びる煙草の煙はこの大広間では天井に届くことなく消える。それをデーモンはぼんやりと眺めていた。


「ここだよね!」


 するとどこからともなくユーラの声が聞こえる。間もなくして、ジャッジを抱えたユーラとダンスがこの大広間に入ってきた。脱出口を探すのとはわけが違い、ダンスの嗅覚をたよりにこの部屋にたどり着くのは簡単なルートだったようだ。


「あ、あった!私の【葬儀の(ララバイ)】!ってあんた誰!?」


「ほう、ララバイっていうのか……。」


 デーモンはユーラに【葬儀の(ララバイ)】を投げ渡す。


「え、ありがと、敵じゃないの?」


「敵の仲間だ。」


「じゃあ敵じゃない!」


「てめえとあの恐山(小僧)が来た時点で、あのガキどもの計画なんて積みだ。ちょっとは手を貸したがこの現状見りゃあ、あとしてやることなんてねえよ。」


 デーモンは煙を吐きユーラの方を見る。ユーラはきょとんとした目でデーモンを見ていた。デーモンは話をリセットする合図かのように煙を吐く。


「ユーラ・ファントムサイト、セイレナ事件で死体が見つからなかった死亡推定者どもの中にそんな名前があった。」


「……よく知ってるね。」


「え……。」


 当然のように答えるユーラに反して、ダンスは誰にも聞こえないような声を漏らした。突如現れた謎の男が、ダンスの知らないユーラの衝撃的な過去を言い当てたのだ。さらに、その過去がセイレナ事件の生き残りと言う。


 ダンスはその衝撃のあまり喉が詰まったかのように息ができなくなる。


「あれだけのことが起きれば思い出したくもないはずだが、お前のそのさっぱりとした態度はロールプレイか?」


 デーモンの発言にユーラはしばらく固まる。しかし、デーモンは構わず話を続けた。


「お前のその態度とは別に露骨に見て取れる帝国への執着心。だいたいは察する。これは単なる俺の好奇心で聞くが、お前のその魔法はなんだ?お前は何をしようとしている?」


 ダンスはそんなデーモンをじとっと睨みつける。デーモンはダンスの知らないユーラの過去を知っていた。ダンスが聞くのをためらっていたことを平気でユーラに問い詰めた。胡散臭さからの警戒とダンスは内心で理由付けしたものの、その深層には嫉妬心も含まれていた。


「……。おじさん、あんた名前なんて言うの?」


悪魔(デーモン)って呼ばれていた。あとまだ28だ。おっさんじゃねえ。」


「ごめんねおじさん、知らない人にべらべらと言えるような秘密じゃないんだ。」


「……。ポーラーについて知っていると言ってもか?」


 そのデーモンの発言に、ユーラの表情が固まる。


「おじさん、それどこで……。」


「……。話は後のようだな。」


 ドガンッ!


 刹那、ユーラ達の背後の壁が吹き飛ぶ。ユーラ達はそれを察知し距離を取る。


「ふざけんな!!こけにしてくれやがって!てめえなんで術が効かねえ!?」


 そこから現れたのは怒りで目が吊り上がった翔一の姿だった。


「ユーラ・ファントムサイト!傀儡と成りて我に服従せよ!」


「……。無駄だよ。」


 ユーラはデーモンから貰った魔道具を翔一に向ける。


「対呪術の抗体、すごい昔に掛けられてたから発動が遅れたけど、発動したからには効かないよ!私だって使えるしね!」


 そう言うとユーラは魔道具をジャッジに振り下ろす。軽く当たった頭の部分から白い光がジャッジを駆け巡り、ジャッジの目の色が黒から元の色に戻る。


「はっ!あれ、ここは……。いたた。」


「ダンス!ジャッジ連れて下がって!」


「う、うん!」


 ユーラと翔一が対峙する。ユーラは冷静を装い表情を崩さず、それとは対照的に翔一の表情は怒りに染まっていた。


「……。嘘だな!」


 翔一はユーラに接近し蹴りかかる。それをユーラは魔道具で防ぐが、力に押されてよろめく。ユーラは負けじと火魔法を撃つが……


 ドガガン!!


 火魔法は明後日の方向に明らかにオーバーな勢いで噴き上げ、大広間の壁を焦がした。


(まずい、火力が出過ぎた。)


 その隙を見計らい、翔一はユーラの腹部に飛び蹴りをかます。


「うぐっ!」


「確かに呪術は完全には効いてねえようだが、魔力は支配されかけてる。うまく魔法が使えねえんじゃねえのか?」


 翔一は怒りに身を任せながらもユーラの不調を見抜いていた。


「呪術は、魔力を生み出せない異世界人(俺たち)が、対抗手段を得るために編み出した魔力を支配する術!あれだけ膨大な魔力を背負って呪術を掛けられておきながら無事でしたじゃ済まねえんだよ!」


 翔一は警棒を取り出しユーラに猛攻を仕掛ける。ユーラも魔道具を盾に攻撃を防ぐが、純粋な肉弾戦となれば男子の身体能力にはかなわない。明らかな防戦一方を強いられていた。


「ユーラ!ごめんなさい!」


 そんな戦闘のさなか、ジャッジの謝罪が響き渡る。


「ごめんなさい!こんな悪党どものためにうちはあんた達を騙した!もうこの家も壊していいから!償うことは償うから!早く魔法を暴発させてあいつを倒して!」


 ジャッジはユーラが防戦を強いられている原因を察していた。だからこそ、ユーラを追い詰めているものが、この状況を作ったのが自分だと罪悪感に追い込まれていた。それも、形見すらどうでもいいと思えるほどに。


 しかし、ユーラは魔法を使わなかった。


「ほら、だってよ。使えよ!さっきみたいなオーバーキルの魔法をよ!」


「……。」


 ユーラはひたすら翔一の攻撃から耐える。服の下の痣は増え、骨が軋み痛みが増す。それでも


「あなたには分かんないんじゃない?形見を失う辛さを……。」


「ああ?」


「正常な判断ができないくらい守りたいって思えた物を、大事な人と暮らした思い出を失うことがどれだけ辛いか分からないでしょ!」


 そのユーラの叫びはジャッジの元にも聞こえた。ジャッジの目が潤みだす。


「……師匠。」


 ザギンッ!


 その刹那、翔一は何かが千切れる音を聞いた。


「ごめん、ユーラ、ちょっと遅れた。」


「……。遅い。」


 ユーラはその言葉を最後に床に倒れ込む。そして、千切れた数珠を持った白毛の獣がユーラのポジションと交代する。


「久々だから変化に時間かかっちゃった。よくもうちの飼い主やってくれたね!」


 山羊の角、熊の手、豹の尻尾に鹿の足。その白く美しくも禍々しい混獣(キメラ)の目は、蛇のような目で標的を睨む。


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