第十話 風の秘密の風車
ダンスは廊下を走り窓を探すが、それらしきものは見当たらない。
「この物件日当たり最悪すぎるでしょ!」
そう愚痴をこぼしながら、ダンスは先程の二人の男のことを考えていた。
(呪術……人々が互いを通称で呼びあうようになった原因となった術。)
ダンスは息切れを起こし一度立ち止まる。
(遠い昔に異世界から現れた、魔力を扱えない人間が編み出した魔力の強制操作術。おとぎ話だと思ってたけど、ほんとにこんな術を使うやつらがいるなんて。)
------------------------
「遊びじゃないんだぞ?小僧。」
「遊びでこんなことしませんよ。」
廊下で二人の人影が対峙する。片方は漆黒のマントを羽織り、もう片方は帝国のマントを羽織る。その帝国のシンボルを背負った少年は、右手に風車を持ち、まじめな面持ちで黒マントの青年を睨みつける。
「そうか、とっととくたばってくれ。」
喜助は数珠を付けた右手を胸元に持ってき、親指・中指・人差し指を立てた構えで呪文を唱える。
「気よ震え、対象を共鳴させ破壊せよ。」
そると喜助の周囲の壁や床がガタガタと音を立て揺れ始める。その揺れの周波数は徐々に上昇し、甲高い騒音となる。
「空気中の魔力を震わせた衝撃波、お前に耐えれるか?」
騒音は恐山に襲い掛かる。廊下という一本道から恐山は避けることができない。しかし、
ギュイン!
「振動は空気の震え、それならばとるに足りません。」
恐山にその攻撃は届かなかった。振動という目には見えない攻撃であるゆえに何が起きたのかは恐山にしか分からなかったが、彼は振動を切り裂いたのだ。
「……ほう、空気を操れるのか。」
「仕掛けを教える程僕は優しくないですよ。」
恐山、彼の正体は魔法師ではない。その証拠に魔導具を使わずとも自在に風を操ることが出来る。彼の正体、それは、『鎌鼬』と呼ばれる風の妖怪である。
「だが、それだけだ。」
「うぐっ!?」
確実に喜助の攻撃を避けたはずの恐山に全身を揺らすような衝撃が走る。それに耐えきれず恐山は蹲る。
「私が揺らしているのは何も空気だけじゃない、魔力だ。ゆらした空気中の魔力は空気の衝撃波とは別の速度、つまり時間差でお前を襲う。空気の攻撃も合わせれば効果絶大なのだが……残念だな、お前は中途半端な苦しみを味わいじわじわと嬲られるのだ。」
恐山は腹を抑え立ち上がる。
「はあ、はあ、魔力の軌道は確かに読めない。弱りましたね……。」
「そうなれば私は魔力だけを揺らしお前に攻撃するまでだ。お前は攻撃を見ることもでき」
シュバンッ!
勝利を確信した喜助の頬を、突然赤い鮮血が線を引く。喜助が頬を撫でるとじんわりとした痛みが襲い、それで切り傷ができていたことを確認した。喜助はこの状況で何が起きたのか理解できなかった。
「……何をした?」
「どうやら、攻撃が見えないのはお互い様のようですね。」
喜助はなにかトリックがあるはずと冷静に状況を分析する。だからこそ、喜助はその存在を目の当たりにすることとなった。恐山の背後、伸びる廊下の二十メートル程後ろ、そこで待ち構える伏兵の存在に。
「あれは……風車……。」
びっしりと廊下に壁を作るように並び、空中でくるくると回る風車。喜助は恐る恐る振り返ると、そこには地面に突き刺さった風車があった。
「あれを飛ばしてきたのか、私の視界に入るころには既に見えなくなる速度に加速させて。」
「忘れないでください!僕も攻撃しますよ!」
そう言うと恐山は突風を喜助に送り付ける。それはただの突風ではない。直径十センチ程の面のみを吹き荒れる、一点特化型の突風。まさしく空気砲である。
「うぐっ!あなどるな!」
空気砲を食らうも喜助も恐山に攻撃を仕掛ける。喜助の振動も恐山に命中し、恐山は背中から倒れる。
シュバンッ!シュバンッ!シュバンッ!
しかしそれすらも恐山は反撃に利用した。恐山が倒れたことによって空いた空間から、猛烈な風切り音を立て風車が三本ほど飛んでくる。それは喜助の両肩と構えた数珠を打ち抜いた。
「なに!?」
「その数珠が無ければ呪術は使えない。終わりです!」
恐山は風に乗り喜助に接近し、喜助の腹に自身の手の平を当てる。
ドガンッ!
至近距離からの空気砲に、喜助は膝から倒れ込む。目の前が眩みながらも、意識だけは手放すまいと目を見開くが……
「まったく、呪術師にうかつに近づけませんし、かと言って殺すのもまずいんで苦労しましたよ。」
殺そうと思えば殺せた。そうともとれる恐山の発言を最後に、喜助は諦めたかのように気絶した。しかし、恐山もただで勝ったわけではない。平静を装ってはいたが、体内の魔力をかきまわされた恐山にも酷い乗り物酔いのようなダメージは入っていた。
「一人捕まえたので余裕が持てますね。救援とこの事件の解明、どちらを取りましょうか。」
そう言いながらも、恐山は腰を下ろし、体内の魔力が落ち着くまでその場で休むことにした。
------------------------
一方
------------------------
ダンスは出口を探すため窓を探していたのだが、あまりの窓の無さととある状況に違和感を持つ。
「窓がない……。でも、電気がついてないのに廊下は明るい。あの黒マントたちがなんかしたのか?」
よくよく考えてみればそうだった。恐山と逃げたときも、一か所の窓の前に喜助は都合よく立ち塞がった。恐らく、幻術かそれに近い小細工をされているのだとダンスは勘づく。
「……誰か来る。しかも!」
ダンスは人の気配を察知する。それは、ちょうどダンスの隣の扉の向こう側であった。しかも、その匂いや気配は良く知った人物だった。ダンスは扉を勢いよく開ける。
その部屋は対を成すように左右に三つずつ、計六個の扉。中央に大きな長テーブルと無数のならんだ椅子。おそらく食堂のような部屋だった。奥にはおそらくキッチンに繋がるであろう、大きな扉が見える。
そして、その食堂がどこかへ繋がる通り道になっていたのだろうか。ダンスは、固まって動けないユーラを背負ったジャッジメントと再会することとなった。




