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第零話 少女の紅の過去

急遽一話を改変し、零話として主人公の話を掘り下げることにしました。一話から読んでも問題なく読み進められるので飛ばして頂いても大丈夫です。


初投稿作品ということもあり、まだまだ不慣れですが感想などでアドバイス頂けると嬉しいです。

「【葬儀屋の唄(ララバイ)】?」


「この杖の名じゃ。これは遥か昔に存在したとある魔法を操るためだけに作られた魔導具。そんじょそこらの魔法師が使える代物じゃない。」


 髭を伸ばした背の低い老人は、丈夫な木の枝の先端に水晶玉が付いた杖を夫婦に渡した。


「ですが……なんでそれを私達に?」


「おぬしらの娘、ユーラとか言ったかの?そやつの魔力にその杖が反応した。彼女はいつか強大な魔法を手にするじゃろう、それも(いにしえ)の魔法じゃ。」


 夫婦は顔を見合わせ、互いの不安に満ちた顔を確認する。夫が口を開いた。


「しかし、ユーラはまだ三歳。それに、そんな得体の知れない魔法……。」


「そうです。それに、帝国への反乱を決意するかはあの子に決めさせたいんです!」


「ばかもの!!」


 そんな夫婦に老人は怒鳴りつける。


「おぬしらが望んで産んだ子じゃろ!反国の意思は、セイレナ(この町)に生まれた時点で絶対じゃ、それに……。」


 老人は少しの間を置き、再び口を開いた。


「得体の知れぬ魔法ではない。しっかり文献は残っておる。」


 そう言うと、老人は近くの本棚まで歩み寄り古い本を取り出す。


「その魔法の名は【鎮魂歌(レクイエム)】。死んだ魂を操り、彼らの生前の魔法を我が物とする強力な魔法じゃ。戦争で死人が出たとしても、それらの魂はユーラへと受け継がれる。その力は我々が追い込まれたときにこそ真価を発揮する。」


 老人は古い本のページを開き夫婦に語り掛ける。しかし、夫婦の顔は未だ浮かない。


「そんな、死者を操る魔法なんて尚更ユーラには持たせられません。」


「ふん、せっかくの希望なんじゃがな。まあよい、ユーラが成長するまで時間はある。とにかくこの杖はお前らに預ける。壊したりなどしたら許さんからな!」


-----------------------

七年後

-----------------------


 セイレナは、火の海と化していた。


「ユーラ……にげ……。」


 バタッ……。


「ぱぱ!ぱぱ!!」


 焼けた家屋に焦げた大地、(ただよ)う熱気に激臭が入り混じる。五感の全てを絶望で満たす地獄のような状況から逃げるため、少女は小さく(うずくま)り真っ赤な手で綺麗な赤毛を覆った。


「やだ……やだ……。」


 少女はひたすら泣きわめくことしかできなかった。元居た家は焼け崩れ、苦楽を共にした親や友は灰となり瓦礫と見分けがつかなくなる。そんな現実を目の当たりにして、たった十歳の少女が正気を保てるはずがなかった。


「安心して!君は我々が保護する!」


 どこからかそんな声が響いた。しかし、全てを失い絶望した少女にそんな言葉は届かない。


「やだ……やだああ!!」


 少女が叫んだそのとき、突然少女の体からバチバチと火花が散った。


そして、偶然か必然か、夫婦が隠し持っていた【葬儀屋の唄(ララバイ)】の水晶玉が光り輝く。


「なんだ……これは。」


 一人の大男が火花を噴き上げる少女の元に近づく。その時---


 ボワッ


 少女の癇癪(かんしゃく)と共に勢いを増した火花は、少女を囲む火柱となって空を駆けあがる。火柱は街を飲み込むかのような勢いでみるみると直径を広げ、付近にいた兵士たちを飲み込んでいく。


「やだあ!!かえせ!!」


 大男も例外では無く火柱に包まれる。しかし、大男は声を振り絞った。


「全兵に告ぐ!自身を守ることを優先しろ!撤退だ!」


------------------------

戦争で死人が出たとしても、それらの魂はユーラへと受け継がれる。

------------------------


 その日、この街で起きた反帝国主義者の弾圧は、後に『セイレナ事件』と呼ばれ語り継がれていくこととなる。


 この事件で特に語られる出来事は二つ。一つは、その夜多くの人々が目撃した夜空を貫く火柱。もう一つは、事後調査で明らかになった遺体が見つかっていない五人の反国主義者の存在。


 その火柱の渦中にいた反国思想の幼き少女『ユーラ・ファントムサイト』、享年十歳……



 遺体未発見。


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