最高等級の人材を召喚せよ(ただし数学者は含まないものとする)
短編であげてしまってたため、連載に変更してあげ直します。
ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。
「こ、この虹色の光は!!」
「遂に来ました! 五つ星級の召喚ですよこれは!」
ベアトル王国は地球人から見れば異世界である。
そしてベアトル王国を始めとした諸国は、意図的に地球人を召喚する魔術を編み出し、実用化している。
一ヶ月に一度のペースでしか召喚できないものの、この世界の文明レベルで見れば大抵の地球人は召喚するだけの価値があるのだ。
「百年に一人の階級を引き当てられるとは…込み上げてくるものがありますね」
「ええ、全くもって同感です」
この世界における召喚とは地球人を召喚することに特化したもので、誰を呼び寄せるかまでは選択できない。
犯罪者を召喚することもあれば、子供を召喚することもあるなど、とにかく欠点は多い。
それでも優秀な人材を確保できれば完全にペイできてしまう。
「よし、輪郭をキャッチしました!こちら側に引き寄せます!」
「こんな機会、俺らの世代では二度とないかもしれんぞ!失敗するなよ!」
「分かってますって!」
いかにもなフードを被った魔術師たちが、各々の役割に沿った呪文を唱え始める。
呪文が進むにつれ、輪郭が鮮明になり、衣類もこの世界に射影されてきた。
そして呪文が最後まで練り終わる。
「召喚!!!」
最後の言葉とともに魔力が弾け散り、空気にその振動が伝わりバチバチと音を立てる。
魔力のベールが剥がれるにつれ、あわれにも召喚された者の姿形がいよいよ明らかになる。
「………」
まず彼を一言でいうなら、どこか間の抜けた印象を受ける、そんな印象を強く受ける男だった。
それでも顔つきは穏やかな雰囲気で、遠目で見ても知的であるのはなんとなくでわかってしまう、そういう人なのだろう。
そんな彼は驚きのあまり、ぽかんと口を開けている。
パニックに陥らないだけマシなので、そのまま魔術師は彼に意思疎通用の魔法をかける。
「これで言葉が通じるようになったはずだが、どうでしょうか?」
「え…あ、ああ…」
たどたどしいながらも、会話もできた。
彼の手を取り、いつも通り王の間に案内することにする。
~王の間~
「おお、そなたが五つ星級と噂の呼び寄せられし者か!どうぞ楽にしてくれ」
我らが王、アルーム王は大らかにかつ尊大に呼びかける。
その言葉を受け、被召喚者は言葉通りに楽な姿勢をとった。
王は少し顔をしかめたが、せっかくの五つ星級の被召喚者だということで、あまり気にせず続ける。
「さて、お主はこの世界に望まれて召喚されたのだ……」
今回も変わらず王の話が始まる。
この世界に召喚された者は、この世界のために王宮直属の所員として働く必要がある、そうしている限りは私有財産権などを認め、ここに永住する権利をベアトル王国は保証する、という旨の話だ。
今日ばかりは王の話にも熱がこもっているように感じられる。
まあ五つ星級の被召喚者なのだから当然といえば当然、他国に渡ってしまえばとんでもない損失となるからだ。
「さて、ここまではわかってくれただろうか?」
「ええ、まあ、なんとなくは…」
被召喚者はどうにも釈然としない様子で返事をする。
ここで妙な疑問を持たれるのはまずいと考え、王は畳み掛けるように話を続ける。
「我らの勝手な都合で召喚したというのはその通りだとも」
「だが宮仕えである限りは様々な権利を認めているし、罪を犯さない限りは生存権すら保証されているのだ」
そうなのだ、この国の非常に身勝手な都合なのだ、そこは認めよう。
しかし身勝手都合とはいえ、色々と諦めてもらわないと困るのも事実だ。
「して、お主はこの国に仕える気はないか?」
そもそもの話、召喚自体はもう成功してしまっているので、召喚にかかわる「義務」自体は発生している。
あくまで合意が結ばれたという建前さえあれば、万事がこちらの都合で上手くいくのだ。
ただ彼はこちらの思惑などハナから気にかけていないようで
「うーん、ならまあいいか」
とあっけらかんとしている。
「つまり、ベアトル王国に仕えることは決まりで良いかな?」
王はここだとばかりに言質を取ろうとする。
言葉の圧が強めで、普通ならそれなりに警戒するはずなのだが、ここでも
「それ相応の待遇があるなら特に」
と、破れかぶれとも取れるほどの即決だった。
彼には裏があるのかもしれないが、ある意味では潔さすら感じさせる答えだったので一旦は不問ということにした。
万が一にでも極悪人なら、罪を犯してから裁いてしまえばいいだけだ。
「よし、その即決即断が気に入った!お主の名前と職業を申せ!」
「わかりました、名前は秋山新一です」
「して、お主は何を生業としておる?」
「元の世界では数学者でした」
まさか五つ星級で大ハズレの職を引いてしまうとは夢にも思わなかった。
この場にいる誰もがそう思ったに違いない。
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地球でもこの世界でも、数学者といえばアレな人というのは不変の真理なのであった。
ここに来たるはその数学者の中の最先端を行く、秋山新一。
残念が織り成す証明(日常)が今、始まる。