049、もしも僕に何かを選ぶことが許されたとしたら、聞きたい。そう聞きたいのだ。書きたいという当然の欲求こそがこの魂の中にあるが、それはそれとして、彼女に対して何かを望むのなら、彼女の言葉を聞(文字数
「アサヒの方はどう?」
「んー、むむ」
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今日は代わりに食器洗いをすると言ってみた。
温かい湯と良く泡立つ石鹸を組み合わせると、油も何もスルッと落ちる。
流水で流せば後は立てておく。自然に水が切れた後に多少、しっかり目に拭けばおわり。
(量が少ないから、このまま拭いても良いんだけど)
器が少なくて済むのは丼ものの利点である。
まぁ、ワンプレートに盛っても似たようなものだけど。
――さて。
悩んでいるアサヒを背に熱い茶を新しく注ぎ、
「……なにか、言いたいことはありますか?」
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「言いたいことか……」
さて、どうだろうか。と自分のことを想う。
言いたいことはある、いや、口にしたい気持ちのようあ物は確かにある。
しかし、それが言葉の形を持っているかどうかはまた別の話だ。
形を得ている言葉を口にする事よりも、形のないものに形を与える方が難しいのは言うまでもない。
それが仕事だろうと、言われれば否定のしようもないのだけれど、
「えっと」
纏まらない気持ちをまとめるために、時間を置く。茶をすする。地元のお茶。発酵ではなく焙じることで香りを立てるのは、珈琲にも通じるが、成分の違いがそのまま両者の味の違いにつながっていると思うと感じるところがないではない。
鼻に抜ける焦げるような匂い、火のような匂いで落ち着いた。
「なんだか、やりきれない感じの……」
口にしてみて、何か方向性が違うな、と自分でも分かった。
嘘をついていない、だがそうじゃないという感じ。
「えっと……うん、いいかいメル」
「えぇ、どうぞ」
彼女は笑みを浮かべる。その笑みは年相応でありながら同時に包容力のようなものも感じる。
母性……いや、そういう感じではない。どちらかというと、知性に近くて……。
(カウンセラー?)
そんな感じ。
――ふは、と自分の益体もない感想に噴飯し。
心が軽くなった。
「簡単な話だよ。面白いものを書きたくなった」
「ふうん、その心はいいと思うけれど……そうね、あえて言うなら。『なら、そうすればいいじゃないの』という感じかしら?」
言葉に飾りがないな、と感想をもって。
その直截さ自体には有難さを感じる。
「で、なんだけど」
「うんうん、何かあるのよね。そうでないと、自分でやるべきである、というままだし」
笑みに若干の悪戯っぽいものが混ざる。嘲弄的とは言わないけれど。
手のひらの上の小動物を見るときのような、車を回すハムスターを見るような。
そんな感じ。
「君の手が空いているときでいいから、君の世界の話を聞きたい」