039、もっちもち
その言葉を待っていたかのように次の皿が来る。
今度は、私の両掌にも余るほどの平たいお皿で、その上には串にささったものが二本。
(団子?)
穀類の粉から作る小さな球体に似ている。私の世界でも、この世界でも同じような名称で呼ばれるらしい。緑の皮? それをまとった植物らしきものが平行な繊維を晒している。普通の枝の串よりも上等なものに見える、それに二つの団子が刺さっている。
どちらも、手のひらよりも小さな団子であるが、色が違う。一つは緑がかっていて、もう一つは黒っぽい。アサヒに解説を求めると、緑のほうは薬草のようなものを練りこんだもので黒っぽいものは香辛料? というよりも雑穀か何かを練りこんだものらしい。
緑のほうは香りが鼻から上がっていくし、黒いほうは、香ばしさが舌の上に残る。
その上に乗っているのは香りのバランスを崩すものである。
「生麩だね」
「ふ?」
「どう説明したらいいのかな? えっと、まぁ、穀物の成分から作る団子みたいなもんだよ」
機会があったら調べることにしよう。
刺さっている串は食べ物ではないらしい。まぁ、そうだろう。固そうだし。
串を前から飲み込もうとすると先端が喉に入りそうなので、串を横からはむようにして齧る。
「んんー?」
歯に当たる感触はとても柔らかい。いや、正確には表面にカリッとした焼き目があって、その下から出てくる生地がとても柔らかい。といっても、溶けそうなほどとか、そういう感じではない。とろみというのとも違って……、ひき肉をとても上手に捏ねたような感じ。
(でも、肉じゃない)
んだよね? と疑問を浮かべながら咀嚼する。味、味は草の味。とはいっても、それだけではなく、穀物のほのかな味と、そこに、柔らかな個性のハーブを混ぜたようなそんな感じの当たりのいい味だ。
もう一度串を見ると、齧った後は小さく、乗っかっている何かまで届いていなかったようだ。
香りだけはある。何かの発酵食品を思わせる匂いだが、同時に香ばしさもある。
香ばしさはもしかすると、団子の焼き目のものかもしれないが。
それを食べなくても十分に美味しいのだが……。
余計な味を乗っけなくともと、思いながら、串を反してそれを口にすると。
「――んん!」
なんだろうか、独特の辛みとかすかな刺すような香り、先ほどの緑が鼻に抜けるようなと表現するなら、こちらは、ほのかに喉奥を刺激する匂い。
茶色いペーストは粘り気、甘さ、刺激のある匂いに、……カラメル臭?
「生姜の入った麩の時雨かな?」
説明を聞くと丹念に発酵させて液体にした調味料と、生姜という香味野菜? 風味づけによく使う薬にもなる植物の根っこ。そして、麩だという。
麩って……。
「さっきも生麩って言ってませんでした?」
「うん、たぶん、同じ生麩を使って時雨煮……えっと、決まった調理法で味付けしたんだと思う」
「全体を同じ味付けにすればいいのでは?」
その質問には少し要領を得ない回答が返ってきたが、簡単にまとめると、大きな塊のままでは、中まで味が染みないし、調理時間もかかる。それに、全体が濃い味になってしまうと単調かつ味が強すぎると。大体納得できる回答だ。
「後は、たぶん、全体を煮れば下側の麩の表面をあぶったみたいな香ばしさと食感のアクセントがつけにくいとか……じゃないかな?」
「なるほどぉ」
確かに、表面が焙られていることで、最初に歯に触るさくりとした薄くて脆い皮ができているのだとすればこれは必要だろう。
「いっぱい工夫があるなぁ」
言いながらもう一個。黒いほうを小さく齧る。今度は意図的にだ。下の部分だけを口に含んで味の検分。緑のほうが、草の薫りの広がる香りを主とするものとしたら、こちらは舌に触れる甘さが強い。
明確に甘いという訳ではないが、滋味というような甘さがある。
香りももちろん、いいのだが、草のような香りとはまた違う。穀物をあぶったような香ばしさ。
表面が焙られているため、緑の団子にもあった香りだが、こちらはより強くそれを感じる。
「緑のほうは、蓬って草、薬草? が刻んでかすりつぶしてかして入っていて、黒いほうは胡麻って植物の種子を炒ったものが半分は擦って、半分はそのまま入ってるみたいだね」
「種、ですか」
なるほど、さっきから歯触りの中に、面白い感触が混じっている。それが胡麻、らしい。
半分を歯触りのために入れて、もう半分は炒って、擦って、としたことで香ばしさを立たせているのだろう。
(飽きない工夫?)
にしては、芸が細かい気がするけど。
と、そんなことに気をとられながらもう一口といくと。
「はぅ!」
上に乗っているペーストの味が違うという不意打ちを食らった。
今度は甘辛い……いや、甘辛いのは先と同じだが、先ほどのが糖味の甘さと塩の辛さだとして、今度は豆類の甘さに辛子の辛さだ。種類が違う。
「辛子、ダメっぽい?」
「――は、あ、いえ、驚いただけです……大丈夫」
強がりではない。大丈夫だ。思っていた味と違って驚いただけ。
アサヒ曰く、甘さ控えめの田楽味噌に辛子を混ぜたような味、とのこと。
「でも、驚きを抜けば、普通においしいですね」
歯先と唇で摘まむようにして、串から抜き吸うようにして口に収める。広がる甘さと辛さ。それを受け止める香ばしい胡麻の混ざった麩の生地。蠱惑的な柔らかさ。
――?
アサヒに見られていた気がする。何か、マナー的なものを冒しているのだろうか?
首をかしげるが、彼は手を振って応えただけだ。
まぁ、咎めるような視線でなかったのでとりあえずは気にしないことにしよう。




