035、足を装う
同じような商品を扱うお店というのは確かにある。
しかし、ここまで類似したものばかりというのは……。
・
例えば『塔』の周りの店で言えば、乾物屋というのは、様々な乾物が売られている。
干した野菜、干した肉、干した魚。それに調味料の類と、酒、あとは容れ物も売られていたりする。
もちろん、元から水分が少ないので、乾物とは言われないが穀物などももちろんある。
乾物屋というカテゴリでもちろん、乾物に自信があるということであるが、乾物のみということでもないのだ。結局のところ、保存のきく食べ物、およびその周辺で使うもの、という括りで乾物屋に並ぶわけだ。しかし、この靴下屋は……。
「専門店、とそういうわけですね!」
「そうだなぁ、専門店……、うん。専門店だな」
品ぞろえの観点としてある見方をすれば、お店は二種類に分けられると思う。
店の人間の立場、つまり、入手可能なものを店頭に並べるというタイプと、客の立場の品ぞろえ、つまり、客が欲しいものを店頭に並べるタイプだ。
もちろん、それぞれに利点があって。前者は入手可能な……つまり、自分に身近なものを商品にするわけだから、商品についての知識が豊富になる、はずだ。魚を獲ることばかりをしている魚屋は、八百屋よりも魚に詳しいと、そんな感じ。
逆に、客の立場で商品を並べるタイプは、例えば、旅に必要なものをまとめて取り扱うだとか、家具をまとめて取り扱うだとかして、優位点を作るのだ。これは、客を囲い込めるし、客側の心情としても一店舗で用が終わればとても楽だ。
深く狭くと広く浅くだね、とアサヒに言われた。比喩的な言い方だが意味はそのままだろう。
この靴下は、先の二種分類でいうと、確実に、前者のタイプ。狭く深いタイプだ。
「って言ってもチェーン店だからね。店員の専門知識は……どうなんだろう?」
「……?」
今のアクションからすると、アサヒはこの店を利用したことがないのに私を連れてきたようだ。確かに、ここまでに見た店舗はおおよその商品にいちいち値段が書かれているようで、それが店の外からでも見えた。そういう意味では、懐が痛まない店であると判断してはいるのだろうが。
「……あぁ、なるほど」
少し見えてきた。靴下の専門店というのは、私の価値観からしてみれば甚だ不合理だ。私には靴下を履く風習は無かったが、ものを見ればおおよその用途は見当が付いた。この世界では誰もかもがきちんと靴を履いているのだから、その中に履くものだろう。
そして、見ている限りで、靴を履かずに靴下を履いているものはいないのだから……、靴下はそこまで摩耗する衣類ではないはずだ。となれば、靴下だけを扱って店を持てるというのは私の常識では考えられない。数年は……いや、少なくとも一年くらいは履けるだろうし、そうなると、人数分以上には一年間に売りさばけない。
であれば、単価が高いのかといえばそういうわけでもない。
なら、ここまでの考えのどこかがおかしいのだ。間違っているから正しい答えにたどり着かない。
そして、おそらくは。
「使えなくなるまで使うわけじゃないから、か」
アサヒに聞こえないように言う。つまり、ものの寿命とかそういったものとは別の判断で新しいものを購入するのだろう。それは私の、もったいないなぁ、という印象とは別の事実も見せてくれる。
寿命を無視して、買い捨てられるほどの生産力だ、ということだ。
であれば、このような店舗が成立するのも納得がいく。つまりは労働力が余っているのだろう。
技術の進歩という名の効率の良さが、食料を作り、水を確保し、住むための家を建て、敵を追い払い、というような、生きるためにしなければいけない事柄を過剰に発生している労働力の中では小さいものとしてしまったのだ。
そのこと自体の是非は私にはわからないけれど、その浮いた労働力が文明の進歩という点に費やされているのであれば、これは素晴らしいことなのではないだろうか。
靴下の専門店を開くなど、私の世界では鼻で笑われ一蹴されるだろうが、それは要するに土壌の……社会の持っている余裕の問題なのだろう。
であれば、もはや、丈夫さを聞くのも無粋だろう。
「商品には触っても?」
「――! あ、はい大丈夫ですよ!」
店員らしき女性に聞くと一瞬の間をおいて笑みをくれた。なるほど、笑みでの接客が効果的だということを聞いたことがあるが……。あちらの世界ではそれこそ場合によることも、十分な余裕のある雰囲気の中では効果的な気がする。
人はもはや、必要性で買い物をするのではなく、欲しいものを買うのだろう、とそんなことに感動する。
そして、一瞬の間はこちらの存在に対しての驚きらしい。確かに、見回しても、ここまですれ違ったものも多くは黒髪と黒目だった。たまに、そうでないものもいたが、アサヒに聞くと、殆どが染めたか色を抜いたものであるとのことだし『天然』っぽい、という金髪に黒くない眼のものでも、そこまでの金色ではない。
プラチナブロンドと一言で表せるような色は珍しいらしい。先にアサヒの言っていたようにこの国の人間は黒髪黒目、それ以外の色は、旅人か、或いは、人工的に色を変えているとのこと。
強い薬品を使って色を抜いたりつけたりするらしく、付ける場合は水で流す程度では取れないし、石鹸でも取れないとのこと。
そういう技術の発展もあるのだなぁ、と思いながら、靴下を選ぶ。値段は……数字が並んでいるがイマイチピンとこない。どうすれば、と聞いたらとりあえず気にしないでと言われた。高いものでもそう高くない、とのことだ。よくわからないが。
とりあえず、靴下の役割としては、衛生面と靴とのズレの緩和、足の負担を減らすと同時に靴の側の負担も減らす辺りらしい。価格を気にしないなら私が選ぶ点としては三つくらいか――丈夫かどうか、履き心地はどうか、見た目はどうか、とその辺り。
結局、丈夫さはそんなに変わらないということだったので、私は手触りと見た目からマシュマロシリーズのピンクと水玉というのを選んだ。店員の女性は微笑ましそうな顔をしていた。




