やっぱり持つべき友人は、美少女だよね!
「梓!」
「あ、澪」
高校生とはとても思えない、声優さんのような可愛い声を張って私の名前を呼び、此方に走ってきたのは友人の栗花落 澪だった。
小柄な体躯に靡く漆黒の長髪。黒目がちの目はくりくりっとしていて、兎などの庇護欲を感じさせる小動物を連想させた。
まぁ、言ってしまえばめちゃくちゃ可愛いのだ。アイドルグループ入って初日でセンター獲れる。あ、これ割と真面目に言ってるかんね。
「あ、じゃないでしょ!」
分かってるよ。澪の言いたいことは昨日のことでしょ。分かってますよ。
「まぁ、そりゃ、ねぇ……?」
「委員長の羽鳥。あいつ、前にも2回も人の彼氏寝取ってる……」
「まじか。まぁ、人の性癖は多種多様だよね」
そう冗談めかして言うと、澪は私の肩を掴みガシガシと揺らし始めた。首、ガクンガクンいってるし、頭取れそう。
「そ、う、い、う、こ、と、じゃ、な、い、の!」
「あぁぁあぁあ、ごめんごめん分かってる分かってる茶化すなって言ってるんでしょ」
「もぉ、分かったなら続き話すよ?」
恐らく頬をを膨らませている彼女の今の効果音はプンスコ、プンスカのどちらかだと思う。私は、頬を膨らませる人は大体「うぜぇ」「何お前自分が可愛いと思ってんの?」と思ってしまうのだが、澪はそれがドチャクソ似合う。いやもう本当可愛い。ドチャクソとか意味の分かんないこと言っちゃうくらい。
「で、どうすんの? 水野絶対、羽鳥の味方だかんね」
「分かってるよぉぉ!! それで私はこれから、羽鳥イジメて藤崎を弄んだというクソ意味分かんないことで怒られんでしょ! 知っとるし!」
水野というのは、うちのクラスの担任。四十過ぎの独身ハゲジジイ。お世話になってる先輩によると三十代からハゲ始めたらしい。まぁ、水野の発毛事情はどうでも良く(本人に都ってはどうでも良い訳ないだろうが)。この教師の性格は最悪なのだ。自分に媚を売る子は好きだが、愛想のない生徒には気に入らないことがあるとすぐグチグチと説教をしだす。で、学級委員長の羽鳥は前者だ。そしてなんと、私は後者。これでおわかり頂けただろうが、水野は確実に羽鳥の味方だ。
で、藤崎というのは、私の元彼(?)。こいつはもうどうでも良い。説明する価値が無い。
というわけで、これから私はその二人と羽鳥の四人で話し合う。否、理不尽に説教を受ける。もう決まってしまったことだ。ならば──。
「もう良いよ」
「え……? それって黙って怒られるって意……」
「三人ともぶん殴ろう!」
「は?」
「だからもう、怒りを抑えずにムカついたら殴る」
「はぁ……」
「何故にため息!?」
「分かった。梓の勇ましさで思う。梓はもう大丈夫!」
何故か澪は、「フッ……」と可愛らしい笑い声を漏らし、安堵した表情を浮かべ此方を見ていた。
なんか、よく分かんないけど安心された?
でもまぁ、それなら良かった。さっきから澪は、私のことを想って怒ってくれたんだろう。心配させてしまっていた、さっきの怒りは心配の裏返しだ。
美少女が私を心配してくれてる……。嬉しい!
あ、私レズな方では無いよ。ただ顔立ちの整ってる人が好きなだけ。ここ重要ね。
「……へへぇ……」
「うわ、キっしょ。近寄らないで」
「急に酷くない!? みおりんが心配してくれたと思ったらおじさん嬉しくて……!」
「ヤバい、通報しなきゃ。というか、みおりんって言わないでくれる?」
それから私達は、学校に着くまで『セクハラしてくるおじさんと美少女ごっこ』をし、時に息子を幼稚園に送る母親に変な目で見られながらも巫山戯あった。とんだ痴態である。
というかこの遊びの方が理不尽な理由で怒られるよりも駄目じゃない? 私がセクハラしてくるおじさんて……。
誤字脱字、ご感想、ご指摘等おまちしております。