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週7のバイトは流石にキツい


 「はん?」


 おっと、脳の思考が追いつかなすぎて余計な「ん」まで言ってしまったぜ。毎日、一時間? え、()()? つまりは、()()家に帰してやるから、これから毎日一時間ここへ来いと?


 「いやいや、待ってくださいよ。何それ」

 「汝の世で言う、『バイト』ではないのか?」

 

 あ、毎日ってそう言うこと。いやいや、シフト多過ぎだろ毎日って。私、元旦とクリスマスらへんは休み貰いたい派。


 「時給は?」

 「10ピル」

 「日本円にして……」

 「?」

 「って! ちょっと待てぇぇぇ!?」

 「おぉ、これが、あのノリツッコミか……初めて拝見した」

 

 何故、何故私は魔王らしき男とバイトのシフトと時給の話をしている? (そして何故この男はノリツッコミに感動している……?)自分の対応能力にビビったわ。

 まず、聞くことは聞いた。家族も無事、家にも帰れる(恐らく)、ここは異世界、そしてコイツは魔法が使えて……。


 「あんた誰?」

 「私は我が魔国の都『グレイススフィア』に玉座に君臨する者だ」

 「いや、名前だし」

 「セシィヴィオだ」


 セシィヴィオね。確かに魔王っぽい、コッテコテの厨二感。あれ? 厨二病っぽい名前ってどっかで……。


 「セシィヴィオって……、あ! LIMEの」

 「らい……? なんだそれは」

 

 LIMEの事は知らない? まぁ、いいや(良くは無い)。


 「とりあえず、なんで異世界召喚をしたの?」

 「それ……は……」

 「それは?」

 

 「私の目の前で異世界冒険ファンタジーを繰り広げて欲しかったのだ!」

 「え……? いせ……」


 ドン! という効果音が出て来そうなテンションでセシィヴィオはそう言った。思考がマジで追いつかない。


 「恋あり、感動あり、コメディあり、ハーレムあり、けも耳あり、メイドあり、何でもありの異世界冒険ファンタジーを」

 

 なんだコイツ、ラノベの広告の仕事やってんの? 萌え要素ってやつ?  

 

 「あ、えっと……」

 

 コホンとわざとらしい咳をし、「すまない、騒いでしまった……」と顔を赤らめながら言った。どうやら、好きな話題だと早口になったり声が大きくなるような人(?)らしい。因みに好きな話題は異世界冒険ファンタジーのラノベ。


 「でも私、女ですよ?」

 「そう、なのだ。そこのなのだ。異世界召喚の女性向けの物は乙女ゲーム感が強くて男として私はそこまで好きでは無い。私の好きなタグは冴えない男が異世界でけも耳やらメイドやらエルフやらとハーレムを繰り広げる物だ」

 「つまりは、本当は男を呼びたかった?」

 「そうだ」

 

 どうやら期待に添えなかったらしい。じゃあ帰せ、今すぐ帰せ。呼んどいてなんだ、その被害者面して此方が立腹だと言いたげな「そうだ」って。


 「じゃあ、私を帰して別の人を召喚して下さい」

 「いや、それは出来ない……」

 「なんで?」

 「法で異世界人の召喚は一人までだ。汝をもう一度こちらに呼ぶことはできるが、別の人間を呼ぶことは許されん」

 「まーじか、なんつー法だよ」

 「昔、一人の魔族の者が異世界人を大量に召喚し、軍を作り世界を半壊させた。それからこの法が出来た」

 

 つまりは、異世界人で軍を率いり世界をけしかけたヤツがいたのか。そら、対策の法が出来るわな。

 まぁ、そうは言っても全然想像がつかないのだが。

 

 「明日の何時が暇なのだ?」

 

 彼氏とのデートも今日の喧嘩で消えたし、放課後は友達に誘われなければ今のところ何も予定は無い。部活も無所属だし……、あれ私って暇人? 余計な事まで考え出してしまったので結論を出した。


 「4時から10時までは大丈夫です」

 「では8時半からで……。といってもそちらの時間が分かるものがないのだが」

 「え、じゃあこれ」

 

 そう言って私は右手に着けている安物の時計をとって、セシィヴィオの方へ向けた。セシィヴィオは恐る恐るぎこちなく、長い爪の付いた以外に男らしさを損なわないしなやかさを持った手を時計を掴んだ。


 「これは?」

 「時計です」

 「それは分かる。この針のどれが何処に来たら8時半なのだ?」

 

 時計を私に向けてセシィヴィオはそう問う。チクチクと控えめな音を立てて回る時計を見ながら私は短い針を指して。


 「この針が8……えっとこの丸が二つくっついたのを指して、このずっと動いてない方の長い針が1番下の文字を指したら8時半です」

 「そうか、理解した。感謝しよう。それと、数の文字は理解している」

 

 上から目線な人だなと思ったら、セシィヴィオは「では」と一度途切れた言葉を続け。


 「また明日だ。今日は短かったが久方ぶりに楽しめた」

 

 「え?」

  

 セシィヴィオが時計を持った手とは逆の腕を横に広げると手には杖が出て来た。その杖でサラッと円を描く。すると、円は光を放ち目を開いていられなくなった。


☆☆☆☆


 「んっ……ふぁぁ……」

 

 あー、変な夢を見た。魔王とか出て来て、ラノベの用語言ってて、バイトの話して、時計渡して。えっ、時計!

 右腕に着けていた安物の時計が無い。先程まで確実にあった、無くした可能性はほぼ無い。

 ということは。


 「あ、兄貴ィ!」

 

 私はそいつを呼ぶことにした。先程まで喧嘩をしていた、兄貴なら腕時計が着いていたか分かるかもしれない。そしてもし、今の夢が本当ならば異世界召喚(このこと)に詳しい人間は彼だったから。

 

 

 

 

 


 


 

 

 

 

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