自己紹介は誠実に
さて、ここで交通事故にも遭わず、転生したという形でも無く。ただ、寝て起きたら異世界召喚をしていた(?)語り部の私の紹介をしよう。
髙千穂 梓。
16歳。私立三臨高校1年B組。あ、因みに私立だがお坊ちゃん、お嬢ちゃんが通うような由緒正しい高校ではない、偏差値本当にそこそこの進学校(名ばかり)だ。本当は県立高校に行きたかったのだが、落ちた。勉強も熱心には取り組んでいなかったので、当然である。以降、母は私と喧嘩をする時には必ず「誰かしら、金のかかる高校に通って、家計の大事なお金を使っているのは」と嫌味ったらしく言う。じゃあ一体誰だ、週2でまぁまぁの交通費かかる、ジムに半年通って全然痩せないババアは。と言い返したいところだ。
脱線を無理矢理に戻すが、つまり私は、反抗期真っ盛りの現役女子高生なのだ。
性格は、謙虚堅実。と言たいところだが、本当の事を言ってしまうのであれば、喧嘩っ早い、口調が悪い、とそんなところだろう。故に、今日は朝は寝坊について母と口論。昼に彼氏と別れるんじゃないかレベルの喧嘩。そして、先程の兄との汚い口論。見事に朝昼晩喧嘩尽くしである。
はてさて、そんな私が勝手に異世界召喚されてキレないはずが無いのだ。その相手がたとえ、至極冷徹な魔王とて。
「はぁ!? なにしてくれてんの! 早くマイホームに帰せ!」
生来の性格故、その姿にも物怖じない。長所でもあるが、私1番の短所でもある。一度濡れ衣でクラスメイトへのイジメを疑われた時、校長の後頭部に黒板消しをぶん投げてクリティカルヒットさせたことがある。あの時は、母に本当に怒られた。だって、ムカついたんだもん。
「騒がしい小娘だ……」
「はぁ……? とりあえず、どういうことか説明しなさいよっ!」
「金切り声は耳に悪い。少し黙れ」
「何言っ……!?」
何が起きたのかと言えば、魔王らしき男は、堂々と胸の前で組んでいた左手を顔の少し下まで上げ、親指を少し右にスワイプ。すると、不思議なことに私の口が強制的に閉ざされて開かなくなった。
「んぅ!? んっ~~!」
喋れねぇ。やめた、これ以上喚くと字面的にちょっとエロいし(そう感じる私はもう色々と駄目だ)。これが魔王の魔法なのだろうか、兄の情報によれば無詠唱は上位の種族か強いスキル持ちの筈。まぁ、魔王っぽいし強いんだろうな。あと、思ったけど爪長くない? さっき腕組んでたけどいつか、自分で自分の腕を切り刻むよ?
「順を追って説明をするとしよう」
魔王は、口を開く。バリトンボイスって言うヤツだろうか、低くて品があって圧がある。まぁ、とりあえずイケボだった。オタクな友達が聴いたら、「耳が妊んだ……心なしか吐き気するし酸っぱい物食べたい……」とか言い出す(確実)。
「……」
喋れない、否、詳しく追記をするのだととすれば上唇と下唇をチャックのように閉められてしまった。発声は出来るが舌が上手く動かせず、喋れない。ということだ。私はこの時以上に腹話術が出来ない自分を恨んだ事は無い(というか、腹話術が出来る女子高生は大分稀だ)
さて、軌道修正をして本題だ。
私は、この男に問わねばならないのだ。
ここはどこなんだ。お前が連れてきたのか。家には帰れるのか。家族は無事なのか。等、今の私の現状からして問いただす必要があるのだ。
だがしかし、何の原理だかは知らないが私の口は閉ざされてしまった。この男の話を聞くしかあるまい。
「……」
「ようやく黙ったか……」
おい、こちとら急に異世界とかいう誰かさん(兄)が好きそうなラノベのジャンルのフラグが立てられて混乱してる上に、ムカついてんだわ。堪忍袋切れ掛けでギリギリの私に無駄な一言言うんじゃねぇ。
「そう睨むな」
「……」
「まぁ良い。説明をしよう。汝にとっては、ここは異世界だ。私が呼び寄せた。だが別段汝を気に入り呼び寄せた訳では無い、たまたま汝が来ただけだ」
何今……、貶された? 合コンで女の子集めたけどたまたまブス来ちゃったんだよね、いやわざと呼んでないから、みたいな? は? 殺す。
そんな私の殺意の込めた視線を気付く気配も無く、魔王は淡々と言葉続ける。
「カペラはもう解いても良いか……」
「……っぷはっ! 家族は!?」
「あぁ、汝しか此方に来ていない。無事なのか私は知らないが、異世界召喚術は副効果の事例は無い」
「つまりは?」
「恐らく無事」
「はぁ……良かった……!」
「……」
「あ、それと、私帰れんの?」
「私の手に掛かれば容易い」
「おねしゃすっ!」
やったぜ。この魔王多分、乗せられやすい。さぁ、早くマイホームに帰せ。
「しょ……少々待て」
オー考えてる、考えてる。
見た目と声に圧があるけど、案外普通に話せる人?
「折角召喚したが……ここで……? いや、女だったしハーレム系の異世界コメディは駄目だ。乙女ゲー系のラノベ物は私得ではない……」
何ブツブツ言ってんの? マジ怖。
「ではこうしよう。汝にはこれから毎日一時間ここに来て貰おう」
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