起きたら魔王様がいらっしゃいました。あらやだ、イケメン。
ゆったりと更新していくつもりです。
その男は、至極色の外套はゆらゆらと靡かせ、艶めく長髪は濃紫色、瞳はレッドスピネルの色と輝きを持ち、口角を上げニヒルな笑みを浮かべている。この説明書きだけでも十分に主張が強いキャラなのは皆様分かって頂けただろうか。だが、それよりも存在感を出していたのはその長い角だった。
『曰く、深淵を思わせる奥深い闇の広がった外套を着ている。
曰く、鮮血の如く冷徹な紅い瞳している。
曰く、山羊のような角をもっている。
曰く、そいつは魔王である。』
厨二病だった兄がそんなことを言っていたのを不意に思い出す。そして今、私の目の前にいる男はその言葉に従って作ったような容姿をしていた。
「え……魔王……?」
何でこうなった。
何故、現役JKの私の目の前に、魔王がいるんだろうか。
☆☆☆☆
「死ね! クソ兄貴!」
「黙れブスッ!」
「あぁもう良い! タンスの後ろに隠してるテメェのエロ本をママに見せてやる!」
「やってみろ、そんなことしたらお前が彼氏と撮った写真をオヤジに見せてやんよ!」
「っ……」
「ふっ……、勝った、計画通りだ」
「っ……! もういいっ!」
発端は何だったかは忘れたが、口汚い罵り合いの末、兄との口けんかに負け、私、髙千穂 梓は猛烈に苛立っていた。
くそ、エロ本は切り札だと思ったのに。彼氏との写真をあのオッサンに見られたら終わるわ。てか、あのクズ何で私が彼氏居るの知ってんだ。
「あ~、もう!」
このイラつきをLIMEで友達に話すため、自分の部屋のベッドにおいてあるであろう、我が夫スマホを取りに行く。怒りの余韻がまだ残っているため、ドアノブを乱暴に引いて部屋にズカズカと入った。部屋にはクッションなどが散乱しているが、気にしないで、踏ん付けて歩く。私の部屋は少しだけ汚いのだ。
(澪とキリカのグループに報告だな。)
兄との戦いの結果を報告した時の反応をシミュレーションした上で、誰に話すかを決めた。早速、見つけたスマホを手に取り、アプリを開く。
ブブッ
「ん? 通知?」
誰からだろ。『セシィヴィオ』? 誰よ、この厨二感満載のネーム。昔の兄貴じゃ、あるまいし。フレンドでこんなやついないし、キモいし、ブロックしとこ。
でも、一応メッセージの内応が気になるので開いてみる。
『あ』
おい、『あ』ってなんだ。初心者のミスかよ、試し打ちなのかよ。あーもう、ブロックだ、ブロック。
「もうほんと今日最悪だわ……」
兄貴には口喧嘩で負けるし、彼氏とは喧嘩するし。あれ、喧嘩してばっかじゃ……。やめた、考えるとまたイライラするし。寝よ。
☆☆☆☆
で、起きたんだよ。そうだよ、予兆とか何もなくて起きたら、目の前にこの魔王っぽい人が居たんだわ。ってか、ここ何処だし!? しかも、なんでコイツにやけてんのキモ。
「おい、小娘」
「えっ!? あっ、はい!」
急に声を掛けられたので、ビビって裏返ったわ。やば、変な声出た。ってか、声も魔王っぽい。何というか、艶があって低めの声。兄貴に言ったら、「イケボじゃん、まぁ俺女性声優が好きだけど」とか言うんだろうな。
「小娘か……本来ならば男が良かったのだが」
「?」
何、ブツブツ言ってんの? 聞こえな。
「さぁ、小娘。汝が主人公だ早く異世界冒険ファンタジーを繰り広げよ」
「は?」
何言ってんの、コイツ。兄貴と同じこと言ってんですけど、「異世界冒険ファンタジー」って。
「はて、おかしい。異世界に召喚された人間は冒険を始める筈では……?」
「えっ!? ちょっと待って! 今、異世界召喚って誰を!?」
「汝を」
「は? ということは、ここって」
「汝にとっては、『異世界』ということだ」
「はぁぁぁ!?」
髙千穂 梓。私立山臨高校一年生、現役女子高生。因みに、彼氏持ち。そんな私は、どうやら異世界に召喚されたようです。
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