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7.『星の王子さま』の秘密を見つけて!

「あのね、あなたのお姉さまからの伝言があるの」


「えっ、どういうこと?」


 僕はまだ事の成り行きについていけずに、頭が混乱していた。


「だから、物語のシマの王女であるあなたのお姉さまが、あたしをメッセンジャーとして遣わしたってわけ。なぜなら…」

 そこで言葉を切った。

 沈黙が流れた。


「なぜ?」と僕は聞く。


「なぜかは自分で考えてちょうだい。

 とにかく、王女さまからの伝言はこうよ」


 そう言うと、レディバードは大きく飛んで宙返りをし、ストンと僕のまん前にやってきた。(わざわざ宙返りする必要、ある?)

「エヘンッ!」と咳払い。

 それから、お触れを読み上げるように、ゆっくり、はっきりとこう言った。


「星の王子さまの秘密を解き明かすこと」


『星の王子さま』の秘密…?

 僕は素早く考えをめぐらせた。


 秘密って、誰もがきっと心を揺すぶられるにちがいない、キツネが王子さまに教えたあのことじゃないのかな?


『星の王子さま』には砂漠のキツネが出て来る。キツネが王子さまに「ぼくをなつかせて」というくだりを読むと身につまされる。

 なついて、なつかせて、絆を結ぶからこそ特別な存在になる。ほかに十万のキツネがいたとしても、世界で一匹だけのキツネになる。ほかに十万の男の子がいたとしても、世界でたったひとりの男の子になる。


 だからキツネは王子さまに言う。

「おねがい……、なつかせて!」


 新潮文庫の河野万里子さんが翻訳したキツネの言葉は、まるで詩のように、恋の告白のように響く。

「もしきみがぼくをなつかせてくれたら、ぼくの暮しは急に陽が差したようになる。ぼくは、ほかの誰ともちがうきみの足音が、わかるようになる。ほかの足音なら、ぼくは地面にもぐってかくれる。でもきみの足音は、音楽みたいに、ぼくを巣の外へいざなうんだ。それに、ほら! むこうに麦畑が見えるだろう? ぼくはパンを食べない。だから小麦にはなんの用もない。麦畑を見ても、心に浮かぶものもない。それはさびしいことだ! でもきみは、金色の髪をしている。そのきみがぼくをなつかせくれたら、すてきだろうなあ! 金色に輝く小麦を見ただけで、ぼくはきみを思い出すようになる。麦畑をわたっていく風の音まで、好きになる……」


 キツネは、なつきたい。


 でも王子さまは「ぼくもそうしたいけど」「あんまり時間がないんだ。友だちを見つけなきゃいけないし、知らなきゃいけないこともたくさんある」

 するとキツネはこう答える。


「なつかせたもの、絆を結んだものしか、ほんとうに知ることはできないよ」

 なついたり、絆を結ぶためには、それなりの時間が必要。相手のために費やした時間が、相手をかけがえのないものにする。

(なんにしても「時間」が大事なんだと思う。つまり「時間がない」は禁句ってこと。)


 こうした会話のあと、キツネは王子さまになつかせてもらった。

 王子さまとのわかれが来たとき、キツネは王子さまへの贈り物に、秘密を一つ教える。

 その秘密とは、


「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは目に見えない」


 きっとこの本でもっとも伝えたかったメッセージだと思う。誰もが深く心に刻み付ける言葉だろう。

 子どものとき、よくはわからないまでも、生きていくうえでとても大事なんだなと、ビシッとした気持ちで受け止めたことを覚えている。


 たとえば、もし忙しさに飲み込まれて心が閉じたままになっていたら、大事なことは何も見えない、とか考えた。

「なんにしろ、飲み込まれちゃいけないのよ。心が閉じちゃうから」とそのとき姉が言ってたっけ。


「星の王子さまの秘密って、ねっ、キツネが言ったことじゃないの?」 


 レディバードはじっと僕を見た。そして諭すようにこう言った。

「もちろん、やさしい言葉で真実を掬い取った見事なメッセージよ。サン=テグジュペリさんでなくては語れない。

 でもね、その“秘密”の文字は、本のなかでネオンサインのように輝いているわよ。秘密はすでに公開されている。心ある人はみんな、ずでにそのメッセージを受け取っているわ」


「なんだよ…」

 でも、そう言われると、そうかなと思える。

 僕はむっつり黙り込んだ。


 だいたい『星の王子さま』の文章は、いたるところに真実のひらめきを内包している。

 心に響く部分は、人それぞれだと思うけれど、その気に入りの部分をノートに書き出してみてほしい。

 含蓄を帯びた警句、名言として輝きはじめるから。

 だからさ、秘密と言われても…。 



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