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1.サン=テグジュペリの『星の王子さま』

 姉が入院してしばらくしてからお見舞いに行くと、枕元に『星の王子さま』の文庫本が置いてあるのが目に入った。

 星の王子さま…。


「へー、星の王子さまを読んでるの。なつかしいな」


 僕はそうやって気軽に話題にすることができなかった。だから、読んだばかりの海外新作ミステリーの話をした。

 そのときは何気なしにそうしたのだけど、あとで考えて、自分は姉の覚悟を聞くのが恐ろしかったんだと思い当たった。


 王子さまは自分の星に帰るために、黄色い毒蛇に噛まれる道を選んだ。自ら死ぬわけではない。ただそうやって身軽にならなければ、あまりに遠い自分の星には帰れない。


 姉もそのようなことを考えていたのかもしれない、と思う。


 自分はこの現実の世界で命をなくすかもしれないけれど、死ぬわけではない。自分は別の世界で生きつづける。


 もしそんな死についての覚悟を語られたら、僕はどうしたらいい。

 平気な顔してうなづいたりできないよ。

 だから、聞けなかったんだ。


『星の王子さま』は優しい物語だ。砂漠のなかで語られる星とバラとヒツジとバオバブの木とキツネの話。


 王子さまは輝くばかりに可愛らしく、はかなげだ。

 物語は切ないけれど、けっしてヤワな話ではない。


「メアリー・ポピンズ」シリーズの作者、P・L・トラヴァースが『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン』紙にこんな書評を書いている。


「これははたして子ども向けの本なのだろうか? じつはそんな問いに意味はない。というのも、子どもたちはスポンジのようなものだから。彼らは読んでいる本の中身を吸いあげる。理解できたとしても、できなかったとしても。


「ただし、この物語の教訓はきわめて特殊で、子どもよりも大人に関係するものだ。その教えを理解するには、愛と苦しみを通じて自己を超越しようとする魂が必要となる。


「この本は子どもたちの心をとらえ、心の奥深くにある秘められた部分にまで達し、小さな光となって留まりつづけるだろう。

 そしてそのささやかな光は、彼らがそれを理解できるようになったときはじめて、輝きをあらわにする」(以上『星の王子さまの美しい物語』飛鳥新社より引用)

  

 大人になって物語の真意を理解したと思ったとき、この本が強い意思をもった極めて美しい物語であることに、再び感動するのだ。

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