第3話 『フォロワー数は力である』
「ああ、なるほどな、こういう……」
「ほうほう、ふむふむ」
仰向けに寝転び、スマートフォンの画面を眺める。シルフは俺の胸に上で同じように横たわっている。視線の先にあるのは、ツイッター。ハッシュタグは『♯俺のリゼンブルを見てくれ』である。ユーザーの持つ多種多様なリゼンブルの写真や動画が並んでいる。つまりは嫁自慢合戦だ。
「うわ、すげえ。この脚パーツ、良く見れば天使型の胸部パーツじゃん」
どうすればこんな発想が出てくるのか。ただ別型のパーツと取り換えるだけではなく、向きを変え、モールドを追加し、それを更に他のパーツと組み合わせることで、完全に新しいものを創造している。異なるデザイナー、異なるコンセプトであるというに、見事に融和している。
凄すぎる。完全に異次元、もはや創造神の類ではないだろうか。
「わあ、見てくださいよ、マスター。この塗装すごく綺麗です! グラデーションが艶やかですねえ」
「グラデーションのやり方は分かるが、ここまで自然に塗れるのは凄まじいな……」
和風の鎧と見事にマッチしており、芸術品のような雅さがある。遠目でみればCGのように見える程だ。
ツイッターというものは恐ろしい。才能とセンスの塊がゴロゴロいることが嫌でも分かる。それらから受けるのは、ほんの少しの劣等感と大きな刺激である。ただし、この刺激は助燃剤にはなるが、火種にはならない。その結果、何時間でもごろごろとタイムラインを眺めてしまうのだ。
時間泥棒であることは分かっているが、リアルタイムで届く生の情報の魅力は計り知れないほど大きい。
「ん、なんだろう、この肩パーツ……」
どこかで見た形状なのだが、思い出せない。似たような形を並べることで、美麗なラインが構成されている。
答えが目の前にあるのに届かない。物凄くもやもやする。
「んー、ん? 忍者型の……いや、違うな、あれはもっと大きいか」
ではスクラッチしたのだろうか。いや、それにしては見覚えがある。色は違うが、間違いなくリゼンブルのパーツなのだ。
「聞いてみればいいじゃないですか」
「お前なあ、見ろ、相手はフォロワーが5桁の化物だぞ。恐れ多くて聞けるわけないだろ」
こちとらようやく3桁の雑魚であるぞ。フォロワーの数は、権威のようなものだ。俺のような雑魚が声をかけていい存在ではない。
「本音は?」
「……見ず知らずの人に話しかけるの恥ずかしい」
分かるだろう、この気持ち。相手の顔が見えないからこその独特の不安感。現実ではそうでもないのに、ネット上だとコミュ障を発揮してしまうのだ。
「なっさけないですねえ」
「やかましい、気にしてるんだから言うんじゃない。それにわざわざ教えてもらわなくても……」
じっと観察する、向きを変え、柔軟に情報を整理していく。両肩で合計10枚の装甲。流れるようなライン。
リゼンブルカタログを開く。どこかで見たのだ。この本の始めの方で確か。
「ええ、まどろっこしい! 『FF外から失礼します。肩のパーツは』……」
「やめてえ!」
結論を言えば、そのパーツは植物型の花弁パーツだった。よくぞまあ、そんなもので装甲にしようと考えたものである。
その発想力を見習いたいものだ。