1話 昼休み
チャイムが鳴り、昼休みの始まりを告げる。
食堂に昼食をとりに行く者や、弁当を広げる者、友達と喋りはじめる者など、授業終わりの独特のざわざわとした雰囲気が教室を包む。
私立霧立高等学校の1年C組の都山椿は、クラスメイトと昼食をとるため、カバンから弁当を取り出す。
「つば〜き〜、聞いてよ〜、山川かける先輩がね〜!」
そうしていると聞こえた声。
クラスメイトで椿の友達である春野夢がサンドイッチ片手に椿の席へとやって来たのだ。
「また、その話ですか…。」
夢に続いてやってきたのは、椿の友達、滝野琴音である。
椿は、よくこの二人と昼食をとるのである。
「えー、いいじゃないのよ〜。かける先輩、かっこいいんだもん〜。」
夢は椿の前の席に座ると、その”山川かける先輩、かっこよかった話”を嬉々として話始めた。
琴音は呆れ顔で椿の隣の席に座り、弁当を食べ始めた。
夢は所謂ミーハーという部類に入るようで、好きな人……というか、憧れの人がコロコロと変わっている。
毎度毎度よくそんなに熱くなれるね、と思いつつ、椿は、弁当に入っていた唐揚げを口に入れた。
そして、先ほどから話に出てきている、山川かける先輩とは、椿の一つ上の二年生で、サッカー部のエース。
顔良し、頭よし、運動神経よしの三拍子が揃っており、おまけに性格もよしときた。
これで、女子のハートを掴まないはずがない。
学年問わず人気の先輩である。
椿としては、特に興味があるわけではないが。
どちらかと言えば、夢にその話を聞かされすぎて、うんざりしているくらいだ。
毎度毎度話を聞かされる身にもなって欲しいが。
「でね、夢が、ボールを拾ってあげたの!」
リボンでツインテールに結ばれた夢の髪がゆらゆら揺れる。
キラキラした笑顔で話す夢。
この性格じゃなかったら、即彼氏が出来ていただろう。
まあ、今でも夢に好意を寄せる相手はたくさんいるが。
「椿もさー、恋しなよ〜。白馬の王子様様が迎えに来てくれりなんてのは、物語の中だけだぞっ!」
白馬の王子様ねぇ……
「ごめん、そーいうの、興味ない。」
椿が言うと、夢は、えーっと声を上げる。
「恋って素敵なのに〜……!じゃあ、琴音は?」
「生憎ですが、私もありませんね。」
まだまだブーブー言っている夢。
恋ねぇ……
私には、一生縁のない話だ…
椿は、夢を横目にそんなことを思っていたのだった。