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15話 メイドと館

前回投稿からだいぶあいてしまいました……ごめんなさい……

少し私生活が忙しくて…

そして、読んでくださる皆様、ありがとうございます!

とりあえず、慌てて声を掛けると、青年は立ち止まってこちらを見る。その顔はとても不機嫌そうで、髪と同じ色の眉は顰められ、口はへの字に結ばれている。


声は出さず、目で、「なんだ」と訴えてくる青年に少し動揺しながらも、助けてもらったお礼を述べる。


「先程は助けて頂き、ありがとうございました」


「……別に」


青年は無愛想な声音でそう小さく言うと、また、くるりと踵を返し、歩き出す。どうしたらよいか分からない椿は、そのまま小さくなっていく青年の後ろ姿を見つめる。


追いかけるべき?


そんなことを考えていると、青年は少し歩いてくるりと振り返る。


「……じっと突っ立ったままなら、置いてくぞ」


どうやら先程のスタスタ歩く行動は着いてこい、の意味だったらしい。


……いや、分かりづらっ!


どうやらこの青年は、聞くんじゃねぇ、背中で語るから読み取れタイプらしい。


タイプの命名、椿。

長いのはご愛嬌だ。


青年の言葉に、椿は歩き始める。椿が歩き出したのをちらりとみた青年は、また、スタスタと歩き始める。置いて行く気は無いが、かといって待つ気もないらしい。


どういう性格してんの、まさかの捻くれ者!?なんていう心の叫びは置いておいて、椿は、少し急ぎ足でその青年に追いつき、そして、その少し後ろをついて行く。


近からずも遠からずといった微妙な距離感だ。


サンもそんな椿に置いていかれないように、少し早足になりながら、椿の足元を歩いている。何分猫の足だ。追いつくのは大変なようだ。


そんなサンを椿はそっと抱き上げ、腕に抱える。そして、先々行く青年を横目に少し小声で、


「サン、あの人、私の事をマリーって呼んでたけれど、知り合い?」


と尋ねると、サンは何故か苦虫を噛み潰したような顔をした。理由はわからないが、だいぶ不満そうである。マリーと青年の関係は聞いてはいけないものだったのか。


やばい関係……とか??


「あの御方は、この星の王国のひとつ、トパーズ王国の第二王子、シャル·トパーズ王子だよ」


王子……道理であの風格とルックスなわけだ……とひとり納得する。王子と言うのは、どんな物語でも総じて美青年だ。では、何故サンは苦虫を噛み潰したような顔をしていたのだろうか。


「でも、サンは何故そんなに顔を顰めているの?」


椿は、サンにこそっとした声で聞いてみる。すると、サンは、顔を顰めたまま、少し間を置いて、


「………シャル王子は、マリーの婚約者なんだ」


「こ、こ、こん……むがっ!」


椿は思わず叫びそうになるが、サンは先を読んだかのように椿の口を肉球できゅっと押さえた。おかげで、乙女らしからぬ声が漏れた。


「声が大きいっ!少し距離があるとはいえ、近くにシャル王子がいるんだから、気をつけてよね!」


いきなりの事で目を白黒させている椿に、サンはきゅっと眉を吊り上げ、凄みを聞かせて言う。


「………ごめん、ちょっと驚いて………。婚約なんて貴族とかしか、しないイメージだから……」


とそこまで考えて、そう言えばマリーさんは一国の姫、つまり王族なんだった、と気づく。


王族なんだから、婚約の一つや二つ……いや、二つあったらそれは問題だけど……あってもおかしくない、と言うことだ。


いままで、あまりにも普通にサンとお話をしていたから、異世界の住人、という認識があまりなかった。


「どうしてあんなに無愛想で口の悪い奴がマリーの婚約者なんだか……ほんとうに信じられない。もっとお優しくて紳士的なハル王子のような御方だったらいいのに」


ぶつぶつと文句を連ねるサン。お口がすこーし、いや、そこそこ、悪くなっている。そして、サンのこの言葉で先程不満そうな顔をしていた理由を、理解する。


なるほど、この子はマリーさんとシャル王子の婚約に反対だったのね、と。


そんな話をしていると、館の前に着く。青年、シャル王子はもう館の中へと入ってしまっている。


人の家の扉を勝手に開けてズカズカ入っていくのは多少気が引けるが、 入る以外選択肢はない。ここで止まってられないし。


そもそも何も言わない、あの青年が悪いのだ。入って怒られても、知ったこっちゃない。


そう、もう半分開き直りながら、カチャリと扉を開けると、


「お邪魔します…」


と小さく声をかけて入る。


「いらっしゃいませ、マリー姫」


それに答える声がひとり。

深い紺色に白いエプロンと落ち着いた色のメイド服に身を包んだ人が出迎えてくれた。


館内はどちらかと言えば閑散としていた。貴族のお屋敷とかって、こう、誰かが来たら大人数で出迎えるみたいなイメージがあったが、そうでもないらしい。


「ここは、トパーズ王所有の別荘だからね、リラックスするためにメイドさん達は最低限にしてるって言ってたよ」


サンが椿の心を読んだように説明してくれる。


「なるほど」


椿は頷く。


「マリー姫、シャル王子には奥の広間へと案内するようおうせつかっております」


ニコリと笑う、メイド。


なんか、私、マリーさんじゃないのに、騙している感じがして落ち着かない、と思う。


「私、マリーさんじゃな……」


言おうとした椿に、サンは、被せるように耳打ちする。


「椿、説明は後でしよう、先にシャル王子に説明するほうがいい。じゃないと、王族に対する反逆罪や不敬罪等と思われてもおかしくない」


先にメイドに言うとして、それがシャル王子に伝わるだろう。メイドはそんなに悪い人ではなさそうだが、ちゃんとしっかり、一言一句、椿の言葉がシャル王子に伝わるかと問われれば否だろう。


国に何らかの害をもたらすためにマリーの偽物を用意した、などと思われれば罪になってしまう。


また、混乱もさせてしまう。

それくらいマリーの存在は特別なのだ。


「…何か?」


メイドは突然言葉を途切れさせた椿に、不思議そうな顔をする。


えっと………。


ど、どうしよう……?

絶対怪しまれているよね?


「何でもありません。案内してください」


椿は、若干顔を引き攣らせながらではあったが笑顔を見せ、声音は意識して平常に保ち、答える。


なんの策もない、とりあえず誤魔化してみよう作戦である。


顔が強ばるのは仕方がない。だって、反逆罪とか何されるか分からないもの、とひとり心の中で言い訳をする。


一高校生に平然としろ、という方が無理な話である。声音だけでも普通だったのを褒めて欲しいくらいだ。


メイドは、やはりまだ不思議そうな顔をしつつも、椿の正体……と言ってもいいものか分からないが……については全く疑っていないようで、「こちらへどうぞ」と促してくれた。


作戦はどうやら成功のようである。


それほどまでに、マリーさんと自分はは似ているらしい。


たとえ、椿が自分は見慣れているが、相手からすれば見慣れないような服を着ていても疑われないくらいには。


とあらためて椿は実感した。


ちなみに、椿は学校帰りにそのまま来たので、制服を着ているのだ。かくいつ椿も色々目まぐるしく進みすぎて、今更ながらに、私、制服だわ!と気づいたのだが。


メイドを先導に椿達は屋敷の中を歩いていく。


静かな屋敷であるが、所々に精巧で美しい調度品が、整然と並んでいる所から王家の別荘なんだな、ということが伺える。


しかも、高級そうな品がこんなに並んでいるにも関わらず、不思議とゴテゴテと高級品を並べ立てただけと言った、いかにもお金持ちです!という感じはまるでなく、そこにそうあるのが自然と言った感じで並んでいるのだ。


それどころか、品さえ感じられる。


王家って凄いなぁ、なんて変に納得していると、先を歩いていたメイドが部屋の前で立ち止まる。どうやら、目的の部屋に着いたようだ。


「マリー姫、こちらになります」


メイドはそう述べると、スっと一礼してから、コンコンとその部屋の扉をノックする。


「マリー姫がお着きです」


そうメイドが言うと、「どうぞ」と中から返事が返ってくる。その返事を聞き、メイドが扉を開ける。その仕草は洗練されていて、優雅だった。


椿がそれに見惚れていると、腕の中のサンが周りに気づかれないように、肉球でペチペチと椿を叩く。それにはっと我に返る椿。


いけない、どこか違う世界にワープしてた……、なんて思いつつも、


「…っ…あ、ありがとうございますっ…」


メイドにお礼を言い、そっと部屋の中へと踏み入れた。


椿が入ったのを見計らって、メイドは部屋に入ることはせず、そっと扉を閉める。


部屋の中も廊下同様、一目で高級だと分かる調度品が並んでいた。だが、ごちゃごちゃとはしておらず、整理されている。


中央付近に深い赤色のソファが、ガラスのテーブルを囲むように配置されている。


椿が入ってきた扉の向かい側の壁は一面ガラスの窓になっており、やはり深い赤色のカーテンがかかっている。

そのカーテンは閉まってはおらず、窓の両傍らに黄金の紐のようなもので結ばれていて、窓を通して庭が見える。


天井に目を移すと、キラキラ輝くシャンデリアがあり、それが部屋全体をふんわりと優しい光で彩っている。


おとぎ話の世界だ……。


なんて思っていると、


「マリー姫……?」


シャル王子とはまた違った声が聞こえてきた。

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