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14話 青年と館

ザーッと不穏な風が森の中を駆け巡り、椿の髪をいたずらに煽る。


近づいてくる、足音。

近づいてくる、金属音。


それ以外何も聞こえない、静寂。


ああ、どうしよう。


椿は、こういう場面になんて遭遇したことない。




…………いや…………





…………知ってる。





この景色、知ってる………。




何故かわからないが、そう思った。ここに来るのも、こうやってサンといるのも、初めてなのに。


自分はこの景色を知っている、と。


そして、それはあまりいい記憶ではない気がする。まあ、兵士に囲まれている時点でいい記憶である訳ないが。


その時、


「……マリー……?」


椿を思考の渦から引き上げたのは、ふわりと降ってくる声であった。少し低めの美しい声音で紡がれた言葉は驚きを伴うもの。


その言葉によって、椿はおよそこの展開に似合わない思考を中断せざるを得なくなる。


その声に弾かれるように椿が声の主を見やると、そこには、色素の薄い、黄金の髪の青年が立っていた。


金糸のような髪は、風の影響もあるのかふわりとたなびき、キラキラと光って見える。


髪よりは少し深いオレンジ、言うなれば琥珀色を纏った瞳。その瞳はまあるいというよりはどちらかというとつり目な印象。


その周りを長いまつ毛がいろどりを添えている。


そして、決して病的というわけではないが、雪のように美しく白い肌。


すっと通った鼻筋に、血色のいい唇。


一目で美しいとわかるその青年は、夢あたりが見ていたら発狂していただろう。


だが、次にその口から紡がれた言葉は、およそ、この美しい見た目に似合わないものだった。


驚いた顔から、不機嫌そうな顔に変わったその青年は、


「このノロマッ!どうして魔法を使わないッ!」


怒りを含んだ、所謂ドスの効いた声でそう言った。初対面で言うような台詞ではない。


呆気にとられる椿に、その美青年は、はあああっと盛大に溜息をつく。それはもう、これみよがしに。


それから、ザッと椿に近づく。それと、同時に感じる浮遊感。


「……え?」


「聞きたいことは山ほどあるが、ここはひとまず逃げるぞ。質問は館についてからにする」


間近に見える美しい顔。

間近に聞こえる美しい声。

そして、地に足が着いていない感覚。


数秒遅れて、自分の現在の状況を理解する。自分は、この、信じられないくらい美しい青年に横抱きで抱えられている、と。


ちなみに、サンはそんな椿の上に乗っかている。


「……え、え、え!?」


状況を理解し、ますます思考を混乱させていると、さらなる衝撃が椿を襲う。その青年が椿を抱えたまま浮き上がったのだ。


青年から黄色い光が放たれ、その光が椿たちを包み込み、そのまま空へと浮き上がる。


「え、え、な、何!?」


椿が声を上げるが、その青年は、構わずその場を後にする。


ふわりふわりと浮き上がり、空を飛ぶ感覚。遅れて、これはこの青年の魔法なのだと理解した。


身一つで空を飛ぶなんて初めての経験だ。感想としては、怖い。うん、だいぶ怖い。それに尽きる。青年は無言のまま空を飛び続けるし。


ってか、これってある意味誘拐じゃないの?なんて思う。だって、急に現れた人に抱えあげられて空の旅一直線だよ?相手、何も話さないし。


だが、こちらに害を与える意思はなさそうだし、サンも大人しくしているから敵ではないようだけれど。


そして、最大の疑問。どこに向かってるの、これ。さっき、この美青年は「質問は館についてからにする」とか言ってたけれど。館って何?どこ?


「……ねえ、サン……」


と小声で呼びかけてみるが、


「大丈夫。詳しいことは後で話す。アメジスト王国が追ってこないとは限らないからね」


と返されてしまった。

どうするよ、これ。


しかも、よくよく考えたら、この状況、だいぶやばくないかな。イケメンに抱えあげられてるんだけれど。こんなの、人生で1回あるかないかくらいだと思うよ、うん。


真面目にどうしようか思考をぐるぐる巡らせていると、どうやら目的地に着いたらしく、どんどん高度を下げて、地面に近づいていく。これも中々に怖い。


とりあえず、高いところから降りるふわっと感?と言えばいいのか、あの、エレベーターやジェットコースターに乗った時に感じる何とも言えない心臓が上がるような感覚がないのだけが救いだ。


結構スピードあるけど、地面と「こんにちは」しない?大丈夫?


どうせ地面とこんにちはするなら、どうか顔からはやめてください、お願いします、と心の中でお祈りしておくことにする。顔からとか、絶対痛いに決まっている。


だが、その願いは、杞憂に終わる。美青年が、ふわりと、それはもう美しい所作で地面に降り立ったからだ。なんと、イケメンは所作まで美しいらしい。


降り立った先に見えたのは美しい館だった。お屋敷といっても差し支えない広さのその館は、装飾は決して派手ではないが、白と茶色を基調とした建物であり、上品な雰囲気を醸し出している。


こういうの、何調っていうのかな、残念ながら建築には明るくないため、分からない。


そして、ぽつんと佇むその館以外に建物はなく、周りには木々と草花が広がっている。


物語に出てきそうだ、というのが椿の率直な感想であった。


美青年は地面に着くと、椿をすっと地面に降ろす。無言のまま。


そして、椿が立ち上がると、青年は何も言わず、あろう事かそのままこちらを見ることもせず、スタスタとその館の方へと歩きはじめた。


え、放置!?

あれ、館で聞きたいことは山ほどあるとか言ってなかったっけ?


しかも、助けてもらったお礼言えてない!


「あ、あの!」

やっと新しいキャラが出てきました!!

……二言くらいしか話してないけれど……

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