10話 譲渡
授業が終わると、挨拶もそこそこに家に帰り、勢いよく自分の部屋の扉を開けた。
決意が揺るがない内に、サンに伝えておきたかったのだ。
…私は、頑張ってみる、と。
下から、母の「どうしたの、椿?」と心配な声が聞こえたし、勢いよく開けた扉はバタンッと、大きな音を立てたが、気にしない。
そのままの勢いで、ベットの上で寛いでいたサンの元へと駆け寄った。
驚いた顔をしているサンに、協力する旨を伝える。
「…ほんと!?ほんとに、ほんと!?」
椿の言葉に、サンはまあるい瞳をさらにまあるく見開いて、椿に飛びかかる勢いでそう言った。
椿はこくんと頷く。
すると、サンはやや目を伏せて、少しの沈黙が走る。
その沈黙を破ったのは、目の前の目を伏せた方。
「…ありがとう、椿」
噛み締めるような声音。
心の底から絞り出したような声音。
それから、そっと視線を上げる。
椿が対峙したのは、サンの潤んだ瞳。
今にも泣きそうで、少し安堵したような顔。
「…これで、ルビー王国は救われる…」
「私みたいな1人の高校生が、そんな力を持っているなんて思えないけれど…私にしかできないことなら、やってみたい」
椿がそう、ゆっくりと言うと、
「…ありがとう…ありがとう…」
サンは何度もお礼を言った。
目から溢れる涙。
サンにとって、祖国は、ルビー王国は、本当に大切な国なんだ。
少し、サンの気持ちが落ち着くまで待って、椿は問いかける。
「それで、私は、一体、どうしたらいいの?」
協力するとは言ったはいいが、何もわからない。何もかも椿に取っては初めてのことなのだ。
「そうだ…それなんだけど、実はね、多分昨日も言ったけれど、マリーはそのペンダントの他に魔力もボクに預けたんだ」
サンは、椿の言葉に、思い出したように言う。そして、サンは言葉を続ける。
「きっと生まれ変わるから、その時に渡して欲しいって…魔力、返さなきゃね?」
「…魔力を返す…?」
クエスチョンマークを沢山浮かべた椿に、サンは頷く。
「うん、元々は君のだからね。ちょっと待ってね」
サンはそう言うと、そっと、自らの胸元に手をあてた。
ふわりと空気が舞った。
少なくとも椿にはそう見えた。
それから、現れる、明るく優しい色合いの、赤い光。
炎に似たその赤い光は広がり、そのまま椿を包み込んだ。
「…えっ!なに?!」
目の前がうっすらとした赤で埋まり、何が起こっているかわからない。
少しパニックになった椿に落ち着いたサンの声が響く。
「じっとしていて、椿。下手に動くと火傷する」
赤を隔てた先にいるサンは、真剣な顔をしていた。
その真剣な顔に少々威圧される。
「…は、はいっ」
サンに言われた通り、状況把握は後にして、取り敢えずじっとしていることにする。
そして、優しい赤い光は、そのまま、すっと椿に吸い込まれるように消えた。
「うまく、行ったようだね」
サンがほっとしたように言った。
「あの、今のは?」
状況がいまいち掴めていない椿が聞き返すと、サンは、
「言ったでしょ、魔力を返しただけだよ」
と事も無げに言う。
だが、椿にとっては、一大事である。
「下手に動くと、火傷するってのは?」
先程、サンが落ち着いた、真剣な瞳で言った言葉を繰り返す。
すると、サンは、頷いて説明してくれた。
「ああ、魔力は、身体に取り込まれる時、その身体に自分が耐えうるか、器があるか判断するんだ。それが、先程の包まれた時」
「うん」
先程の状況を思い出しつつ頷く。
サンの説明は続く。
「それで、耐えうると判断すれば勝手に身体に取り込まれる。でも、判断される前はまだ、その魔力と身体は一体化されていない。魔力とはいえ、マリーの力は"火"だから、下手に触ると火傷するってこと」
「ふーん」
「今はもう取り込まれたから、椿の力で調節出来るはずだよ」
分かったような、気がする。
要するに、魔力を渡すには魔力に認められないといけなくて、認められて初めて魔法が使えるようになる、らしい。
そして、椿は、マリーの魔力に認められた、ということか。
「なるほど…」
自分の身体に目を落として、見てみるが、特に変わった様子はない。
見た目ではわからないらしい。
そうこうしていると、サンの声が再び声をかけた。
「…ねぇ」
「ん?」
サンの声で視線をサンへと移す。
「椿…1度、ルビー王国へ行ってみよう」
今日からですが、「章」を付け始めました!
そして、この10話が1章の最後となります。
11話から第2章となります。
よろしくお願いします。
…1章終わったのに、まだ椿と琴音と夢、サンしか出てきていない事実…:(;゛゜'ω゜'):




