9話 力強い言葉
「それで、椿さんはどうするのです?」
キラキラと瞳を輝かせたままの夢を他所に、琴音が落ち着いた声音で言った。
じっと、琴音の瞳が私を捉える。
そうなのだ。
そこなのだ。
椿が1番決めかねているのは。
本当に自分に一国を救えるような力はあるのか。
本当に自分は姫の生まれ変わりなのか。
私で……大丈夫なのだろうか。
そんな問いがぐるぐる頭の中を回る。
それは、話を聞いた時から幾度となく自分に問いかけている問い。
冷静な琴音の瞳に見つめられ、椿は、ずっと目を伏せた。
私は…
「…私は…どうしたら…いいのかな…?」
椿は、ポツリと今までの悩みを落とした。静かな声音。
途切れ途切れに紡がれる、心からの問い。
「そんなの、悩むことないじゃん!」
暗い顔になった椿に、一際明るい声がかかった。
声の主は、今の今まで瞳を輝かせていた人物、夢だった。
「…え?」
思わず声が漏れる。
弾かれるように顔を上げると、椿を安心させるようににこりと優しく笑った夢の姿。
「どうしたらいいか、じゃなくて、どうしたいか、だよ。サンちゃんの力になって、国を救って、民を救って、ドレスを着たいなら助けてあげればいいし、嫌なら断ればいい」
夢が力強く言い切る。
因みに、理由の最後は、だいぶ私的なものが含まれている気がするが、この際は無視をすることにする。
多分、触れちゃだめだ、うん。
「…助けてあげたい気持ちはあるよ…。でも………私にそんな力、なかったら…?私が生まれ変わりじゃなかったら…?」
出た声は、思ったより低くて、どうやら自分は思ったより悩んでいるらしいことが分かる。
「その時はその時じゃないかな」
夢は笑顔のまま、そう言った。
そして、言葉を続ける。
「だって、生まれ変わりだなんだって勝手に言ってるの、向こうじゃん。それで、違いましたーなんて言われて、怒られる筋合いはないし、寧ろ好意で応えたんだから、感謝してほしいくらいだよ」
夢は、「でしょ?」と首を傾けつつ言い切る。
「夢さんにしてはいい事言いますね」
琴音がしみじみと言った。
「夢にしてはって何よー、夢にしてはってぇーっ。夢だってね、色々考えてるんですぅー!」
夢は、先程の笑顔から一転、ぷくりと頬を膨らませ、拗ねたように机をバンバンと叩いて言った。
「すみません、あまりにも珍しかったものですから」
琴音が素直にそう言うと、夢は、ぷくりとしながらも、
「別にいいですよぅだ」
と言ったのだった。
「…でも、夢さんの言う通りです。決めるのは、椿さんです」
「決めるのは……私」
琴音の言葉を繰り返す。
その言葉に、夢も、そうだと言うようにと頷く。
「もし、力になれることがあるなら、夢達も協力するし」
「1人で抱える必要はないです。自由に決めていいんです」
力強く言い切る2人。
本当に優しいのだ、椿の友達は。
私にしか…できないこと
なら、やってみようかな…
そんな思いが椿の心に現れ始める。
「…ありがとう。2人のおかげで、気が楽になった」




