第六話 「僕とカノジョは生き続ける」
こんな時間がずっと続けばいい、そう願っていた。
でも、その時は突然訪れた。
翌日、学校が終わり、いつものようにカノジョの病院へ訪れた。
そう、それは、いつもと全く変わらず、たった一つだけの違いだった。
カノジョの病室を開けた時、そこにカノジョの姿はなかった。
「どうして・・・・・・ どうして光が・・・・・・」
そこには、カノジョの、ベッドに顔を沈める女性がいた。
何度かお見舞いに来た時にあった事があるカノジョの母親だ。
その瞬間全てを悟ってしまった。
カノジョの顔があるはずの、そこには、白い布がかけられていた。
声をかけるべきだったのかもしれない。
でも、そんな事は出来なかった。
その状況に混乱し、その場から逃げてしまった。
お通夜の連絡が家に来たが、行く気になどなれず、一晩中部屋で泣き続けた。
その日、僕からカノジョがいなくなってしまった。
「この度はご愁傷様です・・・・・・」
翌日、やっとの思いでカノジョのお葬式へと向かった。
そこには、クラスメイト達も何人かいた。
お焼香をしてカノジョと最後のお別れをする。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
カノジョの顔を見た瞬間、声を出し泣いてしまった。
ただ、悲しかっただけじゃない。
そのカノジョの顔が、ほっとしたような笑顔だったから。
「なんで? どうして、そんなに笑ってるんだよ・・・・・・」
涙が滲んで、カノジョの顔をまともに見ることすら出来なかった。
「もしかして西条君?」
顔を上げると、そこにはカノジョの母親が立っていた。
『私の顔を見た途端、大声で泣き出す地味な「西条君」っていう男の子が来ると
思うから』
カノジョが死ぬ間際にそう言ったそうだ。
最後までカノジョらしいというか何と言うか。
「それとこれを渡してほしいって」
カノジョの母親から一つの冊子を渡された。
それは、僕とカノジョが作った、あの課題だった。
僕は「それ」を家に持ち帰った。
「えっ?」
まず驚いたのは、そのタイトルだ。
「私の人生」というタイトルだったはずなのに「私の大切なもの」と書き換えられていた。
中身は、ほとんど何も変わっていなかった。
ただ一つ、最後のページに「私の大切な人」という見出しと共に文章が付け加えられていた。
『私と影人君が初めて話したのは私が海に誘った時、陰人君はきっとそう思っているよね。でも、本当は違うんだよ?』
確かにあの時が初めてのはずだけど・・・・・・
『高校の入学試験の時、消しゴムを忘れて困っていた私に君は黙って自分の消しゴムを半分くれた。君は多分忘れているだろうけど、それは今でも私の宝物です』
高校の入学試験?
確かに消しゴムをあげた記憶はあるけど、あの時の女の子はメガネをかけた地味な少女。
あれがカノジョの昔の姿だったんだ・・・・・・
『それから、クラスで君を見つけた時はとても嬉しかった! でも、なかなか声をかけられなかった。だって君、誰とも話さないんだもん』
話しかけてくれれば良かったのに・・・・・・
いや、例え話しかけてくれていたとしても僕は上手く対応出来なかっただろうな。
『海に誘うことが出来て、どんどん仲良くなっていって(私の思い違いだったら恥ずかしいな)この夏、君と過ごした日々は私の宝物です』
思い違いなわけないよ。
僕も宝物だ。
海で遊んだ時も、図書館で作業をしたあの時も。
『今日、海で言おうとしてくれた言葉、本当に嬉しかったよ。ここまで言えば、もう分かるかな?あえて、それは私は言わないよ。だって言っちゃったら君は、きっと私の事を忘れられなくなっちゃうんだもん』
忘れられない。
言われなくたって忘れられるはずないじゃないか。
『私のことは忘れてくれてもいい。だけどね、君は私の分まで
「必死に生きて欲しい」
私が君に残しておきたいのは、この言葉だけです。私に大切な「宝物」をありがとう』
「うっうっうう」
僕の目から止まったはずのものが、こぼれ落ちてきた。
もう、ここにカノジョはいない。
でも、すぐ傍にいる、そんな気がして・・・・・・
その日、僕は「沖野 光」を知った。
ーーあれから、もう10年が経つ。
カノジョの希望通りにはならず、僕はカノジョ、いや「沖野 光」の事を忘れてなどいない。
でも、ただ一つ。
カノジョから見てどう見えるかは分からないけど
「僕は必死に生きている」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回は、どこにでもありそうなお話というのをテーマに執筆しました。
次回作は、また違った物語になると思います。
「一人っ子の俺と三人の妹候補たち!?」も来週から連載を再開していくのでそちらも読んでいただけると嬉しいです。