生存者達よ、集結せよ
☆これまでの登場人物
・ジム・デッカード
本作の主人公。サラリーマン。街でゾンビに襲われていたところをケインに助けられる。武器は護身用に持っていたハンドガンと戦闘中に拾った大ぶりのレンチ。
・ケイン・キック
本作もう1人の主人公。消防士。ジムを助け設備の整ったビルに立て籠もる。状況判断が的確で、頭の切れる男。武器は万能斧。
・戦闘慣れした男
パンデミックから2日後にパラシュートでニューリバティシティに降下してきた。
ゾンビを恐れず、卓越した戦闘技術と状況把握能力でで対峙したゾンビの大群ですらいともたやすく薙ぎ払う。武器はボウガンとナイフ、タクティカルトマホーク(手斧)。
☆これまでのFAZ
2020年10月10日、ゾンビパンデミックにより地獄と化した街、ニューリバティを政府は封鎖する。街と本土とをつなぐ桟橋が上がり、生存者達はこの街に閉じ込められたのだった。
ケインとジムは身を置いているビルが長期決戦に不向きであると判断し、ゾンビの包囲網脱出・突破を図る。
一方それから2日後のニューリバティシティの住宅地では、パラシュートで不時着してきた男がゾンビの大群を相手に、1人孤独な戦いを続けていたのだった…
(2020年 10月10日 19時42分 ニューリバティシティ ウルトラダイナミック本社ビル屋上)
「ーよし、それじゃあお互いの収穫品を合わせてみよう。」
ケインは自分の荷物を広げた。
ジムもそれにならう。
「地下駐車場に行ってみたが、ケインが言った通り車には鍵がかかってた。ゾンビがいたから呼びのガソリンも探せてない。
布も充分とは言えないが、15階の倉庫にいくらかあったぜ。俺は通勤用の鞄しか持ってなかったから、リュックは拝借してきた。ライダーはなかったが、マッチなら二箱見つけた。あとタバコも見つけたが、俺は吸わないんだ。いるか?」
ケインは肩をすくめる。
ジムはそれを見て何かのために、と見つけたばかりのバックパックに入れた。
「俺が見つけたのはこれだけ、あとエナジーバーをいくつかと懐中電灯が1つ。そっちは?」
ケインが答える。
「ガソリンがないんじゃ、こいつを見つけといてよかった。20階の小部屋にいくつか置いてあったんだ。あと俺が見つけたのはニューリバティシティのマップだ。ある程度の施設が載っている。」
ジムはケインが「こいつ」と呼んだものに目をやる。
…酒?
酒じゃ人は動かせても、車は動かせない。
そんなジムの疑問をよそに、ケインが話を続ける。
「ここを脱出できたら、まずここを目指す。」
マップの警察署マークを指差す。ここからそう遠くないが、ゾンビを避けつつ徒歩で行くならそれなりの危険があるだろう。
ケインもそれはわかってるらしい。
「警察署まで行くのはリスクも高いが、俺たちに今必要なのは仲間と武器だ。あそこなら銃があるかもしれないし、もしかしたら生き残りがいるかもしれない。」
ケインは続ける。
「奴らは動きが遅い。充分警戒して行けばたどり着けるはずだ。さっき言った二つが本当にあるかは行くまでわからないが…兎にも角にもいよいよ出発だ。」
ケインは酒を手元に引き寄せる。万能斧を床の配管の間に挟み、ジムが見つけてきた布をその刃で5センチほどの幅に割いていく。
6本に分けたその布を、同じく6本の酒瓶に1本ずつ巻いていく。
ー火炎瓶か。
いつ考えたんだか。ジムは改めて感心する。
ケインは最後に、ジムと自身のベルトにマッチ箱を余った布でしっかりと固定した。
即席の火炎瓶は3本ずつ持つことにした。
2人は黙ったままプロテインバーを食べる。
ジムは下の道路に目をやる。街灯の明かりはないが、ここからでも新鮮な肉を求めてうごめく屍がよく見えた。ゾンビ達の大行進は地平線のはるか向こうまで続いていた。
ジムはケインにも気づかれないほど小さく、弱く震えていた。
今彼を支配しているもの、それは明日を生きようとする力強さではなかった。寝る前の暗闇を怖がり、クローゼットの薄暗さに怯える子供のような、逃げ場所のない恐怖だった。
だが、
それでも、
人は恐怖に打ち負かされ、屈してしまう事があっても、再び立ち向かう勇気を、ないはずの勇気を出せる生き物なのだ。
そして、今ここでその恐怖に立ち向かい克服しなければ、遅かれ早かれその先にあるのは死なのだ。
戦おう。戦って、明日を勝ち取るのだ。
もう、ジムは震えていなかった。
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『戦闘慣れした男』
(2020年10月12日 11時12分 ニューリバティシティ)
男の周りは肉塊だらけになっていた。
男はこの15分ちょっとで、97体のゾンビを倒していた。が、男は正確な撃破数など数えていなかった。彼にとって重要なのは自分に敵意を加える者が何人いるかであって、自分が倒したのが何人目なのかに興味はなかった。
それよりー
男は一軒の家に目をやる。
最初この場には自分以外に生存者はいないと思っていた。だが、死体たちと闘っている最中、ずっと誰かの目線を感じていた。
生存者か?
ボウガンを手に持ち、住宅地に入っていく。
ただの一般市民かもしれない。が、油断はしない。
正体はなんであれ、中にいる人が怒らないことを祈りつつドアを足で蹴って開ける。
突入。
素早くクリアリングしようとしたが、その必要はなかった。部屋に入って最初に見えたものは、自身に突きつけられた銃口と、驚きと怒りが混じった目でこちらを見つめる中年の男だった。
ーベルぐらい鳴らすべきだったか。
「いきなりすまなかった。こちらに敵意はない。」
中年の男に向かって言い、ボウガンを下ろす。
中年も銃を下ろし低く乱暴な声で話す。
「何もドアを壊して開けることはないだろう。まあ、助かったが。さっきあんたが相手にしてたゾンビどもに包囲されて動けなかったんだ。俺はギャレット、元傭兵だ。ギカルバの紛争にも従軍してた。その整った装備を見るに、あんたが国が言ってた救助隊だな?1人だとは思わなかったが。」
戦闘慣れした男はそれに答える。
「ああ、第一時ニューリバティ降下作戦実行部隊のラインハルトだ。俺の部隊が乗ってたヘルダイバーが降下作戦フェーズ1を実行中、上空で俺たちを乗せたままTVリポートヘリと激突し墜落した。俺含め数人が墜落前に脱出したが、最適な角度と高度じゃなかった…おそらく生き残ったのは俺だけだろう。」
ヘルダイバーはヘリと小型戦闘機を合わせたような機体で、自体が悪化し歩兵部隊の介入が困難になった紛争地帯に特殊訓練を積んだ部隊を送り届けるための降下・展開作戦用の航空戦力だ。
想定を超えた高度からの脱出でまだ自分が生きているのはパラシュートが街路樹に引っかかり、衝撃が軽減されたからだった。運が良かったのだとラインハルトは知っている。
だが、他の奴らは…
そこで彼の思考を中断するようにギャレットが呟く。
「それは…気の毒だったな」
「まあな。こうなった以上、俺1人でも生存者を探し、第二陣の部隊が到着するまでの間、生き延びなきゃならない。」
だが、そこでラインハルトは一度区切り、少し考え直した後再び口を開く。
「元傭兵だと言ってたな?」
「ああ、あのギカルバの紛争にもー」
「俺の相棒になってくれ」
ギャレットの話を途中で遮り、ラインハルトは切り出した。
「ーは?」
ギャレットはぽかんとした声で聞き返す。
「この地獄を生き延びるため、この町中の生存者達を集める。第一陣の部隊が作戦序盤で失敗に終わった今、第二陣の派遣は中止されるさかもしれない。この街に閉じ込められた俺たちには、リーダーが必要だ。率いる者がいない限り、時間とともに1人ずつ生き残りは減っていき、最後は誰も残らないだろう。だからあんたにも手を貸してほしい。」
ギャレットが、半ば決意の固まった声で返す。
「先の見えない無謀な計画に見えるが…奴らから逃げ回って死ぬよりまだマシだな…その話、乗ったぜ。よろしくな、相棒。」
大規模パンデミックから2日、深い絶望の中に、かすかな、かすかな可能性が芽生え始めた瞬間だった。
生存者達よ、集結せよー
お待たせしました!今回は二本連続更新です!