fireman(消防士)
これまでの登場人物
•ジム
サラリーマン。通勤中電車内で感染者と遭遇、護身用で持っていた拳銃で難を逃れる
これまでのFAZ
ゾンビを始末したジムは駅を後にするが、そこで見たのは地獄と化した街だった…
〈今日未明、街の郊外にあるグレートフォンデイション社の私有地の実験棟で、大規模な爆発が発生しました、消防隊は既に出動しており…〉
ーニューリバティ鉄道車内電光掲示板
(2020年10月10日 8時12分 ニューリバティ第一消防署内)
ケイン・キックは沈んだ気持ちでなにをするでもなく歩き回っていた。署内には自分以外隊員はいない。電話番のロージーも今日は具合が悪そうだったから帰らせた。かかってきた通報は俺が取ればいい。
それにー
今日はうちの消防署からは火事に対して消防隊を出動させる事はできない。
朝早くに消防署に一流製薬会社から通報が入った。なんでも社の持つ敷地内の実験棟で大規模な爆発事故が起こったらしい。だから消防署隊員は全員出動中だ。俺を除いて…
今日俺は非番の日だった。だから朝起きてテレビをつけて初めて事態を知り、急いで署までかけた方が…
俺はいざという時にいなかった役立たずだ。そこの壁に飾られている、時代に置き去りにされ今はもはやかつては屈強な消防士たちの相棒であった事を思い出させるだけの万能斧と一緒だ。
さて、自販機に飲み物でも買いに行くか…
トイレの角を曲がった時、扉をガンガンと打ちつける音がした。そして微かなうめき声。そういえば電話番は帰る前にトイレに行くと言っていたが…
「ロージー?まだいたのか?」
ガンガンガンガンガン
「おいどうした、まだ気分が悪いのか?ドアを開けろよ」
ガンガンガンガンガン
「おい、あんまやると金具が外れー」
ケインの呼びかけどうり、ドアは開いた。
ただし、横向きに開くのではなく、ケインに覆いかぶさるように上から倒れた。度重なる衝撃に耐え切れなかった金具が歪んでいた。
ロージーはドアの上からケインに覆いかぶさった。思わずケインは扉ごと彼を蹴り飛ばす。
ロージーは激しく壁に打ち付けられた。
その時初めてケインはロージーを見た。
彼は普段となんら変わらなかった。ただ一つ、血走った目を除いて。
「おいロージー…」まるでゾンビみたいだ…
ケインはその様子にど肝をぬかれ、さっきまでいた部屋に向かって後ずさりする。
「おい、聞こえてるのか?聞こえてるなら返事してくれ」
ロージーはケインの呼びかけには答えず、こちらに突進してきたーが、途中で足がほつれてすっ転ぶ。
ずっと後ろ向きに歩いていたケインの背中に何かが当たる。
壁にかかってた万能斧ー
ケインはそれを手探りで掴み、ロージーの前に構えてみせる。
「おい、お前さっきから様子がおかしいぞ、どうしたんだよ!」
インフルエンザにかかった人が幻覚を見たり、奇行をしたりする時があると聞いたことがある。だが明らかにこれはインフルエンザなんかじゃない。
不意にロージーがケインに向かって掴みかかる。
その時ケインは、キャンプに行った森で自分も妹を襲ってきた男の事を思い出した。
人は薪割り一つで殺せるー俺は殺し方を知っているー
今までの戸惑いは消え失せていた。
渾身の力で手にした万能斧でロージーの首を吹き飛ばす。その目に迷いはなかった。
ケインは床に転がるかつてロージーだった肉塊の横に、万能斧を荒々しく置いた。窓の外を見る。通りは今ここで起こった惨劇よりも遙かに酷い事態なようだ。
「あんたは真面目なやつだったよロージー、無遅刻無欠席でしっかり者だった。お勤めご苦労さん」
ケインは一呼吸し、万能斧を手に消防署を後にしたのだった…
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『戦闘慣れした男』
(2020年10月12日 10時54分 ニューリバティシティ)
木に不時着したパラシュートを切り離し、男は周りを見渡した。自分以外に生存者は確認できない。
だが…
生ける屍なら刻一刻と集まってきた。大方先ほどの騒ぎを聞きつけたのだろう。
男は素早く数を確認する。
ざっと五十匹…
男は今までゾンビと初めて遭遇した人間が決まって感じた、未知のものに対する恐怖と動揺を微塵も感じていなかった。
冷静沈着そのものだった。
男はバックパックの中身を確認する。
中にはナイフとタクティカルトマホーク、そしてボウガンが入っている。アサルトライフルは脱出時に何処かに落としたようだ。男は軽く舌打ちする。そして食料はー
ー無事だ。
男はナイフを取り出した。慣れた手つきでくるりと回すと、一番近くにいたゾンビに木の上から飛びかかる。
ゾンビは何が起こったかわからないー何か起こったかを把握しようとする脳がまだあればだがー間に脳天を貫かれた。男は全体重をかけて切り裂く。
ーまずは一匹。
二匹目と三匹目をナイフと取り出したトマホーク(手斧)で串刺しに。背後から襲ってきた四匹目は後ろ蹴りを食らった後、二匹目もろともナイフで貫かれた。
この間、わずか5秒。
ナイフが引き抜けなかったので、五匹目にトマホークを投げた後、男は六匹目の頭を掴みコンクリートの壁に叩きつけた。衝撃を吸収できなかった頭蓋骨は自らの脳を押し潰す。
ここまでに倒されたゾンビ達は、全て一撃で頭部を破壊されていた。
さらに十匹ほど増えていたが、男は怖気付きも、ヤケクソにもならなかった。
冷静沈着そのものだった。
実は主人公はジムだけではありません(`・∀・´)
もちろんロージーは違いますよ!