不穏な兆候
☆前回までのFAZseason1
夕食までそれぞれが思い思いの時間を過ごしたアレスチーム。
☆これまでの登場人物
・ジム・デッカードーアレス1
本作の主人公。元サラリーマンだったが、パンデミック発生から数日のうちに数多くの死地をくぐり抜けてきたため、ゾンビを恐れない。トレーニングを積むことで、わずか3ヶ月の間に身体つきもがっしりとし、筋肉がついた。体術を心得ており、また聴覚も鋭い。
サバイバーズハウスが立ち上げた対ゾンビ部隊RKTF(Re Kll Task Force)の少人数編成の分隊ファイアチーム・アレスのリーダー
・レイモンドーアレス2
ファイアチーム・アレスのサブリーダーを務める男。元はスタントマンだった。タクティカルソードを愛用。
・バルセロナーアレス3
ファイアチーム・アレスのサブリーダーを務める。異国人の気のいい男。レイモンドにあだ名をつけられ、以後アレス内ではこの呼ばれ方である。本名はアーロン。
武器はショットガン。
・ジョンソンーアレス4
ファイアチーム・アレスでは数少ない女性メンバー。
本来は無口なタイプだが、ルナのことは気にかけている。
アサルトライフルを常に持ち歩いている。
・ジェイソン(ホッケーマスク)ーアレス5
ジェイソンという本名を知ってレイモンドが命名した。かつてケインが使っていた火災用の万能斧が相棒。ファイアチーム・アレスに所属。
・マイクーアレス6
ファイアチーム・アレスの衛生兵
丁寧な口調で話す。
・ルナ
アレスが保護した少女。
里親が見つかるまでの間、ファイアチーム・アレスのメンバーが交代で世話をすることになった。
・総司令官/ケイン・キッカー
今作もう1人の主人公にしてサバイバーズハウスの司令官。
サバイバーズハウスを立ち上げ、わずか3ヶ月のうちに町中の生存者を集めた。その統率力は現在も変わらず、140名ほどのスタッフを能力にあった適切な部署に配置している。状況判断が的確で、頭の切れる男らしい。
・Q/クイン
リサーチチームの技術班のリーダー格で、主にRKTFやディフェンスチームに与える兵器開発に勤しんでいる。ジャクソンとは馬が合わないように見えるが、喧嘩するほど何とやら。
・ジャクソン
リサーチチームの研究班のリーダー格で、ウィルスの研究に勤しんでいる。Qとの口論が何よりの至福。
(2020年 12月25日 20:17 ニューリバティーシティ郊外 サバイバーズハウス)
「遅かったじゃないか」
ジムは走ってきた3人に声をかけた。
バルセロナがニカッと笑う。
「いやあ、嬢ちゃんがぐっすりと眠ってたもんで」
ルナが私じゃないと目で訴え、ジョンソンが睨む。「嘘言っちゃって、眠りこけてたのはあんたの方じゃない」
バルセロナが笑顔のまま凍る。
「急がないとジェイソンに全部食われちまうぞ」レイモンドがちゃかし、ジムがやれやれと首を振る。
「あいつ、仲間を待つってこと知らないのか」
「なんてたってゾンビ並みの食い意地だからな」
レイモンドが答える。
「でも俺ももう腹ペコですよ。早く行きましょう。」マイクの声に急かされつつ、一同は食堂へと向かう。
食堂もやはり木材と鉄筋、そして防水の布で作られているが、火を扱う厨房もセットになっているために、2回ほど火事が起きてからは鉄筋中心に補修された。
「おい、みんな遅かったじゃないか…お嬢さんも一緒か。こっち座るか?」
既に食べ始めていたジェイソンが手を振る。左手にはタンドリーチキンが。
「へえ、今日はインド料理か」
「おいレイモンド、物を食うときぐらいその手に下げたもん置いてこい」
「うるせえ、包丁も刀も同じ刃物だ」
「そんな理屈通ってたまるか」
「ちょっとバルセロナ、そこの皿とってよ」
「食い意地張ると美人が台無しだぞ?」
「あんたこそそんなに食べると太るわよ」
「君が太らないよう代わりに食べてやってるのさ」
「表出ろこのデカブツ!」
「ちょっと2人とも、子供の前で喧嘩しないでくださいよ!」
「おうマイク、その皿とってくれ」
「ちょっと、人の話聞いてるの!?」
「落ち着け落ち着け、ジョンソン、ルナに取り分けてやってくれ。野郎どもの食事のペースについて行かせるのはかわいそうだ。それとジェイソン、少しは遠慮しろ--」
「キャプテン、こいつ食べないならもらっとくぞー?」
「よせレイモンド!それ俺のデザート!」
「へへへ、こいつはもう俺のもんだぜ…あっおいよせお嬢ちゃ…あー…俺のカップケーキが…」
「元は俺のだこんちくしょう!」
「でも、ルナちゃんに食べられちゃあなんも言えないよなあキャプテン?」
なんてこった。俺の可愛い可愛いカップケーキちゃんが。
毎度毎度のことだが、アレスメンバーの食事はてんやわんやだ。
だがジムは、食事を仲間たちと共にすることで結束感が強くなると考えた。そしておそらくその効果はあったらしい。
それに人のカップケーキをつまみ食いできるほどルナの状態が落ち着いたのは思わぬ収穫だったとジムは内心で喜んだ。
バルセロナとジョンソンに任せて良かったかもしれない。
「ねえ、ジョンソン?」
ルナがまだバルセロナと言い争っていた彼女に話しかける。
「名前はなんていうの?ジョンソンって苗字でしょ?」
ああ、というようにジョンソンが頷く。
「アビゲイルよ。でもみんなからはそう呼ばれないけど」
名前で呼ぶと引っ叩かれるからさ、とナンをちぎりながら呟いたバルセロナをものすごい速さでぶっ叩きながら続ける。
「アビーって呼んで。」
ルナは笑顔で頷く。
はいアビー、調子はどう?とちゃかしたバルセロナにナイフを突き立てる。
もうこのコントにもなれたジム達他のメンバーは気にせず食べ続けるのだった。
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(2020年 12月28日 10:11 ニューリバティーシティ郊外 サバイバーズハウス)
「みんなこの前はよくやってくれた。リサーチチームの奴らも喜んでいたよ」
前回の任務、つまりルナと出会ってから3日が経った朝。
アレスチームの面々は司令本部に集まっていた。ただしバルセロナとジョンソンはジムに言われてルナと共に待機していた。
次の任務が始まるのだ。
「今回君たちに集まってもらったのは他でもない、ファイアチーム・エリスのことだ。君たちも薄々気づいているだろうが、彼らはもう3日帰って来ていない。」
そこで一旦区切り、ケインは続ける。
「最後に彼らから送られて来た連絡は81時間と30分前。それ以降通信は途絶えたままだ。
正直なところ、残る最後のファイアチームである君たちアレスには行かせたくないが、この任務に最適なのは君たちしか残っていない。
何故彼らの身に一体何が起きたのか、生存者がいるのかどうかを確かめて来てほしい。
今ファイアチームを二つとも無くしてしまうのはハウスにとって大きな痛手だ。
君たちをポセイドンの二の舞にはしたくない。任務の続行が困難、あるいは危険な場合はすぐにでも戻るか、救難用の信号弾を撃ち上げてくれ。場合によってはエリスを見捨てでも生きて戻ってこい。何か質問は?」
「彼らはどんな任務に?」
レイモンドがたずねる。
ケインが頷く。
「大規模パンデミックが起こったあの日、偶然にもグレートフォンデイション社の実験棟で火事が起こったのを覚えてるか?あの時消防士だった俺が所属してた消防署に消火要請が届き、俺を除いたほぼ全員が消火に向かい、そしてそのまま戻ってこなかった。
あそこには数十台の消防車が残されているはずだ。そのうちの何台かはまだ動かせると睨んだリサーチチームが、装甲車兼戦闘車両にすることを思いついた。その回収にエリスを向かわせたが、目的地に着いたことを知らせる連絡が来る前に音信不通になってしまった。
よって君たちには消防車のことはひとまず忘れてもらう。可能なら彼らを救出し、なんとしてでも生きて帰って来るんだ。」
「了解!」
アレスチームの声が重なる。
司令棟から出た後、ジムがみんなを集めた。
「さて、作戦会議に出てなかったからわかってるとは思うが、今回の任務にバルセロナとジョンソンは来ない。ルナはまだここに来て日が浅い。まずは一番彼女と打ち解けている2人に面倒を見てもらうことにした。」
一同が頷く。マイクがたずねる
「2人ぶんの戦闘員の補充はどうしますか?」
ジムが頷く。
「RKTFの待機チームから1人、既にひきぬいてある。みんなには紹介するまでもないな。ケイトだ。」
「ハイ、ジム」
弓を持ち、ポニーテールを揺らして彼女がジムの横に立つ。
ジムは少しだけケイトに微笑みかけ、その後話を続けた。
「彼女にはアレス7として参加してもらう。それともう1人、本来ならRKTFからエミールに来てもらうつもりだったが、運が悪いことに彼は体調不良だ。そこで今回は例外的にプロテクトチームから来たギャレットに入ってもらう。よろしくギャレット。」
「ああ、たまには現場にも出たいしな。それにラインハルトもからかってやれる」ジムと握手して、ギャレットがケイトの横に立つ。
ギャレットについてはみんな顔見知りだ。サバイバーズハウスを防衛しているディフェンスチームとの合同演習によく顔を合わせている。
本来ならチームリーダーという重要な役職についている彼だが、長い戦いの中で一番の友となったラインハルトが危ないと聞いてジムの頼みを二つ返事で承諾した。
「彼のコールサインはアレス8だ。バルセロナとジョンソンのアレス3、4は欠番として扱う。」
「いつものように、俺が死んだらレイモンドに指揮権を移行する。そうやすやすと死ぬつもりはないが、エリスは俺たちよりも優れた奴が指揮を取っていたんだ。みんな気を緩めるなよ。」
「了解」一同が口をそろえる。
それを見てジムは頷いた。
「2時間後に出発だ。朝食と装備の確認を済ませておけ。それとレイモンド、ジェイソン、飯を食ったら俺と一緒にリサーチドームに行くぞ。Qが俺たち用の新装備を開発したそうだ。では、解散!」
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(2020年 12月28日 13:30 ニューリバティーシティ郊外 サバイバーズハウス)
「よく来てくれた。では君たちに我が社の新製品をご紹介しよう。」
ジム、レイモンド、ジェイソンの3人はQとデスクを挟んで向かい合っていた。
「ガラクタを売りつけるのは良く無いぞ」
隣でフラスコを傾けているジャクソンが茶々を入れると、Qは睨みつけた。
「これらは君が研究してるものより数倍役に立つし、それに僕は金を要求したりしないぞ!」
「いいから、説明。」
ジェイソンがめんどくさそうに言った。
「ああ、ああ。ではまず君からにしよう。」
Qはそう言って筒のついたガントレットとスパイクのついた大柄な盾をデスクに置いた。
「これはパイルランスだ。トリガーを引けばガントレットについた筒から油圧式のパイル(杭)が飛び出すようになっている。そっちのシールドで敵を防ぎつつ、パイルランスを敵に打ち込めば攻守一体の攻撃ができる。サイズは君の腕に合わせてあるからすぐにでも使えるぞ。」
「壊れないといいがな。」
そう言いつつもジェイソンは新しい武器を手に取り確かめる。それを見てQは満足げに笑んだ。
「レイモンド、君の予備のタクティカルソードに改造を施した。グリップ性と刃自体の耐久性を上げてある。鞘には小ぶりのナイフを3本ほど追加した。」
レイモンドが刀を受け取り、ふた振りほどして頷いた。
「ジム。ハンドガンの威力を底上げしておいた。」
ジムは礼を言って受け取る。
「ほんとにいいのか?レンチだけじゃリーチも足りないし、ハンマーとか斧とかなら作れなくもないぞ?」Qが少しだけ不満そうに聞く。
「ああ、いいんだ。俺はこいつで。」
腰についたレンチを叩いてみせた。
それでもなお説得しようとするQをあとにリサーチドームを出たジム達は、他のアレスチームと合流する。
「よし、みんな準備はいいな。出動だ。」
アレスメンバーがトラックに乗り込んで行く。今回はジェイソンが運転する。
第2ゲートが開き、トラックは鉄でできた門をくぐる。後ろでゲートが閉まり、スタッフが乗組員名簿を持ってきて確認したのち、より外側にある第1ゲートが開く。
荷台に座ったジムは壁の銃座についている兵士に手を振る。彼らはジム達がゲート間にいる間に、第1ゲートのすぐ近くにいるゾンビを掃射し安全を確保してくれるのだ。
この壁を見るのもこれが最後かもしれない。ジムはそんな想いを振り払おうと前を向いた。
この道の先にあるのは地獄の街だ。
♢ファイアチーム・エリス
RKTFに所属するもう一つのファイアチーム。
一般人上がりが多いアレスに比べ、元警察官や機動隊、ボディーガードなどパンデミック以前から戦闘慣れしていたメンバーが多く、より危険な地域に派遣されることも多い。
リーダーは元特殊部隊所属のラインハルト。
・ケイト-アレス7
アーチェリー用の弓とポニーテールが特徴の女性。ジムとはパンデミック直後からの仲で、お互いに信頼を寄せている。
今回、RKTFの待機チームから新たに選ばれた補充メンバーとしてファイアチーム・アレスに参加する。
・ギャレット-(仮アレス8)
本来アレス8として補充されるはずだったRKTFのメンバーが参加できる状態ではなかったため、ディフェンスチームから例外的にアレスに参加することになった。本来はディフェンスチーム・リーダーである。元傭兵で、ラインハルトとは大親友。




