オアシス
☆前回までのFAZseason1
ゾンビ専門の特殊部隊RKTFのファイアチーム、アレスのメンバー達は街にいた少女、ルナを保護する。
☆これまでの登場人物
・ジム・デッカードーアレス1
本作の主人公。元サラリーマンだったが、パンデミック発生から数日のうちに数多くの死地をくぐり抜けてきたため、ゾンビを恐れない。トレーニングを積むことで、わずか3ヶ月の間に身体つきもがっしりとし、筋肉がついた。体術を心得ており、また聴覚も鋭い。
サバイバーズハウスが立ち上げた対ゾンビ部隊RKTF(Re Kll Task Force)の少人数編成の分隊ファイアチーム・アレスのリーダー
・レイモンドーアレス2
ファイアチーム・アレスのサブリーダーを務める男。元はスタントマンだった。タクティカルソードを愛用。
・バルセロナーアレス3
ファイアチーム・アレスのサブリーダーを務める。異国人の気のいい男。レイモンドにあだ名をつけられ、以後アレス内ではこの呼ばれ方である。本名はアーロン。
武器はショットガン。
・ジョンソンーアレス4
ファイアチーム・アレスでは数少ない女性メンバー。
無口なタイプで、アサルトライフルを常に持ち歩いている。
・ジェイソン(ホッケーマスク)ーアレス5
ジェイソンという本名を知ってレイモンドが命名した。かつて別の男が使っていた火災用の万能斧が相棒。ファイアチーム・アレスに所属。
・マイクーアレス6
ファイアチーム・アレスの衛生兵
丁寧な口調で話す。
・ルナ
アレスが保護した少女。
(2020年 12月25日 17:30 ニューリバティーシティ郊外 サバイバーズハウス)
突然の叫び声。大粒の雫。
ジムはシャワールームから顔を出した。
拠点には電力と水道がまだ生きている。
電力は彼らが自前で用意したものだったが、水道は--街と本国を繋ぐ橋をを封鎖し、俺たちをこの地獄に閉じ込めたくそったれ政府も、文字通りの生命線まで遮断する気は無いらしい。
さらに叫び声。
と言ってもゾンビのあの気味の悪い声では無い。少女、それもさっき拾った少女の声だ。
横を見ると、アレスメンバーの男達はジムと同じように顔だけ出して外を伺っていた。
見れば少女--ルナは作業服を着た女性スタッフに両腕を掴まれ、暴れていた。救出した時はかなり弱っていたように見えたが、マイクの手当やトラックの中での食事を食べておかげかだいぶ元気そうだ。
ほら、大丈夫だから、とジョンソンがルナに諭すように促す。その手は「woman」と書かれた看板がついた、ジムたちが占領しているのとは別のシャワールームを指差していた。
「大丈夫、この人たちはあなたのことを食べたりなんかしないわ。ちょっと体を流して、傷がないかどうかチェックするだけよ。」
しぶしぶなのか、ルナが暴れるのをやめた。
ジョンソンがスタッフに手を離すよう合図し、ルナの手を引っ張ってシャワールームの方へと向かう。
無理もない、とジムは思った。
拠点に感染した疑いのある生存者を入れるわけにはいかない。
RKTFやリサーチチーム、そして救出した生存者も、外から帰ってきた者には外と内がは両方にゲートがついた検問所で必ずシャワーを浴びてもらう。汚れや返り血を落とした後、同じ性別のスタッフが傷がないかをくまなくチェックし、それでようやく拠点の中に入れるのだ。
だがたとえ同性であっても、見ず知らずの防護服をつけた人間に身ぐるみを剥がされあちこち見られるのはその重要性を知り得ない少女にとって苦行でしかないだろう。
だがこの厳しい検査のおかげで、我らが拠点内でパンデミックが起こることを防げているのだ。
シャワールームから出た面々は、一列になって検査を受けた。
前にいたレイモンドが終わり、ジムも検査される。
「よおボブ、今日は俺たちの他にここを通ったか?」顔見知りの検査スタッフ--もちろんこちらは男だ--に話しかける。
「いや、今日はあんた達が初めてだ。…エリスが心配か?」
「ああ、まあちょっとな。」
ボブは笑い、力強い手でジムの肩を叩いた。
「大丈夫さ、RKTF中最強と呼ばれるやつが率いる部隊だ。きっとみんなをまとめて明日の朝にでも帰ってくるだろうよ。」
ジムも少し笑い、門兵に挨拶してゲートの内側へと入る。レイモンド達と共にジョンソンとルナを待つことにした。
ファイアチーム・エリスはRKTFが持つもう一つのファイアチームだ。
パンデミック発生の数日後、ジムはラインハルトと名乗る1人の特殊部隊兵、そして元傭兵のギャレットと出会い、その後ラインハルトと共にいくつもの死線を潜り抜けてきた。
一つ一つの作戦に対し、少数精鋭の部隊で戦うことで素早い行動を可能とする「ファイアチーム」を考案したのはラインハルトだった。エリスも彼が指揮をしている。
「物思いにふけってるわよ、キャプテン?」
気がつくとジョンソンとルナはシャワールームから出てきていた。
こんな生活をしていても髪の手入れを欠かさないのは流石女性といったところだろうか。
「ああ、すまない。ルナの様子はどうだ?」
「大丈夫、噛まれた後ももなかったし、怪我はなかったわ。あんなところで生活してたのが嘘に思えてくるぐらいにね。とは言えまだ怯えているし、両親については全く口に出さなかったわ。きっと逃げてる時に逸れてしまったか、あるいは…」
ジムはため息がちに頷いた。あるいは、もう「こちら」側ではないか。そういうことだろう。
「よし、ファイアチーム・アレスのみんな。今日はよくやった。レイモンドは俺と来い。バルセロナとジョンソンはリサーチ・チームに収穫品を渡してこい。ついでにルナにサバイバーズハウスの中を紹介して回ってくれるか。他の者は解散だ。」
バルセロナとジョンソンが頷いた。
「了解」
「…サバイバーズハウスって?」
ジムとレイモンドが行ってしまうと、ルナが知らない食べ物の名前を聞くかのように首をかしげた。
ジョンソンが説明する。
「ここのことよ。私たちの家、私たちのつかの間の安息の場。そして最後の砦。」
ジェイソンがレバーを引く。
長いこと油が刺されていないことを抗議するかのように軋んだ音を立て、重々しいゲートが開く。
ルナは息を呑んだ。ゲートの先には活気付いた人々が見える。双眼鏡や銃を携え、ゲートと連なる壁に上がって外を警戒している兵士たち。
市場まであるようだ。見ると所々に重機やクレーンといった建築機材も運び込まれている。
そして--
ゾンビの気配がなかった。死に埋め尽くされた外の世界とはまるで切り離されていた。
ただただ圧倒されるルナにバルセロナが笑いかけた。
「サバイバーズハウスにようこそ。」
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ジムとレイモンドは
鉄骨で組み立てられた指令棟に入った。
サバイバーズハウスという一大拠点が築き上げられていく中でも最初期に作られた建物ゆえに無骨で飾り気はないが、それでもきっちりと役目を果たしている。
「総司令、ファイアチーム・アレス、ただいま帰還しました。」
ジムが言った。レイモンドも横に並ぶ。
「ご苦労、報告を。」
地図から目を上げ、総司令官が応えた。
「例の設計図は元職員が言っていた場所にありました。狙いどうりです。」
ジムが報告する。
総司令は頷いた。
「これで拠点の設備も強化できるな。よくやった。」
「ですが問題も。帰還しようとしたところゾンビの大群と遭遇。今回は難を逃れましたが、あれほどの数が接近するまで索敵できなかったのはこれが初めてです。何かがおかしい。」
レイモンドが付け足す。
ジムも同調した。
「俺も感じました。奴らは今までの個体とは違う。目に見えた違和感はないものの、奴らの中に何かしらの変化があったように思えます。」
だが意外にも総司令は気に留めた様子を見せなかった。
「変化があったかどうかは私が判断する。他には?」
ジムは話した。
「ルナという少女をアレスの衛生兵が発見し、こちらで保護しました。両親の姿は見当たりませんでしたが、怪我はありません。」
総司令は少し考えた後、口を開いた。
「その子はしばらくの間RKTFで面倒を見てやってくれ。いずれハウスの住民の中から育て親になってもらう夫婦を探そう。あとは?」
「以上です。」
レイモンドが言った。
「よろしい、ご苦労だった。下がっていいぞ。良く休んで次の任務に備えてくれ。」
ジムとレイモンドは敬礼した。
レイモンドはそのままドアを開けて出て行った。
ジムも後に続こうとしたが、総司令に引き止められた。
「ああ、ジムは残ってくれ。話がある。」
レイモンドが自分を見る。先に行け、と目で合図する。
彼は頷き、ドアが閉まる。
「どうしました、総司令官殿。」
少しからかうようにジムは言った。
「よしてくれ、お前が組織運営の邪魔にならないよう配慮して総司令と呼んでくれるのには感謝してるが、2人だけの時は前のままでいいだろう?」
ジムは短く笑った。
「ああ、わかってるさケイン。だがだいぶ司令官の肩書きが似合ってきたんじゃないか?」
「そうなんども呼ばれれば誰だってそうなるさ、変わってくれるなら喜んで座を渡すけどな。」
総司令官--ケインがわざとしかめっ面をしてみせる。その目は久しぶりの気軽な会話を楽しんでいた。
だがすぐに真面目な顔に戻る。
「確かなのか?今までのゾンビ供と違ったと。」
ジムも自然と険しい表情になる。
「ああ、後少し気づくのが遅れれば今頃俺たちも奴らの仲間入りを果たしていただろうよ。だが俺たちも幾度となく作戦に出てる。奴らを見つける前にあのエリアは掃討していた。いたとしても廃墟に紛れた2、3匹程度だろう。本来なら、あれほどの数がいれば接近される前に索敵できたはずだ。」
そのための訓練も受けているし、とジムは付け足した。
ケインはため息をついた。
「ここまで三ヶ月、三ヶ月だ。決して順調とは言えなかったが、それでも1日また1日と生きながらえるだけじゃなく、ボロボロだった拠点を修復し、仲間を増やしてここまできたんだ。なのに今になって問題が次々と現れた。索敵から逃れるすべを学んだゾンビ、生存者の増加に対しての居住区の減少、未だにこない第二次救助隊。機械の故障か何かで本土に通信することもできない。ただでさえ厄介ごとは多い。それにこの2週間、前までは頻繁に投下されてた本土からの支給品ボックスも届いていない…設備を固めないとこれ以上持ち堪えることはできなくなるぞ。」
最初はほとんどがゾンビの餌食になっているとジム達は予想していたが、以外にもニューリバティで奴らから身を潜めていた生存者は多かったのだ。そういった生き残り達をかき集め、組み上げていったのが最初の拠点だった。次第に首都部じゃなかったぶん比較的感染拡大が緩やかだった郊外へと出向き、仲間を増やしていった。それと同時に、集まった仲間の様々なスキルを活かし拠点も拡大、今のサバイバーズハウスとなった。
だがハウスでの生活も、本土からの支給品に頼っている面が大きい。
今まで頻繁にパラシュートで投下されていた支給品ボックスには食料や水、その他様々な「サバイバルグッズ」が入っていた。
意外にも、食料の供給はハウスにいる人数だととても足りないし、水もまだ水道があるのであまり意味のないものだが、ハウス内では生産できないものがあった。
弾薬。銃火器があればゾンビに対し今より有利に立ち回れる。だがその弾薬は支給品ボックスから補給していた。
もう一つは医療品。彼らに襲いかかる病気はゾンビ由来のウィルスだけではない。ケガ人や病人が出た場合、こちらも支給品ボックスから得た医療品で対応していた。
だがその命綱とも言える支給品ボックスが、2週間ほど前からめっきり投下されなくなってしまった。理由は定かではないが、それを考えている余裕はハウスにはなかった。
弾薬は減り、それを上回る勢いで医療品も減っていった。拠点外の任務に就くRKTFとそのファイアチームでさえ、弾薬削減のため近接武器を好んで使う者が多い。いや、使わざるを得ないと言ったところか。
ジムは文句は言えないというように口を開いた。
「支給品に頼れないなら、ハウス内でなんとかするしかない。設備を増強しよう。」
ケインも頷く。
「こちらで考えておこう。よし、今日はお疲れ様。もう下がっていいぞ。」
その顔にはここ最近でできた深いシワが刻まれていた。
ジムは敬礼し、部屋を後にするのだった。
お待たせしました!次回は明日投稿です!




