探索の途中で
☆これまでの登場人物
・ジム・デッカード
本作の主人公。サラリーマン。街でゾンビに襲われていたところをケインに助けられる。武器は護身用に持っていたハンドガンと戦闘中に拾った大ぶりのレンチだったが、ハンドガンは弾が切れたため現在使用できない。
この異常事態のためか、短期間で聴覚が研ぎ澄まされている。
・ケイン・キック
本作もう1人の主人公。消防士。ジムを助け、以後2人で行動していたが、仲間が4人になった今実質のリーダー役を務める。状況判断が的確で、作戦の立案をしたり、トレーニングジム内のゾンビが異常に少ないことから生存者がいることに感づくなど頭の切れる男。武器は万能斧。
二手に分かれた際にジェフリーに彼を殺すよう頼まれる。
・ケイト
トレーニングジムの利用者で、アーチェリーを練習しにきていた。ポニーテールにした金髪と所持している弓が特徴の若い女性。
・フレッド
トレーニングジムの利用者で、ケイトとジェフリーの友達だったが、噛まれたあと感染し、ゾンビになった後、死亡する。
・ジェフリー
トレーニングジムの利用者で、筋肉質で人の良い男。ケイトやフレッドと同じくアーチェリーの選手だった。発症したフレッドともみ合いになり、屋上から突き落とすが、その際に噛まれ感染し、そのことをケインに伝え彼に殺された。
☆前回までのFAZ
トレーニングジム内部に侵入したジムとケインの2人は、弓を持った2人の男女、ジェフリーとケイトに出会う。2人はジェフリーとケイトと名乗り、トレーニングジムを4人で脱出するため、ケインとジェフリー、ジムとケイトのふたチームに別れて物資を補給すべく施設の探索を始めたが、ジェフリーはケインに自身が感染したことを告げ、自分の命を絶つよう彼に頼むのだった。
一方、ジムとケイトはそのことを知らず、探索を続けていた。
(2020年10月11日 00:06 ニューリバティシティ トレーニングジム)
物資補給のため、ケインとジェフリーのチームと二手に別れてからだいたい40分ほどだった。その間、ジムは役に立つものを見つけるべく施設内を探索するも、常に物思いにふけっていた。
ジェフリーはケインに何かを伝えるため、わざわざケインが言ったチーム編成ーチームといっても二手に分かれるだけだがーを変更させた。
新しい仲間であるケインをよく知りたいから同じチームになったと考えることもできる。が、ジムにはケイトに、もしくは自分にはなるべく聞かれたくない事案をケインに伝えたがってるように見えた。
それが何かはわからないが…
「…カードさん、デッカードさん?」
ケイトの呼びかけで我にかえる。
「あ、ああ、すまん。何か呼んだか?」
あわてて彼女に応える。
ケイトは心配そうにこちらを覗き込んだ。
「大丈夫?何か考え事してるようだったけど。」
ジムは首を振った。
「ああ、すこし注意を切らしてだけだよ。大丈夫。」
そう、ならいいけどとケイトは言い、話題を変えた。
「町の人達、もう私たちぐらいしか生き残ってないのかしら…」
それはジムも不安になっていたことだったが、彼女を不安にさせないよう言葉を選ぶ。
「それは俺にもわからない…だがきっと他にも運が良かった人達がいるさ。それに救助隊を編成してるとラジオで放送されていたし、明日、明後日にでも救出されるかもしれない。そう悲観しちゃいけないさ。」
ケイト自身に言い聞かせるように頷いた。
「ええ、きっとそうね。ごめんなさい、私、すこし疲れてるみたい」
「そうなるのも無理はないさ。こんな状況だからな。でもほら、悪いことばっかりじゃない。さっきみんなでとった夕食なんか、三つ星レストランも敵わないようなフルコースだっただろ?」
ジムは冗談めかして言った。
ケイトが笑う。
「三つ星レストランはメニューにニシンの缶詰なんて出さないけどね」
ジムは突然足を止めた。ケイトが怪訝な顔をしてこちらを見る。
「どうしたのデッカードさー」ケイトはそれ以上言う前にジムに口を塞がれた。動揺してもごもごと動くケイトにジムがささやく。
「静かに」
ケイトは動くのをやめた。2人はじっと立ち止まり、耳をすませる。
…………コツッ……コツッ
暗闇に紛れて前からこちらに近づいてくる何者かの足音が聞こえる。
…………コツッ…コツッ…コツッ…
最初のうち、ジムは一匹だと思っていた。4人が屋上にいた間に、また何匹かゾンビが建物に侵入したのだろうと。
彼の考えは甘かった。
こちらに近づくにつれ、最初に聞こえていた足音の他に混じって何かを引きずるような音やうめき声が増えて行く。次第に見えたその数は、10匹を超えていた。
「…ケイト、走れ。」
2人は元来た道へと走り出した。足はこちらの方が圧倒的に早い。すぐに足音が遠ざかる。
ケイトが通路の横にある部屋に入った。
「こっちよ!」
ジムもそこに入り、急いでドアを閉めた。
2人は肩で息をする。
これで一安心。
奴らが遠ざかるのを待つか、こちらの匂いが何かに気づいて扉に群がるようなら、この部屋から一旦外に出て外のはしごを伝って屋上に行けばいい。広い場所に出ればこちらも1匹ずつ戦える。
ジムもケイトもそれを分かった上で部屋に入ったが、見落としていた点が1つあった。
この部屋にもゾンビがいるかもしれない。
ジムがそれに気づいた時、すでに手遅れになりかけていた。
ケイトの後ろに腕が見えた。彼ー彼女かもしれないが判別がつかないーは腕を振り上げケイトに襲いかかる。
「ケイト、よけろ!」
よけろと言いつつジムは彼女を突き飛ばした。
間一髪でゾンビの腕はケイトの髪の毛をつかみ損ね、もはや棍棒に近いそれを壁にぶち当てた。それでもまだケイトの方に向かっていく。
ケイトは弓を構えようとしたが、まだ体勢が整っていない上にここでは狭すぎる。
ジムは素早くレンチを取り出し、それをゾンビの首に回して両端を掴む。そのままケイトから遠ざけ、ゾンビもろとも後ろに倒れこんだ。ボロボロになった虚ろな顔がこちらを向く。そのまま呻きながら噛み付こうとしてきた。
ジムは足でゾンビの腹を蹴り、横に転がす。そのままレンチを掴んでそれの頭を殴打した。
ゴッ、と言う鈍い音が3回ほど続いたあと、ゾンビは動かなくなった。
ジムは息をついた。
はっとしてケイトの方を振り向く。
無事だった。
彼は安堵した。
ケイトはまだ突然のことに呆然としながらも、礼を言った。
「ありがとう、、助かったわデッカードさん。まさか部屋にまでいるとは思わなかった…」
ジムは答えた。
「ああ。俺もすぐに確認するべきだった。これからは気をつけないとな。」
そのまま続けた。
「すこししたら探索を再開しよう。」
「ええ、そうしましょう。」
すこしの間、2人は休息をとった。先ほど遭遇したゾンビの大群は、2人を見失ったようだった。ドアの外は静かだった。
2人は歩き出した。
「…ケイト」
「なに、デッカードさん」
「ジムでいい。」
「わかったわ、ジム。」
2人は歩き続ける。
長い間更新できず申し訳ありませんでした。




